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海と想いと君と  作者: coyuki
第3章 片想いの日々
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第59話 ジンクス

「ちょー、さーやぁ!ケーキの発注って50個ずつだよね?」

「うん、50個ずつの5種類ね」

実行委員決定から、数週間後。

いよいよ文化祭準備も大詰め……ブロック曲の方も、武田先輩の見事なセッティングにより着々と準備が進んでいる。

「さーや、ちょっと内装の方手伝ってぇ!」

「はいはい」

衣装作りの手を止めて、内装の方へとまわる。

「ありがと、さーや!だいぶ進んだよぉ!」

「いーえ」

ずっと屈ましていた腰をあげ、大荷物を持った後のおばあちゃんみたいに腰をたたく。

「さーやぁ!マジピンチ!BGMが鳴んないんだけどぉ!」

「今行く~」

BGMの試し流しがうまくいかないらしく、音響調整にまわる。

無事流れた後、今度は看板作りのヘルプに呼ばれ……


「なんか……さーや、屍累々(シカバネルイルイ)って感じだね」

午後8時。すっかり暗くなった空の下を夏姫と唯と3人で歩く。

ちなみに、この文化祭準備期間はHR棟なら午後9時まで使用しても構わない。

まぁ、そこまで準備するクラスは少数だけど……

「しっかし、沙彩マジで大変だなぁ!明日って多分、ブロック全員集合して2回目の合わせじゃね?」

「察しの通りだよ……」

1回目の合わせは……パート練習がままならなかったのか、グダグダ。

明日、2回目を迎える。結構期間があったし、パート練習も各クラスでやってきている……はず。

「でもさ、1年はあいつが実行委員でいーの?転入生だろ?」

「リーダー性に在校期間なんて関係ないと思うよ?」

「まぁそうかもしんないけどさぁ……」

唯は未だに蒼井君を気に入っていない様子。

……きっと、夏にあんなことがあったから、蒼井君も唯を良くは思ってないだろう。

「あ!今日、おもしろいこと聞いちゃったんだぁ~」

夏姫が小走りして止まって後ろを向き、私たちの目を覗き込む。

まるで、聞きたい?って聞いてるみたいに。

「おもしろいこと、って何?」

言いたげな目だったので私がそう聞くと、夏姫はパッと明るい表情になった。

「あのね、文化祭の最終日に西日が差す教室でキスしたカップルは結ばれるんだってぇ!」

話の内容は……どこにでもありがちなジンクスみたいなものだった。

「……へ、へぇ~」

とりあえず、相槌を打つ。

ていうかその前に……教室でキス、なんて結ばれてること前提じゃん。

「前例あんの?」

「あるよ~!まずA組のマキとユウジ、C組のサナとヒロキ、そして我がD組のカナエとサトシ!あと、3年の半数のカップルはこのジンクスで成就したらしいよ!」

唯に前例を聞かれ、夏姫はあらかじめ言う準備をしていたかのようにスラスラと話す。

「でもねぇ……他の人に見られたら成就できないらしいんだ」

「う、丑の刻参り……?」

……といったら、あれだ。

キスしてる2人がいる教室の前を誰かがたまたま通りかかって教室内を見ちゃって……

2人同時に「み~た~な~」……的な?

……怖すぎる。

「ま、どうせ縁のない話だな、俺にとっちゃ。文化祭の最終日なんて午前中に終わるじゃん。その後は後夜祭ならぬ後昼祭だし?西日が差す頃なんて、打ち上げに行く途中だろうし」

ていうか、今の時期西日なんて差すかな……

唯が言う後昼祭とは、合唱コンクールが終わってからある、生徒会が中心になった生徒参加型のライブみたいなもの。

実行委員である私は片付けとかで残っとかなくちゃいけないから……

「気をつけよ……」

2人にバレない程度に呟いた。


翌日。2回目の合わせ……

1回目よりかはだいぶマシだった。けれど、まだ音程のズレが気になる。

ちなみに指揮者は3年の西表イリオモテ先輩、伴奏は五目ヵイツメガオカ先輩。

2人揃って変な名字……が第一印象だった。“五目ヵ丘”って名字を初めて見たときは“五目ヵゴモクガオカ”って読んじゃったし、“西表”だって“西表ニシオモテ”と読んでしまった。

その2人から曲の出来について評価とアドバイスをしてもらい、続いて実行委員。

武田先輩は……

「1回目よりかはちゃんとできてて良かったよ~以上」

……さすが元ヤン、気だるさが垣間見れる。

私の番が来た。

「えっと、まず最初はソプラノ……10小節目のト音が前の1オクターブ下のト音から一気に駆け上がるせいか、ホ音で留まってます。それから25小節目のハーモニーの部分はもっと影の部分から主張するような声量で。あと、57小節目の8拍伸ばすところが7.3拍ぐらいで途切れています。それと、101小節目の……―――(約10分後)……とまぁ、このくらいです。以上」

持ってた楽譜から顔を上げると……何故かみんな、死んだような顔をしている。

隣にいた蒼井君から腕をつつかれ、「先輩、アドバイスが長すぎ」と言われてしまった……

……だって、“アドバイス”だもん。


私の次の番だった蒼井君は、悩殺スマイルつきの褒め評価で女子を魅了した。

それからあと1回通して、この日の合唱合わせは終わった。

「次に合わすのが文化祭の前日、最後に合わすのがリハーサル……かぁ」

武田先輩からもらった今後の日程表を見て、チェックを入れる。

あと2回の合わせ……その中で完璧に仕上げるためには、どこをどうすれば……

「やっぱりここは、パート練習……かな。音楽室借りれるかな……」

「なんか賭けでもしてるの?」

「うわっ!」

横からいきなり現れた蒼井君。

「びっくりしたぁ……賭けてないよ何も。そんなメリットもデメリットもどちらもあるような……ほら、運を手玉にとってるみたいなもんじゃん?」

「手玉って……」

まぁそうかもね、と蒼井君は笑った。


それから、HR棟に戻って内装の手伝い。

ちなみにこの期間の授業は仮HR棟(物凄くボロい)で行われる。

「近くなったねぇ、文化祭……」

夏姫がいきなり、ふとそう呟く。本当、近い。

文化祭まで……あと約1週間。




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