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海と想いと君と  作者: coyuki
第4章 止められない想い
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第64話 手紙

「あ、さーや!ここ、ここぉ!!!」

……打ち上げ会場にて。

会場は、畳の広い部屋……いかにも“サークルの飲み会”って感じの。

少し顔だけ覗かせてキョロキョロしていたら、桃花がバカデカい声で私を呼んだ。

「まだ結構揃ってないね」

私と桃花。それに3年の先輩が2・3人といった状況だった。

「そだねぇ~!なんせあと1時間あるもんねぇ。会場が海宮だから桃は待ちきれずに来ちゃったんだけど……さーやってA市じゃなかったっけ?」

「ああ、うん。A市だよ」

「え!?じゃあなんで?いいぐらいの電車ってあるじゃん!」

「……まぁ、うん。いーじゃん、ちっちゃいことは」

……実は、バッタリ会う、というパターンから逃げていたりする。

私って、こんなに臆病だったんだ……

「わぁ、出たァ!消えかけてるゆ○てぃネタ!!」

桃花の言葉に適当に返しつつ……内心では、ドキドキしていた。

とりあえず、呼び出す?……いや、楽しんでる途中に悪いよね。

しらばっくれる?……いや、人としていかんでしょ。

話す機会があったら……いや、18人も先生もいるんだ。それはない。

……シカトする……?

「いや、そりゃいかんっしょ!!!」

「わぁっ!!!ビックリしたぁ」

「あ、ごめん……」

いかんいかん。思わず声に出てしまった……

もう、何をどうしていいのか分からず、ため息をつく。

「あ、そういえば、桃昨日メアド変えたんだぁ。赤外線するからケータイ出してぇ?」

「うん、いいよ」

ケータイを取り出そうと、がさがさバッグを漁る。

ふと、手に当たった……昨日、唯経由で渡された伶君からの手紙。

まだ読んでなかった……どうしても、読む勇気がなかった。

「さーや?どしたの?」

「え?い、いや、なんでもないよ。……はい、赤外線!」

……よし。今日読もう。

きっと、家にいるより他のことに気が紛れるから……


それから、だんだんと集まってきたメンバーとの会話に花を咲かせる。

チラッと見ると……数人の男子の塊の中にいる蒼井君を見つけた。(塊の中には武田先輩もいた)

