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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
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第79話 大翔母

「お友達?」

「あ……っと、海宮高校2年の杉浦沙彩です!」

あまりもの綺麗さに言葉を失って……やっとのことで、自己紹介。

「……間違えた。3年……です」

しかもマヌケなミスつきの……

「杉浦……沙彩、さん……」

私の名前を復唱する片瀬翔子……

うわぁ、なんだか不思議な感じ……まるで、テレビから出てきた人と話しているみたい。

「母さん、出張は?」

「予定よりすごく早く終わったの。東京に戻る前に家に寄り帰ったら、大翔も誰もいなくて……」

へぇ。やっぱりリポーターって遠いところまで出張とか行くんだ……

って……

「え!?蒼井君のお母さん……ですか?」

「ええ、そうよ。蒼井翔子。よろしくね……あ、片瀬翔子と言えば分かるかしら」

こ、子持ち(しかも高校生)には到底見えない……

そもそも結婚してたなんて知らなかった。ずーっとアラサーの素敵未婚女性の代表格だと……

「大翔、お風呂にでも入って着替えてらっしゃい。私、杉浦さんともっとお話がしたいわ」

「ああ、うん。余計なこと言わないでよ?」

「まぁ。人聞きの悪いこと」

蒼井君は私に軽く「んじゃ」と言うと、平屋の奥に進み、右へ曲がって行った。


片瀬翔子……いや、蒼井翔子さんに連れられるまま、応接間的な広い空間に入った。

「大翔、学校ではどう?」

「え?」

「あの子、学校でのこととかほんっと言わないものだから、気になっちゃって……」

ほこほこと湯気が立っている日本茶を出され、軽く会釈した。

そして、目の前に正座する蒼井翔子さん。

正座に慣れないものだから、しびれが切れる寸前の私……

にしても……本当、年齢を感じさせない綺麗な顔立ち。

色白で、目が大きくて、まつ毛が長くて、鼻が高くて顔が小さくて……

「学年が違うから、よく分からないですけど……いろいろな人から信頼される人だと思います。学級委員してたみたいなので……」

「まぁ、大翔が学級委員?へぇ……人ってどうなるものか分からないわねぇ」

……きっと、この人は知っているのだろう。

蒼井君が事故に遭う前……すごく荒れていたこと。

もちろん、本人にはそう聞かないし、桃花が言ってたことだから確証もないんだけど……

……あ、そうだ。

「あの、お菓子を持ってきたのですが……よかったら、召し上がってください」

と言い、さっき買ったクッキーを渡した。

「あらあらあら!ありがとうね!」

「しょ、翔子さん、和服着ていらっしゃるし、お家もこんな立派な日本邸宅なので……少し趣味じゃないかもしれませんが……」

「あっ、このクッキー、東野通りにあるデパートの1階の所のでしょう?私、あそこのお菓子大好きなの!すっごく嬉しいわ」

子供のようにはしゃぐ翔子さん。

よかった。翔子さん、って呼んだのを咎められなくて……


「この家はね、前の主人の趣味の塊なの。あの人、すごく歴史に興味を持ってらしたから……当の本人は、医者でしたけれど」

い、医者って……

趣味を形にできるほどの財産があるはずだ。

でも、“前の主人”って……

「い、今のご主人は……もしかして、修二さん、という方ですか?」

「ええ、そうよ。私と同じリポーターをしているの」

……門の前で、蒼井君が言っていた“修二さん”という名前。

身内のはずなのに、さん付けっておかしいな……と思ったら、そういう理由だったんだ。

「大翔は前の主人にそっくりなもので……今年で17になるんですけど、ますます前の主人そっくりになってしまって」

……そう言う翔子さんの顔は、どこか暗かった。

翔子さんは何かに気づいたのか……「でも、大翔と前の主人の性格は真逆で、それだけが救いなのですよ」と付け加えた。

……やっぱり、浮気性で飲んだくれ……だったのか?

「そして、嗜好も瓜二つ……あの子も、歴史に興味があるんですよ。学校では理系を選択したと言っていたのに」

「歴史?」

「ええ。もし機会があれば、あの子のDVDデッキをご覧になってみて。歴史系のものがほとんどなんですの」

へぇ、そうだったのか……新しい発見。

「今時の男子高校生のDVDデッキ……といえば、破廉恥なものの1つや2つあればいいものを……」

「は、はれ?」

「前にこの家に帰ってきた時、大翔の部屋に入ったら……部屋の隅にそのような類のDVDが置いてあって。「あなたもやっと、このようなものを見るようになったのね」って言ったらあの子、「ああ、それ、カイジが忘れてった」って言って……その時に熟読していた雑誌を覗き見してみたら、題名何だったと思います?“週間歴史探索”なんですよ。全く、授業で習ってさえいればいいものを……」

「はぁ……」

ぶつぶつと、まるで愚痴のように語りだした翔子さん……

「あとでそのDVDを取りに来たカイジという名前の男の子に話を聞いてみると……「大翔のやつ、せっかくシゲオとユウヤで3人こぞって鑑賞会開いたっていうのに、1人だけ黙々と雑誌読んでるんですよ。週間歴史なんとか、とか、メンズなんとか、っていうファッション雑誌とか。挙句の果てに、眠いって言って寝る始末。あいつの頭、事故でいろんなところがおかしくなったんじゃないんですかねー」ですって。本当、CT検査のやり直しを要請したいほど……」

「母さん。俺、余計なこと言うなって言ったよね?たぶん」

見上げると……甚平を着た蒼井君が、翔子さんを見下ろしていた。

お、男の人の甚平姿って……生まれて初めてジカで見たんだけど!

