第54話 新学期バトル
「おい窪田!まだホームルーム終わってねーぞぉ!!!」
担任の声も気にせず、反対側校舎のD組へ。
走ってる途中にホームルーム終了を告げるチャイムが鳴った。
D組に到着し……
「蒼井大翔はいる!?」
ガラッと戸を開ける。
教室内がシーンと静まり返った。
「委員長なら、さっきダッシュで会議室行ったぞ?」
「ほんと、あのダッシュは風みたいだったし!」
「なぁ!ほんとヤベェ!」
ダッシュのすごさについて、またざわつきを取り戻したD組。
「へ?会議室?」
委員長が集まる会議室。ホームルームの前に集う。
その日の授業について、変更などの伝達事項を教頭から聞き、それをクラスみんなに伝える。
「でも、今更……ホームルーム終わったし」
「あ~あの委員長……」
と、目の前の男子が言いかけたとき……
「今日の5限目の英語、リーディングからライティングに変更!あと選択語学でフランス語とイタリア語とってる人は1-Aに4限目に集合な!」
後ろから、ざわめきをピタッと止ますほどの声が聞こえてきた。
「よっ!ド忘れした委員長、お疲れ!」
「ああ。ほんっと忘れてた……冬休みボケってやつ?」
「授業の伝達ぐらい、浅田がやればいーのになぁ?」
私の頭上で交わされる会話……
そりゃあ、私は背がちっちゃいですし……ノープロブレムだろうけど……
「……頭上で会話すんの、やめてくださらないかしら」
わざと“かしら”口調で言って、振り向く。
「あ、ごめん。えっと……誰だっけ」
……ほんと、ありえないぐらいのツケメン……いや、イケメンがそこにいた。
「マジ?中学生からずっとトップ死守って……」
「……随分と疑ってる口調だね」
「そりゃあ」
そのD組委員長に期末のことを聞くと……あっさりと、「うん」って答えられた。
で、私のことを話すと……この反応。
「じゃあ……」
と、私はケータイを開く。
「これでどう?」
と言って見せたのは、中1の1学期中間から高1の2学期中間までの成績表の写メ。
順位欄のところは、常に一桁。総合順位に関しては、1以外をとっていない。
そこを見てほしかった。だが、この“どこかズレたD組委員長”は……
「スゲェ、全教科の平均偏差値85.8じゃん。うわ、90以上とかあるし」
……偏差値に目がいったらしい。
しかも、この10数秒間の間で中1から高1までの全教科の偏差値平均を暗算で編み出してるし……
……うん、帰ってほんとに合ってるか確認してやる。
って……
「いや、本題これじゃないし!」
いつの間にか、自分中心になっている。
委員長の手からケータイを取って、パチンと閉める。
「単刀直入に言うけど……」
「ん?何?」
「勝負しよう、今日明日明後日の新学期テストで」
……案の定、委員長は何も言わない。
でも、ニコリと笑って……
「うん、いーよ」
いともあっさりと承諾した。
よし、あと15分間……みっちり勉強するぞ。
それから、3限目までみっちりテスト。
我ながら、完璧な出来……×をつけるとしたら、どこにつける?と、先生に問い質してもよいぐらいの解答用紙を提出した。
そして、明日明後日。それを繰り返して……
「ふあ~っ!やっと終わったぁ……」
美来が私の机に来てのびる。
「ここ3日間、メグとちょっとしか話せなくてつまんなかったよぉ」
「ごめんごめん」
「ま、メグはテスト前になると、ほんっと“近寄らないでオーラ”をガンガン放出すっからね」
歩海も来て、坂村の席を借りて座る。
「そこんとこは美来も分かってるよ。ね?」
「う~……そうだけどさぁ……」
窓の外を見る。
丁度、反対側の校舎にいる蒼井大翔を見つけた。
「……絶対1位を奪回してやるんだから…………」
そう呟き、拳を握り締めた。
「さーやぁ!どうだった?テスト~」
「あ~、うん。まぁまぁだったよ」
新学期テストが終わり、4限目。
3日間に渡って取り組んだテストが一度にドバッと返却された。
まぁまぁ……とは言いつつも、結構ヤバいかもしれない。
「へ~……どれどれぇ」
「あ、ちょっと夏姫!」
気がつくと、夏姫は私の答案用紙を手に持っていて……
「数学……45……理科の生物……51……」
ズタボロなその紙を、慌てて奪い返した。
「相変わらず、理数系は凄まじいね、さーや」
ニコッと笑う夏姫。
あ~もうっ!このクラスはⅠ型だから理数系はどうでもいーの!(Ⅰ型=文系。ちなみにⅡ型=理系)
って、自分で言って自分で疑心を抱いてるのが否めない……
「大翔君に教えてもらったら?」
「・・・」
夏姫にとって、私の理数技能は蒼井君より下ってことか……
いや、ていうかそれ以前に教えてもらうとか無理。心臓がもたん……(そこか)
「……たっくんってⅡ型だったっけ?」
「Ⅰ型だよ」
「じゃあ、唯って理数の成績よくなかったかなぁ……?」
「2学期の理科と数学の成績、1って言ってたよ?」
「じゃあ、伶君は……」
「そりゃあ、伶君はほとんどオール5に近いって言ってたけど……バカンス中じゃん」
……そう。あのお坊ちゃまは冬休みが終わったにも関わらず、ローマの休日を楽しんでいる。
つまり、イタリアにバカンスに行ってるんだ。
「……もういいよ、数学と理科は。諦めた」
「そういや、さーやの進路ってどこだったっけ?」
「一応、瀬名大島大学」
瀬名大島大学……東京都にある大学。(※架空です)
公立大学の文系の中でも、特にレベルが高い大学だ。
「へぇ、瀬名大島かぁ。私はイザベラ女子大学!」
「イザ大って……私立かぁ。いーなぁ」
夏休み前。第一希望だった私立を断念せざるを得なくなった。
「まぁ、お互い頑張ろう!」
「……うん」
でも、今では瀬名大島もなかなか魅力的に見える。
私の夢は、検察官。
物的証拠を探し出して、法廷でそれを基にして被告人の有罪を主張する。
昔から、お母さんに憧れて夢見てきた職業なんだ。
まぁ、お母さんは刑事なんだけどね。
「え――――――っっっっっ!!!???」
どこからともなく、馬鹿にデカい超大声がきこえてきた。
「誰だろ?」
「さぁ?今、1年のテスト返却と順位表配布の時間長引いてるから……思惑通りの順位じゃなかったんじゃない?」
窓の外を見て、答案用紙を返却している1年E組の教室を覗きながらそう言った。