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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
77/124

第76話 遠足5-隠していたこと-

「ハー……やっぱ地元はいーねぇ」

「ほんとほんと。あんなヘンテコな山、二度とごめんだよ……」

海宮市駅に着き、たっくんと水野君は地元の空気を一気に吸う。

ここは私の地元じゃないけど……やっぱり2年ちょっと通っているだけあってこの市に愛着がついてしまい、空気を吸う度にどこか心が落ち着いた。

ケータイを見ると、今は午後3時。ゴールは5時だから……間に合わないわけでもないし、間に合う確証もない。

クイズの内容によって、大きく左右される……ってわけだ。

「よっし!じゃー、早いとこ終わらせて、さっさと帰ろーぜ!」

たっくんはそう言い、若干恐怖山ショック気味のみんなに気合を入れた。


徒歩約10分。海宮海に着いた。

やっぱ、いつ見ても綺麗な海……って、見とれてる場合じゃない。

「浜辺に若いカップル1組、釣りをしているやけに体がデカいおじいさん、自分に酔いれている男性……どの4人も無関係っぽいね」

じ、自分に酔い痴れてる……って、蒼井君……

でも確かに、無関係っぽい。

「たっくん、ちゃんと先生と打ち合わせしたー?」

「したに決まってるっしょ!一応班長なんだし。確か、新任の先生がいるって言ってたような……」

新しい先生……?

そういえば、新任式ってのがあったっけ。毎度のごとく、居眠りしてたけど。

新任……なら、あのおじいちゃんはまず除外できる。

後姿しか見えないけど、あのデッカイ釣り吉ヨンペイを思わせるルックス+ノースリーブの下着のようなトップス+今オッサンの間で流行っている水色の縞模様のステテコ+下駄は、60歳ぐらいのおじいちゃんしかいない。

残りは3人……帽子を目深に被った、蒼井君曰く酔い痴れてる男性?それとも、若いカップル?

うーん、どっちも年齢的にアリだし……

悶々と考えていると、陽香が突然叫んだ。

藤嶺フジミネせんせ―――っっっ!!!」

藤嶺、という名字に反応してトコトコやって来たのは……

「築島。大声だしてどないしたんや?」

まさかの、釣りをしていたおじいちゃん……いや、20前後のお兄さんだった!!!


班員の点呼や15班であることの確認をとると、早速クイズの内容を聞く。

「まぁ、海宮海のクイズっちゅーんは、宝探しみたいなもんや。こーんな広い砂浜のど真ん中でちまちま問題解くんはつまらんやろ?」

「宝探し……?」

「せや。今から2人3組に分かれてもろうて、ワシが埋めたこの校章を探してもらうでー!結構前ん班も苦戦しちょったけん、がんばりやー」

……マジで?

2時間弱で終わる……かな?

「……それじゃ、とりあえずペア決めましょうよ」

「ハイハーイッ!キョン、小原先輩とがいいっ!あんま話してないしーっ!」

「あ、そーいえばそっか!ヨロシク!杉下……」

「杉下じゃないっ!遠藤崎!」

アハハ……キョン、どんまい。

「んじゃ、俺と陽香か」

「見つけられるかなー……」

「陽香なら大丈夫っしょ!ちっさい頃から勘いーじゃん」

若干不安げな様子の陽香と能天気っぽい水野君。

「そんじゃ、私と蒼井君だね」

「そだね。がんばろーね……つっても、あんなちっさい校章見つかるかどうか分かんないけど!」

「いや、見つける!最後の遠足ぐらいタイムオーバーしたくないし……」

「うっそ、全部タイムオーバーしてきたの?」

そうなのだ……

1年の時は、2年の先輩が(季節外れの)熱中症で5時までダウン。よってタイムオーバー。

2年の時は、タクシーがまさかのエンスト+事故か何かで電車がストップ。よってタイムオーバー。

そのことを蒼井君に話すと、「そりゃ悲惨だね」って言われた。

「おい、そこの茶髪とモテ男!えー加減にワシの話を聞けっちゅーねん!」

「あ、はーい」


その後の話し合いで、私と蒼井君は洞窟の近く。たっくんとキョンは10メートル間のビーチ、水野君と陽香は何キロほど先の向かいの洞窟の近くに決まった。

ちなみに、藤嶺先生は陽香の担任の先生らしく、大学を今春卒業したばかり。あのユルッとした雰囲気と親しみやすい関西弁のお陰で男女共に人気を誇り、先生からは疎まれているらしい。(陽香情報)

私も騙されたオッサンルックは、生徒提案。「スーツ以外の藤嶺先生を見て見たい」とのこと……(陽香情報)