来ていた嬉しさと、気まずさや緊張。いろんな感情が渦めく中、女子とのガールズトークにも花を添える……

……今まで一度も、こんな同時進行の作業をやったことない。

「おーい!静粛にぃ!!!」

巨大先生の声で、一瞬で静まり返る会場内。

みんな一斉に巨大先生の方を注目する。

「みんな集まったかぁ~?各ブロックの3年生は点呼取れ~い!」

……はぁ!?いきなりピンチじゃん、私……

普通、点呼とは1点に集まって名前を呼んで確かめるもの。

徐々に他のブロックも点々と集まっている。

当然、私もどっかには集まらないといけないわけで……必然的に、蒼井君の目に映ることになる。

ピンチの中で平静を装っていると……

「おっ、沙彩ちゃんいんじゃん。ヒロ君もいんね。俺もいんね。センセー、水ブロックの実行委員みんないまーっす!」

……さすが武田先輩。自分で確かめてるよ……

この時ばかりは、武田先輩を大いに尊敬した。


実行委員代表と巨大先生の挨拶。そして乾杯を済ませて、食事。

「あ、これメッチャおいしい!さーやも食べてみ~?」

「ほんとだ。何肉かな。牛?鳥?」

「あははっ!牛と鳥は全然違うじゃん!」

2年の同級生とわいわい喋りながら、用意された料理をつつく。

……あ、そういえばお母さんに言ってなかったな。打ち上げのこと……

「ごめん、ちょっと電話かけてくる」

「オッケー」

バッグを持って、一旦会場を出た。


1階に降りると、普段通り営業している外食屋の雰囲気が漂ってきた。

「おや?お嬢さん、海宮高校の生徒さんかい?」

「はい。お世話になってます」

「まぁ、ゆっくりしていきなされ」

食器を洗っていたオバチャンと、いまいちかみ合っていない会話を交わした後、店の外へ。

もうすっかり暗くなっているためか……人気が全くなかった。


とりあえず、石段に座ってケータイを開く。

「えーっと……さ行……杉浦彩華……」

……というのは、お母さんの名前。

ケータイには、大体身内であろうとなかろうとフルネームで登録している。

3回コールが鳴って、お母さんが電話に出た。

「あ、もしも……」

『沙彩悪いわね。今家宅捜索に入る前なの。10分後に掛け直すわ』

「え、ちょっ、すぐ終わ……」

……切れた。

通話時間、5秒……

「10分後……かぁ」

会場戻ってまた出てくるの、めんどくさい。

……10分の間、夜風にでもあたってようかな。


―――……


一昨日の放課後……荷物を取りに上がろうと、3年教棟に入ってふとA組を見ると、蒼井がいた。

「……何してんの?」

A組内に入り、入口近くの机に座る。

「あ、えっと……窪内さんだよね?」

その第一声にガクッと来た。

名前を正式に覚えられていない事実に

「……窪田だけど」

「そうだった、窪田惠美さん。人の名前って覚えるの意外と苦手だから……」

「いや、惠夢ね」

「・・・」

相当眼中にないんだな、と改めて実感する。

「ところで、さっきも聞いたけど何してんの?」

「ああ、帰る準備。結構時間押しちゃったから」

時間を押す、というのは予定より長引いたこと。

業界用語で、押すの対義語は巻く、らしい。

窓の外は雨……

「雨降ってるね」

「え、うそ、マジで?」

窓に背を向けていた蒼井が、窓に近寄って雨の加減を見るように窓を開けた。

「うわー……結構本降りじゃん。傘持ってきたっけ……」

「雷も鳴ってるね」

ふと、あのジンクスがぎる。

文化祭2日目の放課後、西日の差す教室でキスをした男女は結ばれる……

西日は差してないけど……心のどこかが、うずく。

急がば急げ、というあの占い師の言葉。

今が……急ぐチャンスなのかもしれない。

「蒼井」

「ん?」

蒼井が振り返ったと同時に、机から下りて蒼井に近づいた。

「え、何?」

出来る限り近づいて、出来る限り背伸びして、蒼井と身長を合わす。

「ちょっと目ぇ瞑って?」

「あ?あぁ」

私が言った通り、目を瞑る蒼井。

分かってないのかな、この人……こんなに近づいて、目を瞑ることを要求するっていうのは、どういうことなのかってこと……


……キスをするまで、あと数センチの距離まできたとき、入口の扉が開く音がした。

それすら無視して、距離を縮めていく……


「……ちょっと待って」

蒼井が目を開き、至近距離で目が合った。

両肩を掴まれ、蒼井は無理矢理私との距離を遠ざける。

私が背伸びさせていた足も、ストンと定位置に戻った。

「何しようとした?さっき」

「……知らないの?この学校のジンクス」

「は?ジンクス?」

「文化祭2日目の放課後、西日の差す教室でキスをした男女は結ばれる……って」

それを聞いた蒼井は、私の肩から手を離して……有り得ない速さで教室を後にした。

100Mを10秒で走るだけある……と同時に、いつもの私に戻った。

「これって……告ってるのと、ほぼ同じじゃん」

やってから、気づく……途轍もなく、馬鹿だった。


