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海と想いと君と  作者: coyuki
第2章 優しい人
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第44話 本当の唯

日誌を職員室に返し、旧校舎に向かう。

何回……旧校舎に足を運んだかな。

唯に告白されたとき、咲良ちゃんを助けるため……

きっと、今日以降はもう行くことは……ないだろう。


旧校舎裏に行くと、唯がいた。

ケータイをいじってるようで私には気づいていない。

「唯」

私がそう呼ぶと、唯は顔を上げ、私を見る。

そして再度、画面に目を戻し……

「……10分早い」

笑みを浮かべながら、ケータイを閉じた。

「今日日直で、日誌とか仕事とかいろいろやってたけど……ダッシュで来た。途中先生に呼び止められて

「髪染めろ」って言われたけど、無視した」

「そっか。その髪?」

「うん。黒に染めろって。地毛なのにさぁ……染髪料って髪痛むらしいし」

体育祭の練習とかで日に当たってたから、ますます茶色に磨きがかかって見えるらしい。

「まぁ確かに……林(桃花)の髪見たら一目瞭然だよな」

「アハハ……」

……シーン。

私のシケてる笑い声で、沈黙が訪れてしまった。

「……決まった?」

「……うん」

きっと、私がどうするか。


「……別れよ」


唯の目を、しっかり見て言う。

私が見つめる唯の目は……決して逸れなかった。

そしてまた訪れる沈黙……

「やっぱり。そうだと思った」

「え?」

唯はそう言って笑う。

「やっぱ……沙彩にとってアイツは消そうとしても消せない存在だったんだな」

「そ、それは違う!」

……ていうこともないけれど、咄嗟に否定する。

「唯……変わったよね。私と付き合い始めてから」

「俺が?」

「うん。1年生の時は……唯、すっごいうるさかった。いちいちリアクションがデカくて、クラスのムードメーカーみたいな存在で……」

1年生の頃を、思い出す。

唯に対する第一印象は、“少々ウザいけどいいやつ”

でも今の唯には……ウザさが全く無い。

それはそれでいい、って言う人も居るけど……私には、それがどうしても納得いかない。

最近になって、そう思い始めた。

「でも今は……何か、ひっかかってるみたいな顔ばっかりしてる」

私がそう言うと、唯は目を見開く。

……図星、なのかな。

「中島が言ってたんだ。恋人同士は自然体じゃなきゃやってけないって……今の唯は、自然体じゃないと思う」

「中島がそんなことを……」

いつもうるさくはしゃいでいる中島ばかり見ている唯には、中島がそんなこと言うなんて想像つかないだろう。

「このまま何か引っかかってそうな唯と一緒にいるのは……キツいな」

「……そっか」

……唯も、自然体じゃない私と一緒にいることがキツいって思ってるのかな……

「じゃあ……沙彩の本当に好きな人は?」

「え……」

本当に好きな人……

それは、頭から離れれない人。無意識に目で追ってる人。忘れれない人……

本当に、何が何でも一緒にいたいって思う人。

……もう、分かってるはずなのに……名前が口から出ないのは、何故だろう。

卑怯で情けない私は、言い出すことができず俯いた。

「……よかった」

「へ?」

思いがけない唯の一言に、顔が自然と上がる。

「沙彩の本当に好きな人が、俺じゃなくて」

唯の言葉の意味が、分かんなかった。

じゃあ……唯は最初から、私のことなんか好きじゃなかったってこと……?

「沙彩をずっと苦しめるとこだった」

「……苦しめる?」

「そ。自然体じゃない俺と居て……だって自分の好きな人がずっと素じゃなかったらキツいじゃん」

……そう言う唯は、自分にも言い聞かせているようだった。

「……ごめん」

「まぁ俺も……ずっと沙彩がアイツのこと見てる気がして……気が気じゃなくてキツかったけど」

唯は笑う。

……本当に笑ってるようには見えないよ。

「俺からも……別れようって、言おうと思ってた」

「……」

それは……本心?

唯の気持ちと唯の言葉。この2つが同じものかどうか分からないうちに……唯に何かを握らされた。

「新しい彼氏に、沙彩からプレゼントして」

……ミ○キーマウスの、キーホルダー。

私はそれをそっと握って――もう、終わったんだという事実を噛み締めた。


付き合って……もうすぐ2ヵ月になろうとしたところでの、決別。

世間一般からしたら、相当短い、私たちが恋人同士であった期間。

そんな短い間にも、たくさんのことがあった。

でも――どれも、朦朧としか浮かばなくて。

そんな自分が、情けなかった。


どうせ引き裂かれる、もろい仲。

私がそこら辺でイチャついているカップルを見て、度々思い浮かべていた言葉。

でも、どのカップルでも……そんなもろさの中にも、ちゃんと繋がっているものがある。

鋼のように、太く、切れない、頑丈なもので……

唯と私も……そんな繋がりはあるのかな。


それから、今までのことを語った。

修学旅行で私が倒れたとき、唯が私に口移しで薬を飲ませたこと。

伶君が唯に、「杉浦を放さないようにな」って言ったこと。

私がいても、勇気を出して唯に告白してきた女の子のこと。

いっぱい話を聞いたけど……本当の唯は、分からない。

「ねぇ唯。本当の唯ってどんな感じなの?」

「本当の俺?」

「うん」

「……族の総長」

……はい?

「今何て?」

「だから、族の総長」

……はいぃ!?

「族……て?」

「高杉組っていうやつで、親父が総長だったけど放棄して報道関係の仕事に就いて……俺に総長の座を任された」

そういえば、両親は報道関係だったって……

「姉貴はレディースの元総長。妊娠を理由に脱退した」

レ、レディース!?唯華さんが……!?

「そんで姉貴の夫が家に転がり込んできて……俺の座を奪おうとしている」

だから馬が合わないのね……

「え、えっと……家で寂しがってるって唯華さんが……」

「姉貴、被害妄想激しすぎるから、あんましっかり受け止めないほうがいい」

……そうですか……

「じゃあさ、族ってケンカするやつでしょ?」

「ああ」

「んじゃーさ、1回殴っただけで気絶させるような拳の振り上げたときの角度ってどんぐらいなの?」

「角度って……関係ないじゃん?」

「あ、そうなんだ……」

角度も大切だと思ったけどなぁ……

なんてガックリしてたら、唯に立つように促された。

「1回殴っただけで気絶する殴り方教えたげよっか?」

「ほんと?」

私がそう言うと、唯は私の胸倉を掴む。

「相手から攻撃されないように、まず胸倉かどっか掴んで自分との距離を縮めといて……」

今度は拳を作った。

「空いてるほうの手を思い切り握り締めて、腕曲げて脇を広げる」

「なんで、に、握り締める必要が、あ、あんの?」

「相手にダメージを送りやすいから。木の枝で殴るのと鉄で殴るのじゃ、かなり違うだろ?」

「あ、な、なるほど」

ていうか……さすが総長。力が半端じゃない。首が苦しい……

声が自然と途切れ途切れになる。

と、その時……

「うわっ」

唯の声とともに、首が楽になる。唯は横倒れになっていた。

「先輩、加藤先生が呼んでたよ」

「へ?カトキョン?」

加藤恭子先生。略してカトキョンは1年のときの担任。

2年に進級して何ヶ月か経った今、カトキョンとはほぼ縁が無い。

「行こ」

そう言うと……蒼井君は、私の手を掴んで有り得ない速さで走り出した。




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