第71話 浮気?
翌日の6限目。15班(沙彩達の班番号)は2年C組に集まった。
「まず、電車使ってテーマパーク行こ。んで、バスで恐怖山の麓まで行って、なんとかゲームクリアして、麓の近く(って言っても4キロ強離れてる)の駅までバスで移動して電車に乗って、海宮市駅に行って、そっから徒歩で海宮海!……で、いい?」
「異議ナーシ」←拓海
「キョンもー」←キョン
「私も!」←陽香
「俺も」←蒼井
「あ、バス賃大丈夫なんでしょうか?」
……という水野君の問いに、キョンは……
「まっかせてっ!こう見えて、あたしん家結構金持ちなんだぁ!バス賃ぐらい奢ってあげるよ!」
という、太っ腹発言をした。
まぁ、名字(遠藤崎)が金持ち度を現してるよね……
それはさて置き……この班には、ひとつ問題が。
「テーマパークと海宮海はどうってことなさそうだけど……問題は恐怖山だね。何も出なかったらいーけど……」
蒼井君の発言、まさにそれだ。
恐怖山……昨日ネットで調べてみると、不可解な事件が多発してるらしい。
遭難したり、遭難したり、遭難したり……
……不可解か?
「まぁ、要は気をつけてたら大丈夫……ってことなんじゃない?」
「そうそうっ!それにこの大男がいるからさっ!万が一幽霊が出てもビビって逃げちゃうよ」
「あ、俺なんか信頼されてる……」
キョンの発言に、水野君は少し不安そうに言った。
大まかな日程をたてたところで、解散となった。
帰りのメンバーは、私と蒼井君、そしてたっくん。丁度、男バスとサッカー部が休みだったから、このメンツになった。
水野君は彼女と下校するらしく、陽香とキョンは女バスの練習。
まぁ、水野君と陽香とキョンがもし部活休みだったとしても、帰りに誘わないつもりだった。
なぜなら……
「さぁ、白状してもらおーじゃないの。夏姫とのケンカの理由を」
「……まさか、それを聞くためにこのメンツで?」
サーティーツーにて、事情徴収するつもりだったからだ。
私の隣に蒼井君がいて、目の前にはたっくん一人。
「まぁまぁ小原先輩。カツ丼でもどーぞ。奢りですんで」
と言ってアイスを差し出す蒼井君。それを受け取るたっくん。
……あ~、ここでライトが入ってくれたら、事情徴収のセット完璧なのになぁ……
あ、でも、本物の検事の事情徴収では、カツ丼は出ないらしい。(出るのはドラマだけ)
……ま、それはさて置き。
「夏姫に聞いてもなかなか白状してくんないのよ。逸らしてばっかで……」
「・・・」
……おいおい、お前も逸らすんかいたっくん……
「……まさかとは思うんですけど、東郷先輩…………妊娠したとか?」
「はっ!?んなわけねーじゃんっ!一応常識は持ってるぜ俺!!!」
うわぁ、キャラ崩壊してるしぃ……
蒼井君は半分引きながら、冗談ですよ、と言った。
「……夏姫のやつ、勘違いしてるんだよ。俺が浮気したって。俺が他の女と歩いてたって」
「浮気ぃ?」
勘違い……ってことは、浮気している、というのは虚実らしい。
「心当たりとかは?」
「ねーよ……春休み中、話した女って姉貴とオカンぐらいだし」
たっくんのお母さんは、50手前の女性。一緒に歩いてても、母親と息子以外に見えない。
姉貴……小原優羽先輩は、夏姫と大の仲良し。勘違いすることはまずない。
「じゃあ、ここ最近大きく変わったことってありますか?」
という蒼井君の問いに、
「大きく変わったこと……っていったら、イトコが俺の家に住み始めたってことぐらいかな。内藤拓哉っていうんだけど」
たっくんはこう答えた。
たっくんのイトコ……内藤拓哉が一緒に住み始めた事実っていうのは、あんま関係ないだろう。
「……んま、明日夏姫によく聞いて見るよ」
「おう、頼むわ」
そう言うと、たっくんはアイスを食べ始めた。
