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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
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第82話 クラスマッチ1

いろいろなことがあった、初の蒼井家訪問から数日後。

遠足の盛り上がりの余韻は消えて、また元のような毎日が始まった。

電車の中で転寝うたたねして、駅に着いたら電車を降りて、定期を通し、チャリ置き場に向かう。

「眠い……」

転寝のおかげか、まだ眠い目をこすっていると……

誰かが、私に追突した!

そして、首にまわる腕!

「うわっ!」

背後から抱き締められたと認識して咄嗟に、踵落としの体勢に入る。

が、視界に僅かに入るサラサラの黒髪が、私がしようとした攻撃カカトオトシを阻んだ。

「びっくりした?」

「……蒼井さん……」

腕はほどかれ、私の左肩に手をつきながら隣に立つ……蒼井君。

あまりにびっくりしたから、さん付けになってしまった。

「おはよっ」

「おはよう……ってか、もう少しで踵落としするとこだったよ!多分あのまま攻撃してたら中足骨折れてたよ……」

「ごめんごめん。でも、眠気吹っ飛んだでしょ?」

「まぁそりゃそうだけどさー……」

左肩に置かれた手の温もりが消えた。

思いっきり伸びをして、再度太陽の光を浴びる。

「そういえば、沙彩先輩、クラスマッチの競技何にした?」

あの日、1回呼び捨てで呼んだ蒼井君。

その後、やっぱ照れくさいってことで、沙彩先輩と呼ぶことにしたっぽい。

「バスケだよ。蒼井君は?」

「俺はサッカー。バスケは部活でやってるから……って、知ってるっけ?」

……って聞く、蒼井君の今更感に、自然と笑みがこぼれる。

クラスマッチ……来週行われるやつ。男女ともに、バスケ、バレー、サッカーから1種目選ぶ。

「2年のクラスマッチは午前の後半だよね?応援行っていい?」

「もちろん!てか、来てもらわないと困る」

「困るって……」

今度は、照れ笑い。

……何年か前まで、笑いもさえしなかったのに……今じゃ、こんなに笑いのバリエーションが増えてるなんて、信じられない。

本当、蒼井君って凄いな。私でさえ知らないことを、どんどん引き出してくる。

「あら、沙彩ちゃんじゃない」

前方からやって来た、つい最近まで知っていた人物に声をかけられた。

「あ、部長!久しぶりです!大学に行く途中ですか?」

「そうよ。ていうか、私、もう部長じゃないわよ~沙彩ちゃん」

「あ、そっか……なんか、先輩=部長ってのがなかなか抜け切れなくて……」

部長……いや、先輩はふふっと笑った。

「あら、沙彩ちゃんの横にいる男の子は誰?彼氏?」

「蒼井大翔です。初めまして」

私が紹介する前に、蒼井君が自己紹介をする。

「そう。ふふっ、仲良さそうで何よりだわ」

なんだか、さっきとは違うような笑い方……

……笑い方のバリエーションの一部かな?

「それじゃ、私は駅に行くわね」

「あ、はい。さようなら」

ペコッと会釈して、先輩と別れた。

数歩歩いて、蒼井君が聞いてきた。

「沙彩先輩があんなに尊敬の意を表すあの人って珍しいね」

「それ、ちょっと何気に失礼だよ?まぁ正解だけど……あの人は、私が1年のとき声楽部の部長やってた人だよ。蒼井君とは入れ違いだから、知らないだろうけど……斉藤美希サイトウミキさんって人なんだ」

