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海と想いと君と  作者: coyuki
第3章 片想いの日々
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第60話 男装の超人

文化祭1日目当日……

……前にも言った通り、私は肝心なとこで寝坊をする。

例えば高校入試。集合時間に起床した。

例えば入学式。早々に先生や生徒たちの注目の的に。

例えば修学旅行。いつもより早く起きるのを忘れてしまい、お母さんを怒らせてしまった。

といった感じだから、文化祭当日の今日も……

「あ~も~!今月のお小遣いが極端に減る!!!」

駅まで猛ダッシュ中。普通列車がとっくに出発したから、特急列車の切符を取らないといけない。

しかも、その切符が750円とお高い……

「駅員さんっ!海宮行きの特急券1枚!」

「は、はい……750円です……」

私のかなりの荒れっぷり(?)に、駅員さんもタジタジしていた。


「も~!おっそいよさーやぁ!」

「ごめんごめん……」

息を切らしながらHR棟の2-Dへ。

夏姫が仁王立ちして待っていた。

「ま、実行委員のさーやが来てくれてよかったよ!内装の最終チェックとこの衣装着てね」

「うん」

衣装は、主に接客する人が着る。ウラ……つまりレストランでいう厨房を担当する人は、個々のエプロンを着用する。

ちなみに接客衣装は、女子はメイド服。男子はスーツ。

……メイドカフェとホストクラブが融合した、みたいな。

そんな中、「さーやはメイド服とか絶対似合わない」という意見が飛び出し……「それじゃあ、ちょっとしたゲームやろうよ」という意見も飛び出し……

その意見をふまえた上で、今私が着てるのは……

「キャー!さーやカッコいい!!!」

「ほんっと、2-Dのヒモ男子よりもカッコいいし!」

スーツ。しかもヅラまで用意されていた。

目は切れ長になるよう施され、チークもグロスも使われてない、女っぽくないメイク。

「歌舞伎役者じゃないよ、私は……」

あまりに男に見えすぎる自分の顔を見て、少し複雑な思いになった。

ちなみに、ゲームというのは……“さーやが女だと気づくかゲーム”

女だと気がついた人数が10人を越えたら打ち上げの幹事は私、10人以下だったら幹事はゲームを考案した中島。

いわゆる、幹事をめぐる争い。

ちなみに中島は女装もせず、全身鏡の前でスーツでナルシなポーズをキメている最中だ。

全く……どこまでも不平等を愛する男だ。


カフェがオープンした。

1組目は友達連れ、2組目はカップル、3組目は見知らぬ中学校の制服を着た女子同士……

開店から15分後、だいぶ席が埋まってきた。

「さーや、ゴー!」

夏姫の合図で、男子バージョンの私が接客に出動した。


―――……


1-Dの出し物は……これまた地味な、「展覧会の絵」

俺が出し物で何をしたいか聞いたところ……自他共に“金持ち”だと認める榊原サカキバラが自分のコレクションを展示することを提案した。

多少ブーイングが出たけど、他に意見が出なかったのでそれに決まった。

「大翔、あんま実行委員になった意味なくね?クラスでも学年でも」

一緒に校内をまわっているカイジにそう聞かれる。

確かに……準備なんか3日ぐらいでできたし、内装だって拘るにも拘れない。

いや、拘ってない内装の方が榊原コレクションの味を引き出すにはいいかもしれないな。

「そう?」

「だってさ、ブロック曲だとしたら……2年は杉浦先輩っしょ?しかも3年は急浮上した武田先輩……まぁ大翔もかなり目立つけどさ。そんな優秀な先輩2人だったら、大翔は任せとくだけで何もしなくてよくね?」