「もしかして、東郷先輩が見たのって小原先輩じゃないかも」
帰りの電車内で、いきなり蒼井君がそう呟いた。
「ほら、世の中には3人ぐらい自分と似てる人がいるって言うじゃん?ドッペルゲンガーってやつ」
「ドッペルゲンガー?聞いたことあるけど……」
自分のドッペルゲンガーを見ると、数日後に死ぬ……とか。
「でも海宮市にたっくんとそっくりな人って、あんまいないよ?」
たっくんは……こういっちゃなんだけど、結構特徴的な顔つき。
つまり、そこら辺にいそうにない、ってことだ。
「海宮市広いし、分かんないじゃん?」
「んじゃーさ、蒼井君は見たことあんの?ドッペルゲンガー」
「んー……ないかも。ドッペルゲンガーって医学用語で言うと自己像幻視っていうんだけどさ……俺はまだ幻視する域に達してないっていうか」
「アハハッ!域って!」
ドッペルゲンガーを見るのに域がある、なんて……思わず笑ってしまった。
蒼井君って本当、ズレてるのか普通なのかよく分かんない。
だから……もっと知りたくなる、って思ってしまうんだ。
翌日の学校。
「あ、おはよー夏姫」
「……はよ」
いつもより遅い電車で夏姫が登校してきた。
しかも、目の下にクマつくって、声がどんよりしてて……こりゃ重症だ!
「夏姫さんよぉ……たっくんが浮気してるって思ってるの?」
「え!?なんで知ってんの?」
私が夏姫の席に言ってそう言うと、夏姫はうつむいていた顔を上げて言った。
「たっくん本人から聞いたよ。夏姫が勘違いしてるせいで関係がギクシャクしてるんだって。浮気っていうのは、夏姫の勘違いなんだよ!たっくんね、春休み中に話した女の人はオカンと姉貴ぐらいだって言ってたし」
「だ、だって、コレ……」
そう言って、夏姫が私の目の前に出したのは……たっくんらしき姿と、仲よさそうに歩いている……可愛い女の子の写メだった。
……途端に、私の中にあった、夏姫の誤解を解こうという熱心さは消え……逆に、たっくんを疑う心が生まれてきた。
そんな私の心の中に……
“「もしかして、東郷先輩が見たのって小原先輩じゃないかも」”
昨日の蒼井君の声が不意に浮かんできた。
「この人、ほんとにたっくん?」
「ほんとだよっ!この私が見間違うわけないよっ!頬についたかすり傷に耳の近くにある黒子、ちょっと薄めすぎた眉毛の端っこまでたっくんだったもんっ!」
す、すっごい観察力……
「論より証拠……この写メがあっても、私が間違ってるって言える?」
「・・・」
夏姫の呟くような声を掻き消すように、SHR開始のチャイムが鳴った。
とりあえず、例の写メを私のケータイに転送して、画像解析(拡大して画素数を増やして鮮明にする)をやってみた。
夏姫が言ってた、たっくんの特徴……頬についたかすり傷、耳の近くにある黒子、ちょっと薄めすぎた眉毛の端っこ……
「全部あってる……」
時間は、気がつけば昼休みになっていた。
「……昼休み中に、ちょっと尾行してみよっか」
私はそう決断し、席を立った。
えっと、たっくんのクラスは理系の国公私立大進学クラス……
あ、いた。たっくんだ。
もう一度、画像解析したものと本人とを見比べる。
……ドッペルゲンガーでもなんでもなく、同一人物だ。
たっくんは、友達と親しげに話している。
時たま女の子が入ってくる時もあったけど、ほぼ相手にしていない。
……ていうか、この写メのような可愛い子はいなかった。
「……だとしたら、他校の子かな……」
結局そんな結論に達し、尾行を切り上げた。
ていうかコレ、尾行なのか?まぁいっか。
教室に戻る途中……体育館内に、妙な人だかりができているのが目についた。
何があるんだろう……と思って、体育館へ。
「どうしたの?」
入口付近で見ていた同じ部活のメンバーに声をかけた。
