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海と想いと君と  作者: coyuki
第5章 今までとは違う日々
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第75話 遠足4-生け贄の巫女-

事の発端は、たっくんのクジ運の悪さ。

何人も遭難者を出した、という恐怖山がスポットとして当たってしまった。

そこを2つ目のスポットとして、海宮テーマパークからバスで麓まで移動。

バス酔いが酷いせいか、陽香は近くの保健所で休みを取った。

陽香がそうしている間に、私たちは奇妙な巫女に出会った。

名は、伊集院響香。100年前の海宮高校の校名を言い、外来語を一切使わなかった女性。

そんなことさえ気にも留めなかった私たちは、一斉に林の中へ。

途中のトランシーバー同士の交信で……奇妙なことが起きた。

湖、滝、花畑、ジャングル……どれも、みんな山の中にいるとは思えない状況の交信。

そんな中、私と蒼井君は個別で交信し……広大な草原の中で、出逢った。

ますますおかしいと思った私と蒼井君は、その人……伊集院さんはこの世の人間でないと推理した。

そして、私たちの足元に現れた文書。そこには、約束を守らない人は死しかない、といった内容が書かれてあって……

まずい、と思った私は2本の道のうち1本の道に入った。もちろん、蒼井君を置いて。

走って走って走って……いつのまにか、私は山道らしき坂道を登っている体勢になった。

……というのが、あらすじ。

そして、今……

 

紆余曲折の末、やーっと着いた……と、ホッとしながら思うけど……

「誰もいない……」

おかしいなぁ。

私がクイズに辿りつく途中の交信で、クイズの答えを考えている人が多かったのに。

……ま、いっか。

とりあえず私は、数メートル前にある神社の前に行った。

海宮神社、と書いてあって……

「誰が書き換えたんだろ……?」

神社の中には、人の気配はない。木々も伸び放題で、誰かが手入れしてるとは思えない。

この町の名前をそのまま使ってるとしたら、前は海竜宮神社のはず。じゃあ、誰が……?

「あっ!さーやちゃーんっ!」

後ろから声がして、振り向くと……キョンが大きく手を振っていた。

「さーやちゃんが奉るものって、それ?」

「あ、うん。木切れっぽいけど……キョンは?」

「キョンはねぇ……見て見てぇっ!めっちゃキレーな花!」

キョンの手の中にある大きい白い袋の中には、溢れんばかりの花々があった。

木、花……?意味分かんない。

まぁ、意味分かんないのは今に始まったことじゃあない。

「男群、遅いねぇ。もしかして、クマに食べられちゃったのかな?」

「そりゃないよ……たぶん」

そんな話をしながら、待つこと約10分後……

「おーい!さーや、杉下!」

たっくんが到着した。

「杉下じゃないっ!遠藤崎ですっ!」

「あ、そーだっけ?」

たっくんは、ナハハと笑っている……全く、お気楽なもんだ。変な現象に次々と遭遇したくせに。

「すみません、ちょっと遅れました!」

水野君も到着して……

「あ、みんないる」

蒼井君も到着した。

5人揃ったところで……改めて、ホッとした。

よかった……誰も死ななくて。

最早、死活問題。本当、恐ろしいところだよ、この恐怖山……

「んじゃ、みんな揃ったし……奉るとするか!」

たっくんがそう言い、神社に足を踏み入れた。


数メートル進むと……石段の上にお賽銭箱みたいなのと、縄につながれた鈴みたいなもの。そして、古ぼけた畳が敷かれている屋根がついた家みたいなのがあった。(どれも“みたいなの”がつくのは……作者の神社に関する語彙数が少ないからです。すみません_ _ by coyuki)

古ぼけた畳の上に、大きい器があった。

そして、それの前にいくつかの文書。

“壱”“弐”“参”“肆”“伍”と書かれてある。

とりあえず、壱の文書を開けてみた。

“水と塩を混ぜるべし”