「いや……1年で後輩だからって先輩2人に甘えるようなことはしてねーよ。てか、したくないし」

だから精一杯、杉浦先輩や武田先輩をサポートした……はず。

そんな俺を見て、カイジは「やっぱ真面目だねぇ」と一言呟いた。


1年の教棟を歩き回り、2年の教棟に入った。

いつもは他学年の教棟には入ってはいけないけど、文化祭の時だけは良しとされている。

「お?D組の方騒がしいなぁ……って、すっげぇ列!」

D組の入口からF組の出口にまで続く長蛇の列。

何かやってるんだろうか、杉浦先輩のクラス……そういえば、何も聞いてなかったな、クラスの出し物。

「2-D……カフェ?」

人々の間から垣間見える看板。そこにはそう書いてあった。

「カフェ?カフェでこんな列できんの?2-Bでもカフェやってんのに……」

カイジの声につられ、B組を見てみると……列どころか、人の気配すらうかがえなかった。

この差……カイジは一層ワクワクしたらしく。

「ちょっとお姉さん、僕たち先に行かせてもらっていい?」

奴は得意の色仕掛けで3年の女子の先輩に頼む。

元々カイジは色気が凄いのだろう……その先輩は鼻血を出した倒れた。

「ほら大翔っ!入るぞっ!」

「あ、ああ……いいんですか?」

カイジに腕をひっぱられながら、倒れた先輩のツレらしき人に聞く。

ツレらしき人は無言で激しく首を縦に振っていた。

「どうも、ありがとうございます」

笑顔を返して、2-Dの教室……もとい、2-Dカフェに乗り込んだ。


内装は夜のバーを思わせる黒を基調とした内装。所々に設置されてる植物。

「2名様でしょうか?こちらへどうぞ~」

妙に短いスカート丈に頭に変なカチューシャみたいなのをつけた女子の先輩に促され、あいてる席に座った。

店内には、スーツ姿の男子の先輩とさっきの女子の先輩みたいないでたちの女子の先輩が慌しく駆け回っていた。

「へぇ、スーツにメイド服って……ホストクラブとメイドカフェの融合?」

どうやら、女子の先輩の服装は“メイド服”というものらしい。

「それより、なんか頼もう。小腹空いたし」

テーブルにあったメニューを取り出し、広げる。

ケーキが5種類、パフェが3種類、ちょっとした軽食が3セット、飲み物が5種類、その他5種類。

……なるほど。この種類の多さが長蛇の秘訣?

「俺、Bセットとコーヒーにしよ。カイジは?」

「え~っと……フライドポテトとコーラ」

「うわ、アメリカン」

とりあえず、俺もカイジも注文は決まった。

そして、すぐ隣の席で女子生徒から注文のメモをとってるスーツの男子の先輩……

「……以上ですね。少々お待ちください」

どうやら注文を聞き終えたらしく、ボールペンをポケットに差し込んでいた。

「すみません、こっちいいですか?」

「あ、はい」

俺がそう声をかけると……その先輩は、少し顔色をかえる。

でも、すぐ元に戻って……

「ご注文は?」

彼は営業スマイルでそう聞く。

隣の席の女子生徒は、やけにキャーキャー言ってて……

すぐ目の前にまで来たその先輩のあまりものカッコよさで、俺が思い浮かべていた長蛇の列の意味が更新された。

にしても……こんなイケメンな先輩、いたっけ?


―――……


「お疲れさーや!」

「は~……もう疲れたどころじゃないよ……」

ヅラをとって、スーツのボタンをゆるめる。

何時間かヅラの中に納まっていて窮屈そうだった長い髪が、一気におりてきた。

……結果。誰にも気づかれなく、ゲームは終わった。きっと更衣室の外で中島はうなだれてることだろう。

ささっと元の制服に着替え、メイクを直した。

「男のフリするのも大変だねぇ……イケ○ラの芦○瑞希ちゃんの気持ちが分かった気がするよ、この何時間かで……」

イケ○ラとは、女の子が男装して男子高に入学する、みたいな話。

「でもさ、交代時間ギリギリでいきなり大翔君とカイジ君が来た時は私もビックリしたよ!だって列に並んでなかったっしょ?」

夏姫の言う通り……注文を聞き終えて、呼ばれたその声の主が蒼井君で動揺した。

でも幹事をやりたくない一心で……全身全霊で平静を装って注文受けたっけ。

そのおかげか、全くバレてなかった様子。

「気がつかないうちに並んでたんじゃないかな……ま、とりあえず何か食べに行こ」

「うん!あ、もしどっかでたっくんと会ったらたっくんと2人でまわるからね!」

「はいはい……もうそのパターンは慣れてるよ……」

海宮花火でも、修学旅行での自由行動でもそうでしたから……


裏口から教室を出て、廊下を見る。

まだカフェの中にいる蒼井君やカイジ君を見物するためか……長蛇の列ができていた。




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