第56話 実行委員
黒板に記される、5つの名前。
“有野陽一”
“高杉唯”
“日比野潤”
“垣端薫”
“杉浦沙彩”
「え~、推選で選ばれたこの5人……いや、4人は教卓に集まってください」
クラス委員長の日比野は自分を除いた4人を教卓に集める。
重い腰をあげて私も教卓の方へ向かった。
「どうやって決めます?」
「くじ引きとか?」
「改めて票を採る、ってのは?」
「それ、めっちゃめんどくさいし……」
「もう、ここはいっそのこと公平にジャンケンで……」
みんなが議論してるのは……文化祭実行委員として推選された5人のうち、どうやって正式な実行委員を決めるか。
悲惨なことに、男女1名ずつではなく、各クラスごとに1名だけを選出する。
つまり、クラスの文化祭を吉と出すか凶と出すかは1名の肩だけに重く圧しかかる……ってこと。
推選されたのは、吹奏楽部部長の有野、唯、クラス委員長の日比野、茶道部部長の薫、そして(一応)声楽部の私。
唯以外は全員文化部……という、かなりインドア系な人間ばかりが選出されてしまった。
そして、議論はなかなか結論せず……
「じゃあさ、こーゆーのはどう?」
真ん中の列のいちばん前の席……うるさい奴の指定席でもある席に座っている中島が、議論に入ってきた。
「紙に5人の名前書いて、裏返して重ねてよくきって……委員長に1から5の番号言ってもらって、上からその番号にあたる人を実行委員にするっての!」
「それ、くじ引きとかぶってんじゃん……」
「いーんじゃない?もうそれで。時間もかなり押してるし」
私はそう言い、終了5分前の時計を指し示した。
「……そーですね。杉浦さんの言う通り。じゃ、ちょっと待ってください」
日比野は自分のポケットからメモ帳とペンを取り出すと、5人の名前をスラスラと書き始めた。
……メモ帳とペンを常備してるって……すごいな。
書き終えたらしく、日比野はその5枚の紙を私に渡してきた。
「杉浦さん、きってください」
「あ、うん」
トランプのカードをきるみたいに、よくきる。
「できたよ。数字は?」
「僕と彼女の記念日が3日だから……3」
「3ね。よし、表に返してくよ」
“僕の彼女”発言には、みんながスルーした。
1枚目の紙を表にかえして机に置く。
その紙には……“高杉唯”とあった。唯は軽くガッツポーズをする。
2枚目は……“垣端薫”。薫もこれまたガッツポーズ。
残った有野と日比野と目を見合わせる。
この3人の中の1人が……実行委員。なる確率は、ひとりひとり平等に3分の1……
どうか、当たりませんように。
そう思いながら、運命の3枚目の紙を表にかえした。
―――……
「あれぇ~?さーやも実行委員なの~?」
……放課後。会議室。
「うん……桃花も?」
3枚目の紙に名前があった私は、渋々と会議室に行き、所定の席についた。
そんな私に話しかけてきたのが、桃花。
「そうだよぉ。クラスみんなでジャンケン大会して……決敗戦で負けちゃって……とんでもない不運って感じ?」
決敗戦って……決勝戦の対義語みたいだな。
ていうか、1クラス40人近くいる中で負け続けたっていうのも凄い。
あとの4クラスの実行委員も、みんな表情を暗くして会議室に集まってきた。
「よぉ!みんな集まったか~い?」
去年のクリスマスに結婚した、幸せいっぱいの例の巨大先生がハイテンションな声で会議室に入ってきた。
「A組の田中、B組の安藤……よし、みんないるな!」
……お~い、CDEF組の確認はせんのか~い……
「ところで、体育祭のときのブロック分け覚えてるかい?」
「覚えてる?」
「え~、どうだったっけ~……」
周りがざわつく中、私はしっかり覚えてた。
3年A組、1年D組と同じ水ブロック。団長は小原先輩。
「覚えてる奴は、今すぐ同じブロックの3年の教室へ移動!忘れてる奴は聞きにこ~い!」
ペンケースをもって、3年のHR棟へ向かった。
「お、2年の実行委員?」
教室の中にいたのは……金髪のロン毛男子。
「そうですが……」
机に足をドカッと乗っけている姿をじっと見て見る。
……いかにもこんな、“アイ・アム・ヤンキー”な人、3-Aにいたっけ……
「後輩にとってはお初かな。俺、武田武蔵っつーの。武田信玄の武田に宮本武蔵の武蔵。うぜぇぐらい“武”が入ってんの。よろしくな。君は?」
「あ、はい。よろしくです。2-Dの杉浦沙彩です」
「へぇ。んじゃあ、沙彩ちゃんは名字名前にうぜぇぐらい3画のやつが入ってんの?」
「察しの通りです」
比較的、落ち着いた方のヤンキーだなぁ。桃花とかユースケとかと違って。
……いや、性格が落ち着いてる分外見がド派手だけど……
よく見てみたら、ピアスは10個つけてるし冬のクセして超ガングロだしネックレスとかじゃらじゃらつけてるしブレザーのボタン全開けだし腰パンだし。
「失礼します」
後ろから、なじみのある声がして、振り向いた。
「おっ!1年実行委員?超イケメン君だねぇ」
「はい」
……その“はい”は、”実行委員?”という問いかけの“はい”か“超イケメン君だねぇ”に対する“はい”かは分からない。
「蒼井君……」
「あ、杉浦先輩も実行委員?」
脈が早くなるのを感じた。