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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
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第86話 Gメン

あれっきり、斉藤美希の姿は現れなかった。

「ごめんね沙彩。いくら調べても捕まらないの」

「……なんで?」

着替えを持ってきたお母さんが、重々しくそう言う。

「名前や住所、電話番号、その他もろもろの個人情報をすべて抹消していたり改めていたりしていたら……特定は難しいわね」

「抹消……」

「あと、現場検証してみても、何も見つからなかった。髪の毛、指紋……どれもこれも、綺麗さっぱりなかったわ。ルミノール反応であなたの血液が分かっただけ」

そんなに手を回してまで、なぜ私を……?

それが、いちばんの疑問だった。

それに、“あの人”の意味。そして、斉藤美希という名を耳にした途端……なんで蒼井君や咲良ちゃんは一瞬固まったのか。

「でもね、沙彩みたいな傷害事件の被害者はたくさんいるの。全員、沙彩と同年代ぐらいの女の子。そして、容疑者も沙彩と同年代ぐらいの人たちだわ」

パッと、咲良ちゃんの顔が浮かぶ。

去年、3年生のギャル……いや、ヤンキー5人に暴行を加えられて、一時的に記憶を失うほどの大怪我を負ったことも浮かんだ。

「そして、キーパーソンが2人……蒼井大翔と斉藤美希、なのよ」

……え?

「なんで蒼井君?」

「被害者は全員、当時蒼井大翔と付き合ってたの。そして、容疑者は口々に「斉藤美希から命令されました」って言うわけ。でも、その斉藤美希のしっぽは掴めない……全く、悩ませてくれるわよ、彼女には」

「いや……でも、なんで蒼井君?」

「さぁ……その蒼井大翔と斉藤美希の因果関係が全く分からないの。蒼井大翔は父親からの……」

そこまで言って、お母さんは口をつぐむ。

「え?父親からの?」

「なんでもないわ。えっと、多少人とは違う特殊な面もあるけど、いわゆる普通の男子高校生。斉藤美希は前科がたくさんある謎の犯罪者……」

ってことで、と言って、お母さんは私の肩をつかむ。

「母親としては、もちろんどちらを選んでもいいわ。蒼井君は、私の目から見てもとてもいい子だもの……でも、検察官としては、蒼井大翔とこれ以上関係を続けるのは、勧めない。斉藤美希から、今回以上の危害を加えられるかもしれないから」

さすがに今回みたいに、学校内じゃ……私たちの目も行き届かない。

お母さんはそう続けて、肩から手を離した。

「どうするかは、また日を改めて……」

「……分かった」

もう、考えは決まっている。

私は……――この恋を、手離したりなんかしない。

「また襲われたとしても、全力で戦う。そして、斉藤美希のしっぽを必ず掴む」

「……そう。蒼井君と、離れないわけね」

そう聞かれて、静かに頷いた。


それから数日後、手や向精神薬摂取に対する治療も済み、無事に退院した。

向精神薬摂取……あの時、斉藤美希からもらったスポーツドリンクの中に、睡眠薬が入っていたらしい。

何はともあれ……まず、ノート写しから始まり、クラスマッチ後からすぐ中間だったからテストを受け……見事撃沈したけど、平常点からも加点されるから助かった。

勉強の方をパッパと片付けてから……

「まず、やっぱポスターとか?」

「いやいや、今の時代個人情報載せるのは危険でしょ」

「じゃあ、聞き込み?」

「アリだけど……私らが1年のときの声楽部の元部長でしょ?あんま人脈なさそうだなー……」

「そういえば、斉藤美希の通う大学とか……」

「あっ、それだ!でも偽名遣ってるかもしれないし……」

蒼井君の家のリビングで、私、蒼井君、夏姫、たっくん、河野さんが集まり、いろいろと作戦を練った。

出た案は、さまざま。

ポスター、聞き込み、大学……

……大学?

「それだっ!」

あるアイデアを思い出し、バッと立ち上がった。

「大学見学ってことで潜入して、斉藤美希を捜せばいいじゃん!」

「あー、なるほどー!それなら見つかりそう!」

「でも講義とってなかったりしたらダメじゃん。それに、大学って思ったよりすっごい広いんだよ?」

「……まぁ、そこんところは運の問題だけど……」

でも、行動しないよりかはマシ……だよね?

「んじゃあ、もうそれしかねーじゃん。明日あたりにでもとっとと潜入してしっぽ掴んで……」

「待って。私らだけじゃあ、簡単に逃げられちゃう」

話を進めようとするたっくんを止めた。

「あとは、私が予定組むから、後日よろしく!」

「うーん……まぁ、さーやなら大丈夫だよね!予定任せたよっ!」

よし、思い立ったが吉日……早速行動に移そう。

リビングを出て、玄関へ向かう。

「沙彩先輩」

「ん?なーに?」

「俺もついてく」

靴を履いている途中、蒼井君に背中から声をかけられ……そんなことを言われた。

振り向くと、蒼井君はジャンパーを着ている途中だった。

「先輩のことだから、“思い立ったが吉日”とかなんとか考えて今日予定組む気でしょ?」

「……大正解。さすが私の相棒!」

「って……俺、亀○薫?」

「いや、今は神○尊でしょ」

そんなやりとりをしながら、蒼井家を出た。


―――……


某日。私と夏姫とたっくん、蒼井君と河野さんの2班に分かれて海宮市駅に集まった。

「キー大学は2つ」

ちなみに、私と蒼井君が分かれたのは、実物の特徴をしっかりおさえているからだ。

「まず1つは、ご存知海宮大学。こっから2駅下ったところにある、最も身近な大学。んで、2つ目は東ノ橋大」

「え?なんで東橋?」

夏姫から、質問が飛んできた。

ムリもない……こっから上り方面に7駅近く離れている。

「斉藤美希と会った日、私と蒼井君は下り線の列車で海宮カイグウに着き、10分少々後に彼女とバッタリ出くわしたんだ」

「あの時間の下り線の次、15分で次の下り線列車が来る。でも、斉藤美希はあまり慌てている様子もなく、余裕そうに歩いてて……それで、15分後の下り線の次に来る、さらに30分後の上り線に乗ると見たんだ。あ、海宮大学をキーにしたのは、午後から授業をとってる可能性もあると見たから」

蒼井君は、時刻表を見ながら淡々と言う。

「斉藤先輩は学年トップクラスの成績。東ノ橋大は偏差値トップクラスの大学……キーにするには妥当だと思わない?」

一同、あーっと言って納得した。

ちなみに海宮大学も結構レベルが高い。

「そんじゃあ、私たちは海宮大。蒼井君たちは東ノ橋大……だよね?」

突然の付加疑問。多少張り詰めていた空気が緩む。

「そーだよ沙彩先輩……この期に及んで確認?」

「いや、なんか肝心なとこ間違えそうな気がしてさ」

ハハハッと笑いながら、みんな切符を買いに並んだ。

上り線切符と下り線切符は隣同士の機械で売っている。丁度隣に来た蒼井君の袖を引っ張った。

「……確率的には、東ノ橋大にいる可能性が高いから、万一見つかった場合には絶対私に連絡ちょうだいね。もちろん、“ボス”にも」

「オッケー。なんかGメンみたいでワクワクする」

蒼井君はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

つられて私も笑顔になり……でも、その内側は闘志に燃えていたんだ。




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