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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
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第94話 GIRLS TALK-不安にさせる人-

駅のホームに着くと、2人の姿が見えた。

「さーや!おっそい!」

「ごめんごめん……寝坊しちゃってさ。連絡すんの忘れてた……」

「寝坊!?まぁさーやっぽいけど……」

部活帰りでジャージ姿の夏姫が笑いながら怒る。

「んじゃ、とりあえず何か食べ行こー!お腹ペコペコだし」

私服の杏里がそう言った。

ちなみに杏里とは河野さんのこと。

いつまで経っても名字にさん付けはおかしいってことで呼び捨てにすることにしたんだ。

私たち3人は、夏休み中に起こったことを話しながらファミレスに向かった。


ひととおり注文を終わらせ、話題はもちろん……

「……で、最近大翔くんとはどうなの?」

……問答無用で、恋バナ。

「えっと……うーんと……まぁ、ぼちぼち」

「なんじゃそりゃっ!なんかあるっしょー?ほら、デートしたとかキスしたとか……」

「キ……!?」

頭の中を、海宮祭りでの一件がよぎる。

……うわヤバい。なんか顔があつい。

「……おおっ、ついに!?」

「キャー!やったじゃんさーや!」

何も言ってないけど、顔の火照りから悟られたらしい。

火照り冷ましをかねて、水の入ったグラスを頬に当てた。

「で、いつ!?いつ!?」

「……海宮花火見てるとき……かな。緊張しすぎて花火とか見てる場合じゃなかったけど……」

「へぇー!すっごいロマンチックじゃん!」

ロマンチストな杏里は笑顔でそう言うが……夏姫はなぜか、神妙な顔つきをしている。

どうしたの?って聞いてみると……

「ねぇさーや、海宮祭りっていつだったっけ?」

「え?んーっと……7月初旬?」

「今何月?」

「8月中旬……」

「ってことは……もう1ヵ月以上キスしてないの!?大翔くんと!!!」

「ちょっ、夏姫、声でかいよ!」

いきなり出した大声で、周りの視線が一気に集まる。

あ、確かにそっか、と杏里も言った。

「……だってしょうがないじゃん……一応私受験生だし、塾ばっかだし……今だって、貴重な空き時間抜け出して来てるんだよ?」

今通ってる塾は、夏期の短期特別コース。午前8時から夜9時まで、(お昼休憩や休み時間除く)10時間みっちりフルコース。まる1日の休みもない。

……塾講師さんに申し訳ない気分になる。

ちなみに空き時間というのは、3日に1回ある小論文や面接対策の時間。主にAO入試を受ける人がやってて、一般入試を受ける予定の私には無縁なもの。

この空き時間だけは、ショッピングに行ったり映画を観たりしている。それか自習。

……これが、ここ最近の毎日。

「まぁそっか……さーやは国立ギリギリだもんね。もしくはギリ以下だもんね」

「あの、杏里さん……結構刺さるよ?その言葉……」

でも、そのみっちりフルコースのおかげで多少は学力が上がってきている今日この頃だ。

「でもさ、大翔くんって2年生でしょ?2年生といったら……部活に遊び、勉強は二の次って学年じゃん。さーやが塾で忙しいってことに安心して、他の女の子に目移りしちゃうかもよ?」

「なっ……あ、蒼井君はしないもん……浮気なんか……」

「いやいや、バスケ部って結構いい子いるって聞くよ?2年でいちばん可愛いっていうカナちゃんとか、めーっちゃ胸デカいエミリちゃんとか、さーやに引けをとらない美人のナナちゃんとか……」

「それに、“あの”蒼井様じゃん。さーやがいるっていったって、告る子は後を絶たないと思うなー」

……なんか、だんだん不安になってきたんだけど……

確かに、バスケ部女子はかわいいってことで有名。

同学年でもそうだし、下学年でもきっとそうだ。

しかも、蒼井君は優しくてめっちゃいい人で……付き合ってから、一層そう思うようになった。

だから、きっと私には言わないだけでいっぱい告られたりしてるんだろう。

疑うなんて最低なことだと思うけど……やっぱり、不安にならずにはいられない。

「……って、おーい?さーや?」

「……あ、うん。なに?」

「ごめん、ちょっと言い過ぎたかも……別に、他の子と一緒にいるとこ見たわけじゃないし、あくまで予想だからあんまり深く考えないでね?」

「ん……分かった」

そう言うと、力なく笑った。


それから、いろんな話をした。(まぁ主に夏姫ののろけ話だけど……)