そして、今日。巨島先生による打ち上げに来ている。

蒼井は、数人の男子とかたまって何かを喋っていた。

私はというと……同じブロックの先輩と、文化祭の反省。

他の女子たちは、いかにも打ち上げといった雰囲気を楽しんでいた。

……その女子達の1人、林桃花先輩が蒼井のところに行く。

「大翔君、ちょっとさーや探してきてくんない?」

「え?どうかしたんですか?」

「電話かけるって言ったきり戻ってこないんだぁ……まさか誘拐!?的な!うちらは女子だからこんな暗い時にむやみに外に出ちゃいけないらしーしぃ……頼むっ!」

「分かりました。なんかあったらすぐ電話するんで」

「え?大翔君、桃のケー番知ってんの?」

「夏休みぐらいに無理矢理交換したじゃないですか(桃花から)」

「あ、そうだったっけ~?とりあえず、よろしくね!」

林先輩の声は大きいから、すぐに会話の内容は分かった。

蒼井が席をたったと同時に、私も先輩方に一言言って席をたつ。

「蒼井!」

「……窪田さん」

私の方を振り向いたその顔には、焦りが垣間見られる。

……もしかして、杉浦先輩のことを……

「あのさ、一昨日のことなんだけど……」

「悪い。今急いでるから、その話はまた今度」

そう言い、立っている私の傍を通って店を出る蒼井。

残して行った風が、妙に冷たくて……

……確信した。

私のことを、どうとも思ってないって……

「杉浦先輩のことが、好きなんだ……」

あの、尋常でないような焦り顔。

そんな顔にさせるのは、想い人しかできない。私には、できない。


私には、できない……


―――……


「あ、そういえば……桃花には、電話かけるってだけしか言わなかったっけ」

なかなか戻ってこない私を、心配してんじゃないか……って思って、メールを打とうと思ったけど……

「……ま、いっか」

送ったところで、あんなガヤついているところで着信音が聞こえるわけないし。

それに、私のことなどすっかり忘れて騒いでいる頃だろう。(実際は沙彩が心配で今騒いでいるところなのだが……)

それより、今吹いている夜風がたまらなく心地いい。

「……そうだ」

今なら、伶君からの手紙も読めそうな気がする。

バッグから、白い封筒を取り出して……便箋を取り出した。


『To.杉浦沙彩


唯からもう聞いただろうけど、イタリアでこれから後の人生を過ごすことになった。

杉浦には愛美の墓を掃除してもらったりと色々世話になったな。

婚約者がいることは、チビの頃から言われ続けてたんだ。

愛美と付き合うことになった時は、色々と親父に邪魔されたもんだよ。

それでも、愛美と付き合えたことはよかったと思う。

いつか、嫁のことも愛するようになるかもだけど、愛美のことは今も昔もずっと大好きだ……ってことを、墓の下で眠ってる愛美に伝えてくれ。

ひとつ、よろしく。


あと、杉浦のことは唯から色々とメールで聞いた。

超ハードな実行委員になったんだってな。気の毒に。

それに、あの3年の武田とも一緒なんだって?益々気の毒だな。

でも1年は蒼井だろ?お前にとっちゃあ相当ラッキーだよな(笑)

いつか、蒼井とくっつくといいな。心から祈ってる。


そうだ。唯といえば……別れてから、友達に戻ったんだって?

どうだ?恋人だった時の唯の顔と、友達の唯の顔。なんか違くねーか?

心なしか、唯のテンションもだいぶ上がってきてるきがするよ。(メールの文面だけで判断してるけど)

でも、たまに落ちる時もある。決まって杉浦の話が出てくるよ。

「友達に戻るのって結構しんどい」「どうしても彼女だったときの思い出が苦しめる」……愚痴ってばっかだ(笑)

杉浦はたぶん、「こんなに早く友達として接してくれるってことは、唯は私のこと最初っから好きじゃなかったのか」と誤解するだろうけど、そうじゃねーよ。

俺が見てきた限りは、唯はすっげぇお前のこと好きだったと思う。うん。


長々とすまん。もっと書きたいところだけど、飽きてもいけねーしな。

とりあえず、ちゃんと好きな奴と付き合えよ。好きじゃねーのに付き合っても、続かねーぞ。

あと、もちろん俺は退学する。

退学しても、俺のこと忘れないでくれ。別れ現場に蒼井を送ったのは俺だからな。

恩を忘れちゃ困るしな。

ひとつ、よろしく。


From.五十嵐伶』


「め……めちゃくちゃな文章だなぁ……」

まるで、言い残したことを書き連ねたような……そんな文面だった。

でも、なんか伶君らしい。

フフッと笑っていると……


「あ、こんなとこにいた!」


蒼井君の、声がした。




大事なことは、メールより手紙の方が心が伝わる。

それは作者もつくづく思うことです(しみじみ)


さて、とうとう大翔と鉢合わせしてしまった沙彩。

以後、どうなるか……!

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