第4話 危険信号
「凄いですね、杉浦先輩!あのギャル男、めっちゃビビってましたよ!」
近づいてくる人物に、目を合せれない。
……なんで蒼井君がここにいるの!?
「しゅ……終始見てた?」
「はい、バッチリ。」
わー……
………
「み、見なかったことにしてっ!お願いっ!てか、頼むっ!」
「はい?」
横に座った蒼井君に向かって、手を合わせて頭を下げる。
「別に僕、元から誰にも言うつもりないですよ?」
「あ、そっか。よかった」
安堵して、元の姿勢に戻る。
「バレちゃいけない理由があるんですか?」
「うん、まぁ……お母さんの耳に知れ渡ったら、命ないから。あ、お母さん、刑事なんだ。特に暴力とかの不祥事は許さない主義で……」
「え、お母さん刑事なんですか。カッコいー」
「……そりゃカッコいいけど、恐ろしいよ。嘘ついてもすぐバレるし」
私がそう言うと蒼井君は、くはっと笑った。(くはっ?)
「杉浦先輩でも嘘ってつくんですね」
「杉浦先輩……“でも”?」
「だって先輩、めっちゃ真面目そーだし」
そうかな、と首をかしげた。
確かに刑事の娘だからチャキチャキしてそーな感じはするだろうけど……
「……あれ?そういえば真面目そうなのに、なんで補習受けてるんですか?」
「1学期の期末テストで全教科赤点取っちゃったの。バカでしょ?」
蒼井君は「えマジで?」ってな表情をする。
「なんか、勉強する意味分かんなくなって、赤点でもいーや的な」
「なるほど……不良への一歩手前ゾーンですね」
グサッと刺さる蒼井君の言葉。
「不良へのって……」
「あ、すみません。でも一歩手前だから、またやり直せれますよ」
「……そっか」
妙に納得してしまった。
勉強する意味……大学受験するだけだと思った。
だから志望大学に行けなくなった途端、勉強する意味なくなったって思ったけど……まだ別に、あるかもしれない。
―――………
『次は海宮市駅〜』
駅のアナウンスで、目が覚めた。
……あれ、寝ちゃってたのかな。
「あ、起きました?」
「ん~……」
目を擦り、キョロキョロ辺りを見回す。
ここは……電車内。隣にいるのは、昨日知り合った蒼井君。
「……あ、もう着いたんだ?海宮市駅」
「はい」
カバンを持って、席から立ち上がった。
「そういえば蒼井君、どこ住み?」
「A市ですけど……」
A市……私が住んでる市だ。
「私もA市だ。もしかして、朔良中?私、そこだったんだけど……」
「あ、はい。もしかして同中だったんですかね?」
「かもね〜」
う〜ん、何たる偶然。
ていうか……
「蒼井君、意外と背ぇ高いね」
身長160センチの私より、ちょっと高い。推定165センチぐらいの蒼井君の身長。
「意外とってヒドいなぁ〜」
そう言って苦笑し、「童顔だから仕方ないですかね」と付け加えた。
いや、童顔……というより、綺麗、と言った方がしっくりくる。
「いーなー。蒼井君は。顔キレーで」
「いや……先輩の方がキレーですよ。うちのクラスの男子も女子も言ってるし」
「えっ、そんなに有名!?」
驚いて、蒼井君を凝視する。
「はい。昨日の補習の時、俺の後ろの席だった奴も散々羨ましがって……」
「わ、なんかゴメン……」
赤くなった頬を必死にさすった。
……そういえば、今日は自転車使ってない。
「てか、蒼井君ってチャリ使ってる?」
「いつも歩きですが……」
「そっか」
本来ならば、自転車使って蒼井君を追い抜いてさっさと学校に行くべき……
だけど、何故か……蒼井君と喋りながら行きたい、って思う。
なんでだろうね。意味が分かんない。
学校に着き、補習を受ける。
昨日よりたくさん蒼井君から質問を受け……ていうか、話して。
昨日は、あまりもの蒼井君の綺麗さに緊張しっ放しだったけど、今日は普通に喋れる。
この時、違う意味でドキドキしてるってことに、気づかなかったんだ。
補習を受け終え、家路につこうとしたけど……
「沙彩。ちょっといい?」
同じクラスの高杉唯に声をかけられた。
「唯。どしたの?」
ちなみに唯って女っぽい名前だけど、正真正銘の男子だ。しかも超モテる。
1年の時から“杉”繋がりでよく絡んでるクラスメイト。いわゆる、男友だち。
もう名前で呼び合う仲になってしまってる。
だけど、それが危険信号だってこと……
「ちょっと話あるんだ。旧校舎裏、来てくんない?」
「いーよ」
気づかなかったんだ。