第70話 行き先
ちなみに、ほとんどメンツは変わらない、って言ったけど……
「唯と離れちゃったねぇ」
「そうだねぇ」
昼食タイムに夏姫と弁当を食べながら、ふと夏姫が呟き私も返した。
私たちが所属する3-Aは文系国公私立大学進学クラス。3-Bは文系就職・専門学校進学クラス。
唯は3-Bに入った。
そして、私と夏姫の他に……
「でもこのクラス、何気にイケメン多くない!?加えて将来有望!ああ最高……っ!!!」
久々の登場、イケメン好きの河野さん。
仲いい子はB組に入ったらしく、よく私たちとつるむようになった。
「河野さんはどこ大志望なの?」
「近江大学(私立)だよ!マネージャーの試験に受かって、イケメン俳優かモデルのマネージャーになって……ウフフ」
さ、最後のウフフはなんでしょう……?
「そういえば、前から気になってたんだけどさ、大翔君って何になりたいって言ってた?」
「え?なんで?」
「あんなに頭いい子が何になりたいか気になっちゃってさ~」
「うーん……なったら教える、って」
そう言うと、夏姫は「え~!意味ないじゃん!」と駄々をこねた。
「じゃあ、蒼井様は何系に進んだの?」
「あ、理系に進んだって言ってた。だからA組かB組かなぁ」
理系かぁ~……と、河野さんは言った。
1年から2年への進級の際は文理選択をするだけで、進学か否かは決めない。
「それよりさ、今日の全校HR(体育館で行う)って遠足の班決めだよね?」
「そうそう!再来週にあるやつ」
海宮高校の遠足とは、まず同学年内の男女で1組のペアをつくる。(クラス解体)
次に他学年のペアと合体し、男子3人女子3人の1班が完成し、その班で遠足を行う。
でも……ただの遠足じゃない。
海宮市市内は、広い故にたくさんの見所スポットがある。(実に100箇所以上)
1班が、そのスポットの名前が書いてある100個のクジから3つを引いて、書かれてあるスポットをまわることになる。
その3つの間を、足だけでまわれるか、電車やバス(運賃自腹)を使わないとまわれないかは……運次第。
でも、そんなことより……
「私、幼なじみとペア組んだんだけど……夏姫ちゃんやさーやは誰と組むの?」
ペアをどうするかが、最大の問題だったりする。
「夏姫はもちろんたっくんとでしょ?」
「あ~……そのことなんだけどさ……ちょっとさーやにお願いがあんの」
「へ?何?」
「たっくんとさーや、組んで欲しいんだぁ……」
……はい?
「え、ケンカでもした?」
「まぁ、そういうとこかな……さーやから言ってね。お願いっ!」
「うん、まぁいーけど……」
どうしたのかなぁ……あんなに仲よかったのに……
「じゃあ、夏姫は誰と組むの?」
まぁ大体予想はつくけど……
「あ、唯だよ!」
……うん。予想通り。
昼休みにたっくんとペアのことを言い、全校HRの時間に一緒に体育館へ。
「何かあったか知らないけどさ、夏姫と早く仲直りしなよ?」
「あ、ああ。うん」
心なしか、たっくんの表情が暗く見えた。
「では、これから1班を作ってその場に腰をおろしなさい」
遠足の担当の先生からの合図で、約540人みんな一斉に立ち上がる。
そういえば……蒼井君は、誰と組んだんだろう。
一緒に登校したときも、特に遠足の話はしなかったからなぁ……
「あ、沙彩ちゃ―――んっっっ!!!一緒に組もぉ―――っっっ!!!」
女子の集団の中から、聞きなれた声がして……
女子の集団をかきわけて、見慣れた姿がやってきて……
「キョン!蒼井君!」
キョンに腕を掴まれて、蒼井君が見えた。
一応デッキ近くに移動した。
「はー……死ぬかと思った……酸欠で……」
蒼井君は、人口密度が高すぎて息苦しかった模様。
「ほんとビックリしたよ!先生の合図があった途端に女の子たちが集まってくるんだもん!このモテ男め!」
キョンは蒼井君の背中をバシッとたたく。
うわー、痛そー……
「とりあえず、2年と3年は決まったな。残りは1年……」