そして、新任である先生が蒼井君がモテるのを何故知っているかと聞いてみたら……

『うちのクラスの女子が、「2-Bに蒼井大翔っていう藤嶺先生に負けず劣らずのカッコいい先輩がいるんだよーっ!」ってこの前騒いどったけんや!この海に来るっちゅー班のメンバーの名簿を見よった時、真っ先にソイツの名前が目に入ってなぁ。今日は生徒は私服やけん、見分けつかへんやろなぁって思いよったけど……まー、ワシに負けず劣らずのイケメンっちゅーことで、すぐ分かったんや。ついでにーと、アンタのこともワシが受け持っとるクラスの男子から聞いたで!「3-Aに海宮人よりキレーな人がいるんで先生!工藤リリナにすんげぇ似てるんで!」ってな!まぁ、こっからはワシの推測やけど……アンタと蒼井、付き合っとるやろ!あの雰囲気といい、どっちもミーハーな感じせーへんもん!ま、今んとこあんま噂にはなっとらんけどな。高嶺の花同士、これから名物カップルとして学校中に名を馳せれるよーにがんばりやー!』

……いやー、よく喋る喋る。私が覚えてるセリフの3倍以上も喋ってて出遅れてしまった。

でも……


「ねー蒼井君」

「ん?何?」

「私、工藤リリナさんに似てる?」

洞窟の前……といっても、地面はほとんど砂。土を奥深くまで掘り起こされた形跡もないし、スコップとか使わなくても手で探し出せる。

そう考え、砂をいじってる最中にそう聞いた。

蒼井君は……工藤リリナってだれだっけ?って感じの顔をしていた。

「ほら、去年あたりに海宮花火見に行った時に見つけたちっちゃい女の子のお母さんだよ!」

「海宮花火……?あ、あの人か!」

ほんっと、陽香のことといい……頭いいクセに人のこと覚えるのが苦手だこと。

「サングラスかけてたしよく覚えてないなぁ……あ、どこかクールっぽい雰囲気は似てる、ってよくクラスメイトが言ってたような」

「クールゥ?私が?」

「カイジとかユウヤとかシゲオも言ってたよ。「杉浦先輩ってクールビューティーって感じだよなぁ」って。一応いい言葉っしょ?」

クールビューティー……?クールでビューティー……カッコよくて美しい……?栗○千明さんとか水川あ○みさんとか……?

「……合わなーい……」

大げさに落胆する私を見て、蒼井君は笑った。

「でも、俺は可愛いって思うよ」

「なるほど、かわ…………え?」

思わず手を止め、蒼井君と目が合う。

……私にとっては、超至近距離。2人同時に目を逸らしてしまった。

「え、だ、だって、私のこと勇猛果敢とか強いとかカッコいいとか……」

「あ、あれは隠すために言ったんだよ!」

その後、小さく「まぁ本当のことだけど」と彼は付け加えた。

隠すために言ったこと……か。

……私のこと、ずっと“可愛い”って思ってくれていたのかな。

いや、自惚れかもしんないけど……

「……ありがと」

素直に思える。

「お世辞でも好きな人に“可愛い”って言われるのって、嬉しいもんだね」

「……お世辞じゃないってば」

お互いに笑い合う瞬間。

ドキドキする心臓。火照る頬。

……きっとずっと、知らないままだった。この人に逢うまでは……

何度、そう思ったことだろう。


「……あ、あった!これじゃない?」

「マジ?……あ、それじゃん」

……1時間後。ようやく、小さな小さな海宮高校の校章を見つけた。

波打ち際の、でっかい貝殻の近く。

「よかったー!海に流される前に見つけて……」

きっと、あの先生はここに結構深く穴掘って校章入れて……時間が経つにつれて、砂がどんどん流されてって……

波打ち際なんて、隠してあるはずないと思ったから……穴を掘った形跡なんて調べなかった。

全く……あの先生は、かくれんぼの名人だね。

「そんじゃ、これ早くあの先生のとこに持って行こっ」

「ああ、うん」

「……どしたの?」

「いや、なんでこの上に墓地があるのかな……って」

蒼井君が見上げている先を見てみると……いつの日か、伶君と2人で愛美さん……伶君の彼女のお墓参りに来た記憶がよみがえってきた。

“「いちばん、好きな人と一緒になれ」”