「あら。余計なことじゃないわ。ちょっとした情報じゃない」

「それを余計なことだっての」

そんな母子のやりとりが、少し面白く感じだ。

……だって、普段はこんな蒼井君見れないもんね。甚平も含めて。

「それじゃ、私は新幹線の時間があるから出るわね」

翔子さんはいとも簡単に立ち上がると、蒼井君の耳元で何やらつぶやいた。

「ちゃんと避妊すんのよ?」

「……は!?ちょ、何言ってんだアホ!」

「あらやだ。大声出さないでよ。うるさいわ」

な、何を言ったんだ……?

あの蒼井君が“アホ”って……

「じゃあ沙彩ちゃん、ゆっくりしていってね。大翔の部屋にあるテレビ、すごく画質がいいものだからきっと楽しめるわ」

「あ、はい!お仕事、頑張ってください」

翔子さんはニコッと微笑むと、応接間を後にした。

……い、一気に緊張感が抜けた……

「ハー……やっばい、超ドキドキしたぁー……あの片瀬翔子さんと話しちゃったよ……軽く30分ぐらい……」

「そんな緊張する必要ないよ。50目前のヘンなオバサン相手に」

溜息混じりで言う蒼井君。

「あのねー、蒼井君よー……」

あんな綺麗な40代、そうそういないってば。

「んじゃ、パリボル(パリス・ボルドレンの略)観よっか」

「うん…………いでっ!」

返事したと同時に立ち上がろうとしたけど……足に激痛が!

ああもう……痺れのバカヤロー……

「大丈夫?」

「うん……正座って慣れないからさ……血管参ったみたい」

うっひー、鈍い痛みがジンジンくる……

軽く30分ぐらい話したってことは、軽く30分正座していたこと……そりゃあ普通なら痺れる……よね。

「ちょっと体勢変えながら聞いてたら軽くなってたかな……いやでも、そんな余裕なかったし……」

そうブツブツ言ってると……

「うわっ!」

体がふわっと浮いて、膝裏と肋骨あたりに手の感触が……

……これって、“横抱き”ってやつじゃん!

「ちょっ、お、重いっしょ!」

「全然。杉浦先輩、身長のわりに体重なさすぎなんじゃない?」

そう言うと、「動くよー」と言われ、動く景色……

こ、こここ、怖っっっ!!!高いっ!高すぎっっっ!!!


「し、死ぬかと思った……」

いや、イスに座ってうなだれている人が表紙の本の題名とかじゃなく、本気で。

地上から約170センチ越えの世界は、あまりにも私には高すぎた……

本来ならば、ドキドキするシーンだったのかもしれないけど……私にとっては、違う意味のドキドキ……むしろハラハラだった。

「ごめん、ここの家の中、イスとかっていう類の家具がなくて……しんどかったっしょ?」

「う、うん。でも、風情があってすっごく素敵だと思うよ」

「そう?」

一息ついて、部屋の中をぐるっと見渡す。

掛け軸、生け花……桐でできた本棚がいくつかあって、ひとつには教科書類、ひとつには歴史書、ひとつには雑誌類……その他諸々。

窓際に桐ローテーブル、そして座椅子……部屋の隅っこに、和室には若干不釣合いなプラズマテレビやパソコン。

うーん、昔と現代が行き来している間の光景みたい。

「蒼井君って、子供の頃からずーっとこの部屋?」

「うん。ってか全然覚えてないけど……ほら、そこの柱に落書きしてあるっしょ?」

見てみると……確かに、“あおいひろと”と、子供らしいあどけない筆跡が薄っすら残っている。

でも……同じく、薄っすらと残っている……

「なんで蒼井君の字の上に黒いシミがついてるの?」

何かを押し付けたような、黒い跡。

まるで、そのあどけない筆跡を侮辱しているような……

「ああ、これ?日差しとかで焼けたんじゃない?」

蒼井君の手が、その黒いシミに触れる。

甚平の袖口から出た、長い指の大きい手……

……あれ?

何も考えずに、その手をとる。

そして、柱の黒いシミを見て……

「どーした?」

そう言う蒼井君の方を見て、ハッと我に返った。

……近っっっ!!!

「あ、ご、ごめんっ!なんでもない!」

パッと掴んでいた手を離した。

ただの偶然ならいいけど……柱の黒い跡と、蒼井君の手の甲についていた黒い跡。

形、濃さ……そっくりだったんだ。

絶対、何かある。蒼井君の知らない過去の中で……

「変な先輩。……んじゃ、映画観よっか」

クスッと笑うと、蒼井君はリモコンの再生ボタンを押した。


少女漫画の王道シーンでもある“お姫さま抱っこ”さえ、“恐怖”に感じる沙彩ちゃんの感性……うーん、どこまでもズレてるっていうか。

いや、元々沙彩ちゃんは“正統派”として固めていないから、それはそれでいいかと(笑)

さて、大翔の過去もいろいろ判明してきました。

中学時代は荒んでいた、という設定の彼を作り出した家庭環境が明らかに……なるかな?

……こういう予告だと、大体悪いものが浮かんできますね(苦笑)

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