残念ながら、私には1年生で仲良い子はいない。
後輩に対しても友好的なキョン情報からだと、元A中女バス部のメンバーも何人が入学してるらしいけど……前にも言った通り、中学時代は後輩にさんざん恐れられていた。
「あ、小原先輩!」
どこからかたっくんを呼ぶ声がし、見てみると……
うわっ、デカッ……
「久しぶりです、小原先輩!1年生いなかったら組んでもいいですか?」
「ああ、うん。いいよ」
身長推定190cmの小城並みの大男が姿を現した。
しかも、その横には……
「ギャッ!すすす、杉浦先輩っ……」
当時A中1年だった、築島陽香がいた。
その場に座り、自己紹介タイム。
「俺、3-Dの小原拓海。このデカい1年とは中学の時の後輩。一応班長なんで、よろしく」
班長は、原則として3年男子らしい。
「3-Aの杉浦沙彩です。よろしく」
「2-Bの蒼井大翔です。よろしく。……あと」
「わっ」
……と言うと、蒼井君はいきなり私の肩に腕をかけた。
「この美人な先輩は彼女なんで手出さないよーに」
「え、マジでー!?」
「やるなぁ蒼井」
「アハハッ!沙彩ちゃん顔赤ーいっ!」
みんながひとしきり反応した後、肩から腕を離す。
あ~……ビックリした……
ほてった頬を冷ましてる間に、自己紹介は続く。
「私、遠藤崎キョン!2-Dだよ!本名は最大のコンプレックスだからキョンって呼んでね!ヨロシクゥッ!」
「俺、1-Eの水野章介。このチビは俺のイトコだったりします。よろしくお願いします」
「わ、私、1-Aの築島陽香です……すす、杉浦先輩は、中学校の時の先輩です……い、色々ご迷惑をおかけすると思いますが、よよ、よろしくです……」
……うーん。私、こんなにも恐れられていたんだなぁ……
「さてと。クジ引いてくるから、待っててな」
たっくんはよいしょと立ち上がり、ステージの方へ向かった。
「杉浦先輩、小原先輩ってたしか、東郷先輩の彼氏じゃなかったっけ?」
「あ、うん。そーだよ。でもケンカしてるらしくってさ……ペア組むのはちょっと気が引けるみたいだよ、お互い」
蒼井君は「ふーん、そっか」と相槌を打った。
ちなみに、桃花とユースケ(ギャルカップル)の仲も只今、相当悪いらしい。
毎日のように、桃花とユースケから愚痴のメールが来る……
「あ、そういえば陽香、部活はどーするの?」
「あっ!バ、ババ、バスケを続けようと思いますっ!」
そう言うと、水野君の後に隠れる。
私は盛大な溜息をついた。
「陽香さぁ、私が怖いのは分かるけど……逆だったらどう思う?後輩に怯えられるなんて嫌じゃん。同じ班だし、仲良くやろーよ。ね?怯えたまんまじゃつまんないじゃん?しかも私、中学の時より何気に(気さくさ度が)進化してるし」
「……ハ、ハイ」
ようやく水野君から離れ、小さく正座をした。
しばらくして、たっくんが戻ってきた。
「よし、じゃー見るか!」
6人の輪の中央に置かれた、3つのクジ。
「俺がこれ裏返すから、さーやはそれ、ショースケがそれを裏っ返してくれ」
「イエッサー」
各々が裏返したクジには……
“海宮テーマパーク”“海宮神社”“海宮海”
「さて、どうするよ?さーやさん」
「私に聞かないでよ。海宮人のたっくんが決めてよ」
「・・・」
……黙り込んでしまった。
「杉下先輩、この3つの間……10キロ近く離れてるんですよ、それぞれ」
「……は!?じゅっきろ!?」
“杉下先輩”をツッコむことを忘れ、派手に叫ぶ。
「あ、この海宮神社って……確か超超超―――――っっっ!!!山奥だよぉ!」←キョン
「この神社がある山って……確か、恐怖山って名前じゃなかったっけ」←蒼井
「海宮テーマパークって、ほぼE市だったような……前、友達と行ったことあるから」←陽香
「まぁ結論は……小原先輩、クジ運なさすぎってことですかね」←水野
……高校生活、最後の遠足。
なんだか、波乱の予感がしてやまない……