第8話 リボン3人組
世界史、数学、古典、現代……3時間みっちりとテスト漬け。
期末よりも問題量少なくて助かったけど……難易度は期末とほぼ一緒だった。
「づ、づがれだ……」
12時のチャイムとともにテストが終わり、燃え尽きた私は机に伏せる。
「やっぱ3時間はキツい……」
蒼井君も机に伏せる。
多分今、5分の4の生徒が机に突っ伏してるだろう……
その間、先生が手際よく解答用紙を集めた。
「あと1時間後にテスト結果出るだってぇ〜!」
桃花が近づいてきて、そう言ったのが分かった。
今日やった分の点数を全部足して、教科数で割って……と、平均点で運命が決まるらしい。
たとえば日本史が50点、古典が30点、数学が60点だったら、140点÷3教科で46点……みたいな。
今学校にいる先生が総動員でこの作業をするらしい。
「桃花、どうだった?」
「あ〜も〜全然ダメ!終わった〜ってカンジ!!夏休みが消えちゃった〜的なっ!うへへへ〜」
本当に終わりなのか、桃花のテンションがおかしい。
「まっ、いいのさっ!桃イコール補習で!にゃははは!んじゃあ桃はミュウミュウ(黒ギャルのあだ名)のとこ行ってくるねぇ!バァ〜イ!」
……誰にも止めれそうにないです。
ていうか、あと1時間か……なんか頭使って、お腹空いた。
「あ、あのっ、杉浦先輩……ですよね??」
「ん?」
後ろから声をかけられ、振り向く。
そこには頭にリボンつけた小さい子が3人いた。
名札が白……1年生かな?
「キャー!間近で見ても超美人〜っ!」
「私たち、杉浦先輩のファンなんです!」
……なんか、騒がれてます。
前に蒼井君が言ってたっけ。杉浦先輩有名ですよ、って。
「あ、そりゃどーも……」
なんか妙に照れて、頭の後ろを掻く。
「キャーッ!カッコい〜!」
ど、どこがぁ!?
あまりものオーバーリアクションに唖然としてたら……近くで、ガタッて音がした。
蒼井君が立ち上がった音。
「どーしたの?」
「……俺、ちょっと購買行ってくる……」
ひきつり笑いを浮かべ、蒼井君はその場を離れるような体勢をした……が。
「え?蒼井って……もしかして、大翔なの?」
キャーキャー騒いでた1年リボンA(勝手につけたあだ名)が、蒼井君を呼び止める。
「うっそぉ!全然気づかなかった〜!髪型変わってるし!あ、もしかしてその髪……」
「咲良!ちょっと……」
と、蒼井君は1年リボンA……もとい、咲良ちゃんの手を掴み、ダッシュでその場を去った。
私はその後姿を、ずっと見てた。
……もしかして、あの咲良って子が……?
「あの男の子が大翔君ってゆーんだぁ!」
「カッコいい〜!」
1年リボンBとCが大声を上げる。
それよりも……蒼井君と咲良ちゃんの行方が、どうしても気になる。
「杉浦先輩?どしたんですか?」
「え?あ〜……お腹空いたな〜って……」
咄嗟の言い訳で、気を紛らわせた。
「あ、だったら一緒に購買行きませんかっ!?」
Bからの提案に、
「うん」
そう言って笑うと、BとCの目はハート型になっていた……
購買に行く途中聞くと、Bの名前は萩本優希。Cの名前は春野李流。咲良ちゃんの名字は西院という、少し変わった名字らしい。西院咲良……か。
「咲良、いつも「元彼の大翔っていう人が〜」って、元彼の話ばっかしてたんですよ〜!」
優希ちゃんが、パンを口に入れながら話す。
「だから、その大翔って人、一度見てみたかったんです!今日初めて見たけど……ギザカッコヨス!でした!」
そう言う李流ちゃんは「ダイエットしてるんでっ」と言って、何も食べていない。
「蒼井君、1学期から1回も学校来なかったから……知らないわけだね。優希ちゃんも李流ちゃんも。」
「はい!違うクラスだったから、学校来てないってことも知りませんでした!」
「李流も〜!」
大翔君の存在は1学年全員に確認されてないらしい……
2学期からは、優希ちゃんや李流ちゃんもこれだけキャーキャー言うんだから……絶対1年女子全員も歓声をあげるだろうな……と、想像した。
まるで、少女漫画に絶対1人は出てくる王子キャラ。
「咲良、大翔君と何してんだろ〜?」
「もしかして、もう1度告ってるとか!?」
「もしそれでくっついちゃったら、どうする!?」
そんな話を聞いて……なんでか、ズキッと来る。
しつこくメールするくらいだ。咲良ちゃんは、蒼井君にアタックしてるだろう、今頃……
「……あっ、もうすぐ1時だ!ホール戻ろっと。」
ズキズキする心から逃げるため、その場を立ち上がる。
私に続いて、優希ちゃんと李流ちゃんが立ち上がった。
大ホールに着く。……蒼井君は、まだいない。
「咲良いないなぁ〜。遅いなぁ〜……」
「何やってるのかな〜……」
次々に言う優希ちゃんと李流ちゃん。
平静を装って、私は頬杖をついた。
「お〜い、席着けぇ〜!」
巨大先生がホールに入って、優希ちゃんと李流ちゃんは「それじゃ杉浦先輩、失礼しますっ!」と元気よく言って、それぞれの席へと帰って行った。
「ん?蒼井と西院がいねーなー。どこ行ったんだぁ〜?」
と、しばし辺りを見回す巨大先生。
……そう。まだあの2人は帰ってきてない。
「まぁいっか。成績表渡すから、3−Aから出席順に並べ〜!」
3年生が続々と立つ。そして並んでる間……蒼井君がホールに入ってきた。
「……セーフ、ですか?」
ちょっと息切れした様子で、辺りを見回す蒼井君。
「うん」
私の言葉に、蒼井君は安堵した表情をした。
蒼井君は帰ってきた……けど、咲良ちゃんがいない。
「咲良ちゃんは?」
「あ……と、帰りました。」
少々困惑してる蒼井君。何があったんだろう……?