「水と塩を混ぜる……んだってさ」

「あ、俺塩持ってる」

「たぶん、これ水だよな?結構重いし!」

たっくんと蒼井君が、器に塩と水を入れた。

木の棒が器の傍にあったので、私はそれをかき混ぜた。

「えーっと次は……花を浮かべる?あ、キョンが持ってるやつだ!」

キョンが弐の文書を開け、書かれてある通りに花を浮かべた。

最後の一輪を浮かべた時……

「うわっ!!!」

ほぼみんながそう叫んだ。

だって、器がひとりでに転がったんだから……

あたりに塩水が広がり、花が綺麗に浮かぶ。

たちまち足元全体に広がって……私たちは、石段の上に登った。

「えーっと、参は……木々を浮かべよ、らしいです。杉浦先輩ですよね?」

「あ、うん。分かった」

縄を解き、木切れを塩水と花の上に転がした。

水は水を吸って膨張したらしく、たちまち石段の幅ぐらいの……って、やっぱおかしい。一気にこんなに膨れるはずがない……

私は大きくためいきを吐いた。

全く……この山は、木までもおかしいのか。

「次は、肆……れ、霊を呼び寄せよ?」

たっくんはそう言い、固まってしまった。

……そうだ。この人、大のオカルト嫌いだったんだ……

「もしかして、これでしょうか?妙に膨れ上がってる、俺が持ってるこの白い袋……」

「や、やめてケロ!」

「カエルかっ!」

たっくんのケロ発言に思わずつっこんだ。

「とりあえず、開けてみたら?」

「そーですね。従わないと帰れないかもしんないし」

「ひぃぃぃぃ!!!」

よほど怖いのか……蒼井君の背中の後ろに隠れるたっくん。

全く、上級生が情けない……

下級生の水野君は、躊躇いなく袋の口を開けた。

次の瞬間……!

