第80話 偽りのない本当のこと
「はー、おもしろかったぁ!」
約2時間のパリボル第2作……
最後まで犯人が分かんなくって、まさにハラハラドキドキって感じの2時間だった。
「ってか、蒼井君、この映画観るの2回目ぐらいだよね?つまんなくなかった?」
「いや、これ観るのもう5回目ぐらいかもしんない。何回観ても飽きないって感じ」
「5回も!?じゃあ、パリスが犯人に白状させるきっかけになったセリフって覚えてる?」
「んーと……“Why are you know about it?(どうしてあなたはそれについて知っているのですか?)”だよね。被害者と犯人だけが知っててそうなのを、犯人じゃないって言い切っていた犯人が知ってたから、それについて言及したんだっけ?」
さらりと答える蒼井君。
しかも正解……心なしか、悔しくなってくる。
「じゃあ、ストーリー最初のセリフは?」
「The people say that I have been given birth to solve every problem.(人々は、私はありとあらゆる問題を解決する為に産まれてきた、と言う。)」
「じゃ、じゃあ、アンドレがギャグを言って、それに対してパリスがとったリアクションは?」
「Andre, are you all right?(アンドレ、お前大丈夫か?)……てか、俺からも問題出していい?」
うっ……答えられる自信ない……
一応、「どうぞ」と言ってみた。
「カフェテリアでパリスとキャサリンが交わしていた会話でパリスが10回目に発した言葉は?」
「分かるかっ!!!」
笑いながらふざけたようにそう言った時、ケータイの着信音が鳴った。
この着信音は……お母さんからだ。
「あ、ちょっとごめん」
「ん、いーよ」
カバンの中からケータイを取り出し、電話に出る。
「もしもし?」
『沙彩、悪いけど今日家帰れないわ。病気で倒れた人の分の仕事がこっちにまわってきちゃって……家であんたを1人にしとくのも物騒だから、夏姫ちゃんの家に泊めてもらいなさい。下着は一応帰れなかったらいけないと思ってあんたのカバンの中に入れておいたけど、服は貸してもらってね』
「……へ?」
『夏姫ちゃんの親御さんにはちゃんと言うからかわってくれる?』
……あ、そっか。お母さんには夏姫の家に行くって言ってたっけ……
「……い、いい!自分でちゃんと言える!」
『そう?』
「それじゃお母さん仕事頑張ってね!こっちのことは心配ないから!じゃっ!」
『ちょっ、沙彩?』
一方的に電話を切った。
「お母さん、何て言ってたの?」
「えと……」
いきなり「泊めて」って言ったら、蒼井君困るよね……プライベートに侵入してきたみたいに思われるかもしんないし……
でも、お母さんの言うこと聞かないで家に帰っても、発覚した時に相当怒られるだろうし……
かといって野宿も危険だし……
……てか、ちゃんと理由話せば分かってくれる……よね?
そう信じて、口を開いた。
「お母さんの仕事が片付かなくって、今日家に帰れないんだって。だから、泊めてもらいなさい……って言われたんだけど……」
なんとなく、夏姫の家に行くって嘘をついたのは言えなかった。
「そっか。やっぱ刑事さんって大変なんだね、色々と」
「え?えっと……嫌じゃない?泊まらせるの」
「嫌なわけないじゃん。いーよ、全然!」
……これまた、下心がなさそうな笑顔で言うもんだから……必要以上に、ホッとしてしまった。
それからは、テレビを見ることによって時間は流れた。
午後4時5時ぐらいなら、再放送のドラマやバラエティ番組が盛り沢山。
私たちは再放送の“豊島和子の刑事簿”っていうサスペンスドラマを見ながら、「犯人はあの人っぽい」「いや、あの人じゃない?」と話を弾ませていた。
宿泊のことだけど、よくよく考えてみると、ずっと2人っきりってわけじゃないし……
「ねぇねぇ、亜珠華ちゃんっていつ帰ってくるの?保育所にいるんだよね?きっと」
「いや?フランスだよ。ここ1週間ずっと」
……はい?フ、フラ?
「な、何故?」
「だって亜珠華、子役だもん。知らない?」
蒼井君は、ドラマが終わってCMが流れているテレビの電源を落とし、襖に寄りかかる。
私も隣に行って、寄りかかった。
「し、知らない……テレビあんまり見ないし」
「次始まる“冬の恋は雪のように純白”ってドラマで、パリでデザイナーをやってる主人公の娘役で出てるんだけど……」
ふ、冬の恋は雪のように純白?何それドラマ名?
