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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
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第92話 ひと夏めぐり3

あれは……昨日、見た夢。


―――……


場所は、とある神社だった。

『わーっ!すごーい!!夜なのにお空がキラキラしてる!』

『ねー、キレイねー』

白いワンピースを着た女の人と、抱っこされてる4歳か5歳ぐらいの男の子。

覚えてないけど……なんとなく分かった。

これは、母さんと俺だって。

そして、2人と距離を置いて花火を見ている白衣の男性。

神社に白衣、というアウェイな出で立ち……俺の、知らない方の父親だろうか。

白衣というと……医者か科学者?はたまた塾講師か?

とにかく、ハタから見たら父親が少し変わっている家族に見えるだろう。

でも……なんでかな。ある意味では第三者の俺には、かなり訳アリに見える。

『おとーさんもこっちおいでよ!そこ、木ばっかりで全然見えないよー?』

『大翔、お父さん、夜勤で疲れてるの。あんまりしつこく言うと怒られるわよ?』

『えーっ?いつも怒ってるじゃん!』

そう俺が言うと、母さんはひどく困惑した表情になって……ちらっと、父さんの方を見る。

父さんはメガネをかけていて無表情。表情筋は、ピクリとも動かなかった。

でも……だからこそか、少し悲しげ。

そんな表情のまま、こちらに向かってくる。

『……ごめんな、大翔。こんな父さんで』

俺の手を握り、そう言った。

『新しい父さんになったら、いっぱい遊んでもらいなさい』

『え?なになに?おとーさん、どーいう意味?』

そして……俺の手を離し、神社の境内から消えていった。

『おとーさん、お仕事かな?はなび嫌いなのかな?』

『あっ、ほら、見てみて!大翔の大好きな青色の花火があがってる』

『ほんとだーっ!!』

俺と母さんは、花火が全て打ちあがるまでそこにいた。


……あ、なんとなく思い出した。

この日以来、“お父さん”は、俺の前に二度と姿を現さなくなったんだ……


―――……


「へー、こんなとこに神社ってあったんだー……」

隣にいる沙彩先輩は辺りを見回しながらそう呟く。

広い境内に高くそびえる神木。雑木林はちゃんと手入れされてあって見苦しくない。

神主はいなさそうだけど、放ったらかしではない神社……

「蒼井君、こんなとこに神社あるって知ってたんだ?」

「……ああ、うん」

夢のまんまだ、何もかも。

……何故か俺は、自然と夢の話を先輩にしようと思えてきた。

「……いや、違う」

「え?違うって?」

「ここ、俺が昨日の夜、寝てるときに見た夢の場所。打ち上げ花火があがってて、めっちゃキレイで……どこにあるかは分かんなかったけど、あの花火だけは海宮花火だ、って思ったんだ。なぜか」

「へぇ……その、蒼井君の夢の中では、誰と花火見てたの?」

「4歳ぐらいの俺と、俺の実の両親。……まぁ正確に言うと、父親が俺の前に現れた最後の日の記憶かな。その日以来会ってないから……きっと離婚でもしたと思う。それだけは思い出したけど……父親がどんな人間だったかはどうしても思い出せない」

そこにあった石垣に座り、壁に背をつける。

頭の中には、あの夢の映像がフラッシュバックしていた。

「……蒼井君のお父さんだもん。きっとすごい人だよ」

「すごい人……か。まぁ、医者だったらしいけど」

「それだけじゃなくって、人間的にもすごい人だと思うよ?」

「……どーかな」

さりげなく、俺のことを褒めてくれているような気がした。

でも実際……どーだろな。俺の人間性なんて、高が知れてるだろう。


突然、強い風が吹いて木々がざわめいた。

「うっわ、強い風……髪ぐちゃぐちゃになっちゃった」

先輩はそう言って、サイドでひとまとめにしていた髪をほどく。

……そこで、やっと気づいた。

「あ、誕生日にあげたネックレス、つけてくれてる」

「……やっと気づいたか……いつ気づいてくれるか、ずっとソワソワしてたのに」

苦笑する彼女の胸元で、シルバーのティアラが輝く。

「やっぱ似合うね、すごく」

「……ありがと」

そう言って、可愛らしくはにかんだ。

「でも……慣れないアクセ使っちゃったもんだから、髪がネックレスに絡まっちゃったみたいでさ……」

「あ、ほんとだ」

先輩の両手は、後ろの首筋をまどろっこしく動いている。

その手を制して、チェーンに絡まったダークブラウンの髪を外して、手グシで整えた。

「……ん、これで大丈夫」

そう言って沙彩先輩の顔を見ると……月光が、赤く染まった頬を照らしていた。

「あ、髪ちょっと引っ張ったから痛かった?」

「い、いや……男の人に髪とか首とか触られるのってあんま慣れなくって……」

手の甲を頬に当てて、そう言って照れくさそうに笑ってて……

……それがすっごい可愛く見えて……おかしくなりそうだった。

……いや、もうおかしくなったのかもしれない。

これが……理性ロゴスを失う、ってことなのかな。


「……蒼井君?」

彼女の瞳に、声に、引き寄せられるように近づく。

……もしかしたら、俺がその瞳をとらえているんだろうか。

そっと、彼女の顎に手を添える。

「……キス、していいですか?」

……声は聞こえなかったけど……代わりに、その目はゆっくり閉じていって……


花火が遠い遠い、はるか彼方で打ちあがる音を聞きながら、俺たちは初めて唇を重ねた。




―――夢に出るようなずっと昔に、俺は実の父親と、ここで別れた。

……だからかな。あの、すごく動悸が高まった数秒間の中でひたすら思ったのは……


“離れたくない”


それだけだった。


でも……いつかは必ず、俺たちは離れてしまう。

何キロも……もしかしたら何千キロも、はたまた何万キロも。

それが、“体”の距離だったら……まだ、ずっとマシだ。

“心”が何万キロも、何億キロも離れてしまったら……どうなってしまうだろう。


せめて、“心”だけは、ずっと一緒にいれますように。

そう願った、夏の日だった。




すんごい更新遅くなってすみません……m(_ _)m

一応ひと夏めぐりシリーズは完結となります。

次回の更新は、運がよければ6月中旬、それを逃したら7月中旬となりそうです(汗)

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