「あ、さーや!今ね、ソロの声楽部の新入りさんが練習してんの!すっごいよ、マジで!」
この学校の声楽部は、2つある。
ひとつは、私が所属している合唱型。もうひとつは、ピアノ伴奏と歌い手1人のペアで結成されているソロ型。
噂では、ソロ型の方は1人、新入部員が入ったらしい。
「今丁度終わったとこなんだけど、また練習始めるんだってさ!見てきたら?」
「うーん……いいや。人ごみ苦手だし。んじゃーね」
そう言って、その場を去ろうとしたとき……体育館内から聞こえてきた美声によって、その足が止まった。
「うっわ……めっちゃ高い声……」
「そう!しかも、歌ってる人が超可愛いの!絶対見てきた方がいいって!」
「そーだね。行ってくる」
人ごみをかきわけて、体育館内に入った。
確かあの曲は、世界でも数人しか歌えない、という超難曲……
やっとステージの前に来て、大きくなった歌声の主の方を見た。
コンクールが近いためか、綺麗な本番用の衣装に身を包んだ女の子。
顔を見て、気がついた。
「もしかして……」
ケータイを出し、例の写メを出した。
……同一人物。
コロラトゥーラを駆使する美少女と、写メに映っているたっくんと親しげに歩いている美少女。明らかに同一人物だった。
昼休みのチャイムと同時に、その歌曲も終わった。
鳴り止まぬ拍手の中、舞台袖に入る伴奏者と美少女……私もステージ袖に向かった。
「ちょっといいかな?」
「は、はいっ!?なんでしょう?」
水を飲んでいたその美少女に声をかけると、驚いたように声をあげた。
……まぁ、無理はない。見知らぬ3年の私に声をかけられたんだから。もし逆の立場であっても驚くだろう。
「これ、君だよね?」
例の写メを見せて、問い質す。
それを見て、相手も「あ、はい。そうですけど」と頷いた。
「たっくん……いや、小原拓海にはちゃんと東郷夏姫っていう彼女いるから。小原拓海が欲しいなら、ちゃんと夏姫にケリつけて……」
「いや、ちょっと待ってください!」
……え?
「こんな格好だから分かりづらいと思いますが、俺、男ですよ?」
……はい?
驚きの事実を口にすると、その子はいきなり自分の髪を掴んで、スポッと外す。
クルクルの茶髪の下に、ツンツンの黒髪が現れた。
「ちょっと着替えてくるんで、待っててください」
そう言うと、どこかに消え……数分後に、男子制服に身を包んで再び現れた。
そして、大きく咳払いすると……
「俺、内藤拓哉っていいます。その写真の拓海君とは、イトコです」
「あ、ああ、そうなんだ……」
……これこそ、予想外の結末……と言うんだろうか。
いろんなことに驚いて、立ち竦んでしまった。
内藤拓哉君。たっくんのイトコで、自他共に認める女装が好きで趣味の女装マニア。咳払いしただけで声が劇的に変わる超人。
……まぁ、要は“女装の超人”だそうで……
「あ、そういや、女装した拓哉と街に出たっけ……拓哉が「新しいアクセ見たい」ってせがんできたから」
帰りのサーティーツー。私、蒼井君、夏姫、たっくん、拓哉君の5人で話をふくらませた。
「まぁ、無事疑惑も晴れたし、よかったじゃないですか、小原先輩」
「そーだね」
「私は最初っからたっくんのこと信じてたよーっ!」
「嘘つけ夏姫!朝の教室でのオーラはなんだったんだよ……」
目の前では、たっくんと夏姫がベッタリくっついてて……若干拓哉君は「大好きなイトコの兄ちゃんがとられた」って感じでブスッとしながらアイスを食べている。
やっぱり、たっくんと夏姫はラブラブなのがいちばんしっくりくるなぁ。
そう思いながら、私もアイスをつついた。
来週は、いよいよ遠足です。
更新がかなり滞った割にはパッとしない話ですみません(;;)
次回はいよいよ遠足編!
どんな出来事が待っているでしょうか……