「ぎゃああっ!何かいっぱい来たよぉさーやちゃんっ!」

キョンの言う通り……何体もの巫女の姿をした物体が吸い寄せられるように集まってきた……

人が空中を浮遊している……不思議な光景。

いや、正しくは人だった人……かな。

「その伍……見送るべし」

蒼井君が、伍の文書を読み上げる。

私たちは、その一連の彼女たちの動作をずっと見ていた。

人が1人、木切れの上に立つ。下へ下へと流されていく。

人が1人、木切れの上に立つ。下へ下へと流されていく。

人が1人、木切れの上に立つ。下へ下へと流されていく……

……その繰り返し。


最後の1人が、私たちの方を振り向いた。

10代ぐらいの……私たちと同じくらいの女の子。

涙を浮かべた目で、微笑んでいた。

私たちは、まるでメデューサと目が合ったみたいに、その場に固まってしまう。

そして、その女の子は、また進むべき方向に目を向け……最後の1人として、下へ下へと流されていく……


―――……


「…………いっ、おいっ!」

「……ん?」

気がつくと、白い服を着たお兄さんに声を浴びせられていた。

私が起き上がると……みんなも、次々と起き上がった。

「大丈夫かい?みんな揃って行き倒れかい?」

そのお兄さんの隣にいたおじいさんが私たちにそう言う。

お兄さんの胸のポケットには、“海宮デイサービス”といった文字とマーク……どうやら、介護福祉士さんと患者さんらしい。

辺りを見回してみる……間違いない。恐怖山の麓だ。

……帰れたんだ、私たち。元の世界に。

「きゃーっ!やったぁ!ちゃんと生きてる!!!」

「よっしゃあ!また夏姫に会える!!!」

キョンとたっくんがそう叫ぶと……おじいさんは、激しく咳き込んだ。

「大丈夫ですか!?伊集院さん!」

「おお。たいしたことはない……心配無用じゃ」

「い、伊集院……さん?」

介護福祉士さんに背中をさすられているおじいさんの名字を聞いて、思わず聞いてしまった。

「あのっ、おじいさん、伊集院響香さんってご存知ですか?」

「響香……?久しぶりに聞いたな。知ってるも何も、わしの女房だ」

100年ほど前に行方が分からなくなってしまったんじゃがな……と、おじいさんは付け足す。

「……思い出した!」

蒼井君は、突然そう言った。

「伊集院響香って名前……恐怖山で遭難した人のリストに載ってたんだ!」


私たちは、100年ほど前のことを聞くために、ベンチに座ったおじいさんを囲んだ。

「あれは、100年ほど前のことじゃった……」

懐かしむような目で……まるで、100年前のこの山を見るかのように、おじいさんは恐怖山を見上げた。

「結婚記念、と称して親友夫婦とワシと響香でこの山を登ろうと、この麓までやって来たんじゃ。すると、妙な女が現れてな……ワシらにこう言ったんじゃ」

“「1人ずつこの山の中に入り、無事全員この山の頂上に辿り着いたら、この山を差し上げましょう」”

その女の人も、巫女の格好をしていたという。

「当時はワシも若かった……皆の意見も聞かず、勝手にその申し出を受け入れ、1人で山の中へ入ったんじゃ。そして、好奇心旺盛な響香もワシが山に入って行った後、山に入っていった」

親友夫婦は、何かが嫌な予感がしたらしく、麓に残ったらしい。

「ワシはどんどん山の奥深くへと進んで行った……そして、偶然にも響香と鉢合わせしたんじゃ。どうせなら2人で頂上を目指そう、と、ワシらはあの女の言葉を忘れて2人で頂上を目指したんじゃ」

おじいさんの目は、だんだん悲しげに伏せていく。

響香さんは途中で疲れたらしく、おじいさんの後に続く形で頂上を目指していったらしい。

「そして、とうとう頂上を見つけたんじゃ」

“「響香!頂上があったぞ!」”

おじいさんがそう呼びかけ、振り向くと……

「……なかったんじゃ。女房の姿が」

ここからはワシの推測じゃが、とおじいさんは続ける。

「その後数年間、ある者が命を絶つと、必ず後日、どこかの海でその者と深いつながりを持つ同じ姓を持つ者が水死体で発見されるようじゃ。……きっと、約束とやらを破った者を生け贄として巫女にするんじゃろな」

そう締めくくると……おじいさんは、また咳き込んだ。

介護福祉士さんが、背中をさする。

「わしももう、120を越えておる……響香も、もう100年もこの山にいることになるじゃろな。ワシも早く死んで、響香をこの不気味な山から出して、向こうの世界で2人で暮らしたいのじゃが……いざ死ぬと考えると、やはり怖くなるんじゃよ」

「さぁ、もう帰りましょう。伊集院さん」

あらかじめ持って来ていたらしい車椅子におじいさんを乗せると、2人は坂の下へと下って行った。


「なんか……恐怖っていうか、不思議な山だったね」

「俺はもうこりごりだよ……」

駅まで向かうバスの中。しんみりした雰囲気が流れる中、そう呟く。

「そのおじいさん、120歳を越えているんですよね?」

「うん」

「じゃあ、なんでその響香って人は年をとっていないんですか?」

何も体験しなかった陽香が、当然の疑問をぶつけてくる。

「……やっぱ、さらわれた時点で死んだんじゃないかな」

幽霊は年をとらない……って言うしね。

「そういえば、みんなはクイズでどんなのが出題された?」

「あ、俺、超ラッキー問題でした!歴代総理大臣の名前!」

「え?うそ、俺も!」

「キョンもなんだけど!」

「俺も」

「え、私も……」

「ってことは……」

みんなで目を見合わせ……笑いが起こった。


―――そして、後日。

私たちがこれから向かう海宮海で、着物を着た老婆の死体が発見された。

その死体の名は、“伊集院響香”

新聞のお悔やみの欄に、“伊集院秀一”といった名前があった。

そして……遭難者リストに、新しく、1人の女の名前が追加された。

あのまま、約束を守らず蒼井君と2人で頂上まで行ったとしたら……


私は、今頃そのリストに載っていたのかもしれない。




若干意味が分からなく、すみません。恐怖山編(・・;)

さて、次回はラストスポット、海宮海編!

どういう風にしようか、考え中です(笑)

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