この世にいない愛美さんと、遠い外国にいる伶君。

どちらも、私の傍にはいないけど……2人がくれたものは、とてもとても大きい。

「……ま、いっか。早く行こ、杉浦先輩」

「……うん」

ありがとう。伶君。愛美さん。

「どしたの先輩。顔緩んでるけど」

「そ、そう?」

「変なのー」

今、私に向けられる蒼井君の笑顔。

2人がいなければ、きっとずっと……他の人に向けているのを見ているだけだった。


―――……


「あっぢー……」

春のくせにポカポカと照りつける太陽。

ちょっとだけだったらまだしも、こう45分近くあたってると、さすがに熱中症レベル。

1コ下の学年、杉下……おっと。遠藤崎右京は、もはや試合放棄してどこからともなく出てきた扇子で自分自身を扇いでいた。

「ほらほら!さっさと見つけるよ!」

「……へーい」

全く……夏姫の暑さや寒さにもへこたれないテンションを分けてあげたいぐらいだわ。

「あーあ……10メートル間のビーチって結構楽だと思ったんだけど……キョンも洞窟の下にすればよかったなぁ。あっついなぁ……」

今更愚痴っても無駄ですぜ、キョンさん。

しばらく経って、キョンさんの死んでいるような目が……何かを目撃し、一瞬で輝きを増した。

「うををっ!?蒼井がさーやちゃんの首筋に手を回してるっ!」

そして、またまたどこからともなく双眼鏡を出して、洞窟の下に合わせた。

「あーもーっ!なんでさーやちゃんも蒼井の手の方見てんのさっ!早く正面向いてキスしちゃいなよっ!もったいないなぁ……って、あれ!?蒼井、手戻しちゃったよ!ってか、手に何か持ってる…………ハァッ!?あれカニじゃんっ!超ミニサイズ!!ってことは……なぁんだ。カニとってあげただけかぁ。キスするつもりじゃなかったのかぁ、全く……ハァ」

溜息をつくと、キョンさんは双眼鏡から目を離した。

そういえば……何かとキョンさんって蒼井と一緒にいるよな。

体育館で班組む時もそうだったし、さりげにクラスでもよく2人で話してるっていうし……(蒼井ファン情報)

「キョンさん」

「え?なんですかー?小原先輩!」

「キョンさんって、蒼井のこと好きだったりしないの?」

そりゃあ、さーやが彼女なんだから……女子だったら、蒼井にヘタに手を出せない。

でも、キョンさんも女子なんだ。好きとかじゃないと、蒼井と一緒にいるわけがない……

「なーに言ってんですかーっ!!んなわけないじゃないですかーっ!!さーやちゃん’sスウィートダーリンですもんっ!!」

そう言い、ビシバシ俺の背中を叩くキョンさん。

うへっ。小原拓海、1000のダメージ……

「蒼井は、兄みたいなもんですよ!宿題写さしてもらったり、宿題写さしてもらったり、宿題写さしてもらったり……」

「宿題写さしてもらったりするだけの友かいっ!」

アハハハハハとキョンさんは明るく笑った。

「いや……ほんとの兄かもしんないですね!」

「……と言うと?」

「私の継母ならぬ継父が……本っ当に蒼井にそっくりなんですよ」

相変わらず笑っていたけど……明らかに、違う意味を持つ笑いになっていた。

「小学校の頃、父が亡くなって……私が中1の頃、私の母と継父が知り合って結婚したんです。その継父の名前は、蒼井翔喜。ほとんど蒼井大翔と同じでしょ?」

「た、確かに……」

「継父は、本当に優しくて……私をよく、日本各地はもちろん、ヨーロッパとかにも連れていってくれたんですよ」

よ、よーろっぱ?

そういやこの人、移動代全部払うとか言ってたよな。んで、クラシックカーでやって来たよな……

……見かけによらず、超お嬢様なのか。

「でも……どこに行っても、なんか後ろから指指されるような感じがして。何回も聞いたけど、ただ笑顔をつくってるだけなんです」

その笑顔も、蒼井とそっくりらしい。

「そして……継父の口から後ろ指指される理由を聞かないまま、継父は亡くなっちゃったんです」

……じゃあ、この子は……2回も、お父さんを亡くしている……のか。

「もし継父が生きていたら、蒼井にも会わせたいなーって思ってる……んです!いやー、にしても初めて蒼井に会った時は、継父の生き写しだと思いましたよ!それを隠すのに必死で!ナハハハ!!」

「……それで、後ろ指指される理由って、何だったの?」

キョンさんにつられて笑うことなく、俺は聞いた。

すると、キョンさんは笑顔を失い……ただ、ポツリと


「…………刑期を終えて、放免された人だから……だと、母から聞きました」


―――……


「藤嶺せんせーっ!」

やっと藤嶺先生のもとに着き、校章を手渡した。

「おー!よーやったな!最短記録や!1時間30分!他の班は2時間ぐらいかかっとったで!」

私たちを始めとし、たっくんチーム、水野君チームが続々と校章を先生に手渡す。

ゲームクリアした証の先生の(ナルシっぽさムンムンの)サインを貰い……

「よし、早く学校戻ろ!あと30分でタイムオーバーだよ!」

駅からは、自転車で学校まで15分。歩けば20分ちょっと……

んで、海宮海は駅から数分だった。

上手くいけば、間に合うかもしれない!




初のたっくん目線のエピソードが入りました。

蒼井とキョン。ただの部活が一緒同士の気の合う2人……じゃないだろうな、と思い、このような設定を追加しました。

蒼井とさーやのラブシーン(?)は、書いてる方も気恥ずかった……(・・*)

特に蒼井がさーやのことを“可愛い”って言うシーンは……(・・**)

これから甘めのセリフを考えるのに苦労しそうです……(・・***)

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