「え?斉藤……美希?」

蒼井君は、先輩の名前を復唱して立ち止まった。

「ん?どしたの?知り合いだった?」

「あ、いや……なんでもない。行こ行こ」

「……ふーん」

時間がせってきたのもあって、少し駆け足でチャリ置き場に向かった。


学校に着くと、自転車置き場に自転車を置き、校舎に入る。

文系・理系の分かれ目となる階段の踊り場まで来た。

「蒼井君、今日部活あるの?」

「うん。大会も近いし」

「そっか……」

2年生レギュラーとして活躍する、次期キャプテン候補。

もちろん、サボるのは厳禁らしい。

……私がバスケ部に入っていたら、練習後にも一緒に帰れたはずなのになぁ。

「どーしたの?」

「いや……蒼井君カッコいいから、私がいない時に他の女の子に襲われないか不安……」

そう言うと、蒼井君はハハッと笑った。

「襲われるわけねーじゃん。しかも帰りはカイジとシゲオにユウヤもいるんだし。んじゃっ」

私の頭を軽く撫でると、上の階へと上って行った。

……本当、自覚症状ないんだから。

まぁ、あったとしたら相当なナルシストになっているだろうけど……

「さ―――や!」

後ろからいきなり名前を呼ばれて、慌てて振り向く。

ニヤニヤしている桃花がいた。

「桃花……どしたの?就職クラスって1階じゃなかったっけ?」

「さーやのクラスに遊びに行こうと思ったとこだよー」

と言うと、肘で私の腕をつつく。

「超ラブラブじゃん!頭撫でられたりしてー」

「う、うっさいなぁ……そっちこそどーなのよ」

軽い感じで聞いたけど……桃花の表情は一瞬で曇る。

ヤバ……墓穴ってのを掘ったか?私。

「あ……っと、桃花、去年ぐらいに蒼井君のこと好きだとかなんとか言ってたっけ?」

「え?ああ、あれ~?さーやが大翔君に気を向かせるための嘘だよー」

……はい?

私、結構悩んだ記憶があるんですけど……

「本気にしちゃった系~?桃は年下には興味ないよん!」

ヘヘヘッといたずらっぽく笑う。

もう、苦笑いする他にない……


1時限目は、クラスマッチの競技説明。全校生徒が体育館に集う。

「杉浦先輩っ!」

不意に呼びかけられた声の方を見て……足が止まった。

「お久しぶりです」

そう言い、駆け寄ってきた……咲良ちゃん。

多分、蒼井君と付き合い始めてから1回も話したことがない。

相変わらず、リボン美少女っぷりはそのまま。けど……

「なんか……痩せたね」

「そうですか?」

ちょっと、痩せた……というか、やつれたように見える。

ザワザワとしている周り……そのざわめきも、今、私には遠く聞こえる。

……だんだん、居心地が悪いものに感じてきた。

「んじゃ……」

そう言い、足早に去っていこうとした。けど……

「待ってください!」

少々か細くなったような声で、呼び止められる。

「大翔は……ずっとずーっと、杉浦先輩のことを見ていたんです。私と付き合っている時も……中学の時からずっと!……大翔は、覚えてないみたいだけど……でも、私には分かるんです!」

え……中学の時から?

「大翔の、先輩に対する想いだけは今も昔も本物なんです!だから……えっと……」

数人の人が、「なんだコイツら」という風な目つきで見る。

そんなのお構いなしに、咲良ちゃんに近づいた。

「……分かった。ずっと……大切にする」

彼女の顔が、パッと明るくなった。

そして私は悟ったんだ……蒼井君のことを想うのは、咲良ちゃんにとっての幸せだってこと。

それくらい……咲良ちゃんは、蒼井君のことが大好きだってこと。

「よかった……それだけ、どうしても言いたかったんです」

「あ……私からも、ちょっと聞いていい?」

チャイムが鳴り響く。

「斉藤美希、っていう人、知ってる?」

「え……サイトウミキ?その人って……」

一瞬、怪訝な表情をした咲良ちゃん。

その後に発した言葉は……慌てて体育館に入り込む何人もの生徒によってかき消されてしまった。

怪訝そうな表情をした理由は……また今度会った時に聞いてみよう。

入り込む生徒の流れに混じり、私も体育館の中に入った。


もう3回目のクラスマッチ。例年通り、なんの変化もないルールで行われることになる。

でも……私にとっては、忘れられないクラスマッチになろうとは、この時私は到底思えなかったんだ……




クラスマッチ……私の高校では、悪天候のため決勝目前になって中止になりました(^^;)

いろんな意味で思い出深い学校行事です。

さて、そんなクラスマッチ……果たして無事に終わるか否か。

斉藤美希っていう新キャラが、なにやら怪しげなのはお気づきでしょう。

美希の行動や素性本性、すなわち正体についてもご注目ください。

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