「咲良ちゃんに、何て言われたの?」
「……別に、大したことは……」
わ。うまく話を逸らしたな、蒼井君……
それ以上は、何も聞かなかった。
そして、やって来た成績表。
ドキドキしながら、開く。
日本史70点。
数学60点。
古典80点。
現代90点……
そして、平均。
「78.5点……」
よ、よっしゃ!
無意識のうちに、ガッツポーズを作る。
「補習免除、ですね」
覗き見してたらしい蒼井君が、笑顔でそう言った。
「うん!」
私も負けじと、笑顔を見せた。
「よし、みんな座れ!」
先生の号令で、バラバラに散らばってた生徒が席に座る。
「今回、補習継続者40人!補習免除者24人!補習免除者はひとまずご苦労だった。継続者は今より更に勉強するように!」
40人の人……マジでどんまいです。
ちなみに蒼井君は……ただ成績表を見て笑顔になってただけで、点数は分からない。
「ちなみに、今回全教科満点を取った人がいる!1年の蒼井大翔!これには教職員全員が驚いてた!続けるよーに!以上、解散っ!」
え……マジで?
ビックリして、蒼井君を見る。
「唖然とさせましたよ」
そう言って、笑った。
「凄いねぇ、蒼井君は……」
帰り道。しみじみと言う。
「別に、凄くないですよ?」
なんて言う蒼井君の表情には、嬉しさが窺える。
……謙虚なのか、どうなのか……
「ほんとほんと……天才だよ大翔君は……」
一緒にいる桃花は、疲れ切った表情だ。
どうやら、平均点が45点だったらしく、補習継続になったらしい。
ちなみに咲良ちゃんは、優希ちゃんや李流ちゃんによると補習免除になったらしい。そして、優希ちゃんも李流ちゃんも。
あの3人組とは、ひとまずお別れ……かな?
しみじみとそんなことを考えてると……
「あ、さーや!」
前方から、夏姫がやって来た。
「あ、夏姫。久しぶり。またたっくんとデート?」
「大当たりぃ〜!」
白ワンピにGジャン、白ミュール。白帽子に白バッグ……半分漂白された夏姫が、ピースサインをする。
「って、この黒ギャル誰〜?」
隠れズバズバ言うタイプの夏姫は、桃花を見て不思議そうな顔をする。
「林桃花だよん!1年の時一緒だった!」
「えぇ!?桃花ちゃん!?うそ〜……」
と、漂白時代の桃花しか知らない夏姫は、口をあんぐりさせてた……
桃花と別れ、電車に乗る。
でっかい車内広告があった。
「海宮花火……?」
綺麗な花火の周りに、そんな文字。
「あ、去年、さーやが寝込んで行かなかったやつだぁ!」
……ああ、そんなこともあったっけ。
去年、夏姫と唯と私とで海宮花火に行く約束してたんだけど……珍しく夏風邪ひいちゃったんだっけ。
「今年は行こーよ、さーや!」
「うん。でも……唯とは無理……」
「え、そうなんだ〜。ケンカ?まぁいいけど……そうだっ!さーやの彼氏も行こーよ!」
……はい?
ボーっとしてた蒼井君が、夏姫を驚いて見る。
「彼氏って……蒼井君のこと?」
「へぇ、蒼井君っていうんだねぇこの子!めっちゃ綺麗!まぁさーやの彼氏だから常識かぁ〜!」
「いや、彼氏じゃないって……」
ていうか蒼井君……なんか言おうよ!
「あ、そうなんだ?つまんなぁい!」
「いいですね、花火。俺も行きたいです」
笑みを見せながら言う蒼井君。夏姫はノックアウトされてる。
あ、蒼井君、先輩キラー……?
「んじゃ決まりぃ〜!たっくんも誘うから、男1人じゃないしね!」
どうやら、夏姫の彼氏……たっくんもいくっぽい。
夏休み、最初の思い出が作れそう……です。