そして新事実が……なんと杏里に彼氏ができたみたい。

杏里のことだから、きっとイケメンを仕留めたんだろうな……と予想しつつ、今度紹介するって約束もした。

あっという間に2時間が過ぎて……海宮駅。

「んじゃさーや、塾がんばってね!」

「バイバーイ!」

改札で2人と分かれて……1人、電車の中。

そして、電車に揺られて……東野駅。そして塾。

それからは、いつもの塾時間サイクル……


―――この中に、蒼井君がいたらな……


そう思えて、やまなかった。


―――……

「おつかれーさーや!バイバーイ!」

「ん、バイバイ」

「さーやおつー」

「じゃーねさーや!」

塾で出来た、元同中の子が続々と帰ってゆく。

中学生のころ、友だちという友だちがいなかったけど……雰囲気が丸くなったせいなのか、いろんな同中の子が話しかけてきてくれて、友だちがめっちゃ増えた。

……それだけは、嬉しいことだな。

「さてと……私も帰るか」

また明日から、同じ10時間サイクルが待っている……

でも、それもあと5日だ。

それと同時に、後期補習が始まるまであと5日ってことになるんだけど……


「よーっす、杉浦!」

「……へ?」

荷物を持って、出口に行こうとする途中……たむろっていた男子3人組のうち1人に声をかけられた。

「えーっと……誰?」

「覚えてねーの?同中の秋田だよ!」

「はぁ……全然」

「まぁしゃーないか。1回も同じクラスになったことなかったしな」

1人は茶髪、もう1人はすんごい腰パン、そしてもう1人はピアス……

なんかガラ悪いなぁ……きっと、成績悪すぎて親に無理矢理塾に入れさせられたヤカラなんだろう。

無視して通り過ぎようとしたが、「おいおいおい」と止められた。

「無視すかー?数年ぶりの再会なのにー」

「だから知らないっつの……それに親来てるし……」

「ウソだ。いつもあんたが乗ってる黒のオープンカーないし」

窓から駐車場を見る。

いつも「夜遅いから」と、帰りはお母さんに迎えに来てもらってるが……今日に限って来ていない。

……でもなんでオープンカーで迎えに来てもらっているというのをコイツ等は知ってるんだろうか。

「なぁ、親来るまで俺らと遊ばね?ぶっちゃけあんたに興味あんだよね俺ら。ほら、超美人になってるし?」

「は?やだよ。誰がアンタ等なんかと……」

「いーからさ!ちょこっとカラオケでも……」

そう言って、1人が私の手首をつかむ。

振りほどこうとしても、勉強で疲れたせいか全然力が入らない。

それに……まだ蒼井君のことがひっかかってるんだ。

あぁもう……なんか、全てが上手くいかないような気がしてくる……

自然と、頭は下向きになってしまった。目にはなぜか、涙が溜まり始めている。


……その時、誰かの手によって、私の掴まれていた手首が放たれた。

そして、私の手を握る。

「んだよテメェ、誰だ!?」

ギャンギャンわめく3人相手に、その人はこう言った。


「うるせーな……沙彩の彼氏だよ」


……え?

顔を上げると、その人は「行くぞ」と言って私の手を引っぱった。

「ちぇっ、男いんのかよ。マジ萎えるわ」

そんな声を背に受ける、その後姿は……紛れもなく、その人だった。

私を不安にさせてやまない、蒼井君だった。



無言が続いて、気がつくと家の近くまで来ていた。

その間も、ずっと手はしっかり握られたままで……

「なかなか出てこないから心配になって入ったけど……誰?あの人たち。もしかして知り合いだった?」

「同中の人……全然覚えてないけど…………でも、どうして蒼井君が?」

「杉浦刑事から電話もらったんだよ。「急なヤマが入ってきて、迎えにいけないから沙彩迎えに行って」って。その後泊りがけで現場検証するんだって。なんかすごく急いでたみたいだけど……」

「そっか……」

……すごく、嬉しかった。

あの時、まるでネガティヴのどん底から救われたように……

……救ってくれたのは、隣にいる私を不安にさせてやまない……言い換えれば、恋しく思ってやまない、愛しい愛しい人。

横顔を見てると、なぜか胸の奥が熱くなる。

「夕飯のことも頼まれちゃってさ。丁度俺も飯食ってないし、どっか食べ行こ。どこがい……」

そう言って、私の方を見た蒼井君の声が止まった。

……私が、手を引っぱって背伸びして……心の動くままに彼にキスをしたからだ。

「よかったらでいいんだけど……今日、泊まってくれないかな」

……ハタから見たら、すごいお願いをしているかのように聞こえるかもしれない。

でも、私は……素直に、もっと蒼井君と一緒にいたいなって思ったんだ。




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