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海と想いと君と  作者: coyuki
第3章 片想いの日々
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第57話 ブロック曲

なんか、初めて実行委員になれて嬉しいって思った。


「……で、俺は更生の道を歩み始めたってワケ。3学期から」

武田武蔵先輩のトリビアを長々と30分も聞いた。

まぁ、超省略すると……もともとすさんでいた武田先輩は、3年の3学期にまっとうな人間になろうと急に思い、更生の道を志したという。

そのスタートラインが、実行委員の立候補だったらしい。

「あの……早く会議始めましょーよ。別のクラスの人、切り上げてますよ?」

蒼井君が廊下を指した。

隣のB組……風ブロックだった1・2・3年生が談笑しながら歩いている。みんな女子だった。

「ああ、そうだね。んじゃ、まず各クラスでの出し物の決採っといて。んで、俺らが話し合うのは、ブロックの曲」

「ブロックの曲?」

中学の時はやらなかった“ブロックの曲”について蒼井君に説明した。

「文化祭の2日目に各ブロックで合唱やるんだ、毎年」

「へぇ。おもしろそうだね、それ。ざっと数えて120人の大合唱……杉浦先輩は去年何やったの?」

「んと……クラスでカレーの模擬店、ブロックではキスケの“白いベンチ”。結構ウケたよ」

「え、笑いで?」

武田先輩の視線に気づき、会話を中断した。

先輩は何故かほのぼのした目で……

「仲いーねぇ、2人とも。さっさと曲決めちゃおっか?」

「あ、はい」


―――……


下校時間ギリギリで、ようやく学校を飛び出した。

「保留……かぁ」

武田先輩には彼女がいるらしく、校門で根気強く待っていて……

そして私は今、蒼井君と駅のホームへ向かっている。

「まぁ、男女兼用の曲ってそうないからね」

……そう。女性アーティストの曲だったら男子にとってはキツいし、男性アーティストの曲だったら女子にとってキツい。

決まったとしても、ソプラノ・メッゾソプラノ・テノール・バリトン・バスとオペラ並みにパートが分けられるから、音楽の先生と協力して編集するのも大変。

「いろいろ大変だけどさ、がんばろうね」

「うん、もちろん」

にこっと微笑む蒼井君。

……この笑顔を見たら、大抵の女子は卒倒だろうな……って考えた。

私も、その“卒倒する女子”の1人だろうけど。

同時に、最近気になっていたことも浮かんでくる。


あの日……あの観覧車での言葉は、幻じゃなかったのかって。

私の幻聴なのかって。


「……ねぇ」

「ん?」

私は立ち止まり、呼びかける。

3歩ぐらい進んだ蒼井君は振り向いた。

「クリスマス……正確に言えば26日なんだけど……観覧車でなんて言ったか、本当に覚えてない?」

彼の表情は、いつもみたいに“あどけなさを残した大人っぽい表情”で。

「……うん、どうしても思い出せない。結構努力したんだけど」

「……そっか」

―――残念。

そんな感情たっぷりで笑顔を作った。

思い出してくれれば、もうちょっと私の方を見てくれるのかな……って密かに期待してたから。

「気に障るようなこと言ってたら、ごめん」

「ううん、そんな気に障るってことじゃないから。……全然、嫌なことじゃないし」

蒼井君があのことを思い出したら、きっと私の想いもばれるだろうなって、言った後に思った。

彼は「ならよかった」と、安堵の表情を浮かべてまた足を進めた。


1週間後。放課後、3年A組にて会議。

「沙彩ちゃん、何かいいやつない?」

「ないですねぇ……」

なかなか曲が決まらず、右往左往していた。

「んじゃあ大翔君は?」

「うーん……最近の曲ってあまり聴かないんで……」

……蒼井君、流行に疎いのか。

にしては私服のセンスは凄くいいと思うけど……

ちなみに今日のLHRでクラスでの出し物は即決した。

題して“2-Dカフェ”……素晴らしく凡庸。

“2-Dカフェ成功同盟”も作って、これから本格的にカフェの模擬店の準備が始まるってとこかな。

「……そうだ」

テーマを3人が悶々と考えてると……私の脳裏に、衝撃を受けた楽曲が浮かんできた。

「アラメスの“IWYH”は?」

「あ、いいねぇアラメス。古すぎず新しすぎず……幅広い年齢に通用しそうな曲だね」

……ということで、ブロックの曲はアラメスの“IWYH”に決まった。


IWYH……I Wish Your Happiness(私はあなたの幸運を願います)の略。

あるラブラブな恋人たちが突然離れてしまい、お互いが相手の幸せを願う歌。

でも曲は明快。前向きに事実を受け止める大切さも垣間見られる。

さっそく、行きつけの楽譜屋さんに行って楽譜を買い、翌日音楽の北神先生に相談にしに行った。


「え~!?アラメスのIWYHにしたのぉ!?」

はっきり言って、北神先生は苦手だ。

理由は……ウルサいから。

「IWYHって、めちゃくちゃ変拍子じゃなぁい!しかも転調がバンバン出てくるし……パート分け大変ねぇ~!」

「いや……変拍子や転調って、ほとんど歌唱には関係ないかと……」

「そうねぇ~……まずはソプラノ・メッゾソプラノ・テノール・バリトン・バスの5つのパート分けは無理だわぁ!原曲の高さをメッゾソプラノが担当して、ソプラノとテノールがハーモニーの部分ねぇ。バリトンとバスは外しましょ!」

あの、私の意見を聞いてくださいよ……


先生の書き込みが入った楽譜を持って、放課後の会議へ。

「うわぁ……わっけ分かんねぇ……なんだこのオタマジャクシの群れは……」

武田先輩は、グチャグチャな楽譜の書き込みは読解不能な様子。

一方蒼井君は、結構読み取っている雰囲気だった。

「……これ、生徒に渡すとなるとパソコンでの編集がいるよね」

「うん。次の放課後から編集スタートするつもりなんですけど……いいですか?」

一応武田先輩に聞いてみたら、あっさりいーよって言われた。

「じゃあ俺は、楽譜編集以外の仕事やっからさ。君ら2人で編集頑張れ」

「……はい?」

多分、同時にそう言った。


―――……


なんか、すっごい悪寒がする……

「メグちゃん、大丈夫?」

「あ、はい。すみません」

慌てて会議に集中した。


昨日、3年A組の前を通りかかったとき……蒼井の姿があった。

同じ実行委員だ……って、ちょっと嬉しくなったりして。

でも、その向かいにいた女の人……少ししか見えなかったけど、見覚えがあった。

そしてその隣には、派手な人。多分3年生。

派手な人はさておき……あの女の人、誰だっけ……


ちなみに私のクラスはたこやきの模擬店をすることになった。たこやき好きな担任の策略だ。

そしてブロックでの合唱曲は、Ismの“My Favorite Place”。

2人の先輩が決め、私は全く知らない曲だった。

そして私の手元には、40人分の楽譜が。

「これから音楽の時間にこの曲を練習させておいてね」

にこっと先輩が笑って、私に渡してきた楽譜だった。


ほんと……誰なんだろう。

気になって気になって、よく眠れない日々が続いた。




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