ていうか、子役って……役者じゃん。
「亜珠華ちゃんも翔子さんもいないし、修二さんって人もいないし……ずっと2人?」
「え?……まぁ、そだね」
まるで、「え?当然でしょ」って感じで、さらりと言う……
「蒼井君はさ……」
「ん?」
「……下心とかってないの?」
「下心?」
うーん……と、蒼井君は考えるような顔をする。
それを、私は隣でじっと見る。
一言一句、逃さず聞けるように。
「……あるよ」
「へっ?どんな?」
あまりにも意外な答えだったから、思わず素っ頓狂な声になる。
そんな私の顔を見て蒼井君は微笑むと……私の顎に手を添えて、親指で唇をなぞる。
「今すぐにでもキスしたい……みたいな。もちろん、それ以上も」
……心臓が、今までよりもさらに跳ねる。
だって……蒼井君が、今までみたことない表情で、そんなことを言うから。
目を見開くだけで、何の声も出なかった。
「でも、流石にそれを表に出したら……引くでしょ?いくら俺が男で、そんな感情持つのが普通だったとしても」
……まるで自嘲のような笑みを浮かべた後、そっと蒼井君は手を離す。
私は、まるで反射のようにその手を掴んだ。
「いいよ……引かないよ」
少し驚いたように目を大きくしている蒼井君の目を、しっかり見る。
「だって蒼井君のこと、大好きだもん」
握る手に少し力をこめて、そう言った。
嘘は1つも混じってない、心から本当のこと。
今、相手の目を見て、逸らさずそれをしっかり言えることが……とても、嬉しい。
ゆっくりと、蒼井君の顔が近づく。
その速度に比例するように、私もゆっくりと目を閉じた……
……と、その時……!
「よーっす大翔―――っっっ!!!ってあれ?ここじゃねぇか?」
いきなり入ってきた声に、パッと目を開けて2人してドアの方を見る。
「おわっ!そこにいたかっ!死角で見えなかった……ってか杉浦先輩もいんじゃん!」
……若干……いや、かなりテンション高めの……
「カイジ……」
続々と部屋に入ってきた、1-D四天王のうちの3人の面々。カイジ君、ユウヤ君、シゲオ君。
「大翔、顔赤くない?何かあったのか?」
ユウヤ君が、鋭いところをついてくる。
「いや、別に……ってか、なんでお前ら来たの?」
「約束したじゃーんっ!先週、“また鑑賞会やろーな!”って!」
カイジ君は……もう、満面の笑みだ。
「え……何の?てか言ってたっけ?」
蒼井君の問いに対して、シゲオ君が紙袋らしきものから出したのは……
「親父の部屋からパクってきた。みんなで見よーぜ」
……ザ・エロビデオ。
ってオイオイオイオイオイ!!!
「私女子!女子なんだけど!!!」
「バカだなー先輩!これは性別の国境を越えるパスポートっすよ!」
うわぁ、カイジ君がキャラ離れした変なこと言ってる!バカとか言われた……
そんなカイジ君の傍ら、蒼井君は何やらタンスをごそごそと漁っていた。
……ま、まさか、そのタンスの奥からまた新しいブツが……!?
「……杉浦先輩、とりあえず服貸すから風呂にでも入ってきて。こいつら、俺がどーにかしとくから」
「え……あ、ありがと……じゃ、じゃあ、貸してもらいます」
手渡されたのは、かなり懐かしい朔良中の体操服。
しまわれてから軽く1年ちょい経つだろうけど、虫食いひとつない。
蒼井君は、何か気づいたように「あっ」と言った。
「風呂の場所分かんないよね?一応案内しとく」
「あ、お願いします……」
「カイジ、ユウヤ、シゲオ。部屋から一歩も出るなよ?」
「へいへーい」
薄暗い廊下。天井の明かりをつけながら、さらに奥へ奥へと進んだ。
「ごめん、なんかこんなことになっちゃって……」
「いや……えっと、なんか楽しそうだね!」
「そう?」
……うわー。意味不明な発言しちゃったよー……
そして、また沈黙。
……そういや私、蒼井君に“大好き”とか言っちゃったんだよなー……
なんだろ……この時間差をもってやって来る羞恥心は。
何分か後に、浴場へ着いた。
「んじゃ、俺部屋戻るわ」
「あ、うん。ありがと」
蒼井君は踵を返し……立ち止まった。
「一応露天風呂あるけど、使わないで」
「へ?なんで?」
「結構冷えてきたし、誰かに見られたら嫌だから……んじゃっ」
若干足早に去っていく影を見送る。
だ、誰かに見られたら嫌だから、って……あんなに塀あるのに、見られるわけないじゃん。
どんだけ独占欲強いんだろ……
「ふふっ」
……でも、なんでだろう。
そんなのも、たまらなく……愛しい。
ニヤケた顔と声を、脱いだ服にうずめた。
今回は、大翔の下心っていうのを出すのに苦労しました(・_・;)
いきなり牙をむかせたらイメージ下がるし、かといって焦らすのもらしくないし……
やっぱストレートに言うのが1番合う気がして、実行してみました!沙彩ちゃんもさぞかしドキドキしたことでしょう。(笑)
さて、次回でデート編完結!ってとこですね。
次回更新は、土日あたりになると思います。