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海と想いと君と  作者: coyuki
第2章 優しい人
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第43話 旧校舎裏

今回も途中でナレーターが変わります。

……金曜日。今週は来週から始まるテストの範囲が発表される。

「ここ、中間の範囲だから忘れんなよ~」

数学、古典、世界史、英語……他の学校より少し遅い中間テストの範囲が発表されてるのに、全然頭に入らない。

“とりあえず”先生の言った範囲をメモする。そんな感じだ。

10月下旬中の下旬。来週にはもう、11月に入る。

そしてその1ヵ月後には12月。そのまた1ヵ月後は新春……

超がつくほど遅生まれな私が17回目の誕生日を迎えるのは、来年の3月の最終日。つまり3月31日。

……あと2日生まれるのが遅かったら、夏姫や唯、桃花の後輩になってたな。

なんて思う私は、かなり年を食ったようだ。


「夏姫、帰ろ」

あっという間に放課後になり、カバンを持って夏姫の席に行く。

「あ、うん!部活も休みに入ったしね!」

普通の期末とかだったら、実施される先々週ぐらいに範囲が発表されて、発表された次の週から部活がテスト休みになる。

けれど修学旅行や体育祭がある2学期の中間は、体育祭が終わってすぐに範囲が発表され、その次の週の水曜日からテストが実施される。

つまり、今回の中間は例年通り急ピッチで進められていくわけで……

「ヤッバい!早く帰って勉強しないとぉ!!!」

「もう私、諦めたぁ~」

……精神状態も急ピッチになる人、諦めてる人、様々。

私はというと……至って普通……いや、もうテストどころではない。

そういう意味では焦ってんのかな。


海宮市駅まで、自転車を走らせる。

「なんかさぁ、さーやと唯、今週入ってから仲悪くない?」

「べ、別に悪くないよ」

風の音がムダに大きく、少し大声で夏姫と会話をする。

「そ~お?あ、サーティーツー寄らない?」

「うん、寄ろう」

大声での会話に疲れて、サーティーツーの中に入った。


店の中は、暖房が効いていて寒がっていたらしい学生がほっこりした笑顔で友達と会話している。

「トリプルミックスベリーのカップ、1つ」

「私は……ホットミルク1つ」

私はアイス、夏姫はホットミルクを注文すると、席を選んで座った。

「改めて……さーやってすごいね」

「何が?」

「だってこんな寒いのにまだ半袖にベストって……」

「だって別に寒くないし……冬服、あんま好きじゃないし」

冬服が嫌いな理由は単純。ヌケてる私は、よくブレザーを学校に置き忘れる。

それに比べ、夏服は体育の時以外脱ぐ機会がないから絶対忘れない。

だったらベストを置き忘れるんじゃないか、とよく聞かれるけど、シャツだけだったら下着が透けるからベストは必要不可欠。つまり、ベストも脱ぐ機会がない。

「まぁさーやは腕細いしぃ?隠す必要もないとお・も・う・け・ど~……」

……なんで間を作る?

「夏姫は1年を3とすると2.9はずっとブレザーだよね」

「だって腕見えるの嫌だもん!」

どうやら、夏姫のコンプレックスは腕らしい。

冬服2.9に対し、夏服0.1……2.9:0.1……

なんてよく分からない比の式を頭の中で立ててると、アイスが届いた。

トリプルミックスベリー。9月から10月までの秋季限定メニューだ。

「ん~……ウマいっ!」

限定メニューの中でも、このアイスは格段とウマい。

「さーや、おなか壊さないようにね~……」

感嘆の声をあげてる私を見て、夏姫はホットミルクを啜っていた。


「で、唯とさーや……何があったの?」

アイスを食べ終え、夏姫はミルクを飲み終え……夏姫がそう聞いてきた。

「だから、別に何もないって……」

「だって大抵はさーやいつも、唯と帰んじゃん」

……ギクッ。

「しかも帰るだけでどこも寄らない……放課後デート成立ならず?」(尾行した)

……ギクギクッ。

「唯も今日1日元気なかったし。さーやも上の空って感じだし?」

……ギクギクギクッ。

「……ほんっとぉ~に何もないのぉ?」

「……あります」

そう言うしかなかった……


「……やっぱ“あの時”言ったのがまずかったのかなぁ~……」

蒼井君のことはなるべく伏せて、今までのことを全部話した。

私には前、好きな人がいて、失恋して……

それがきっかけで唯と付き合い始めたこと。

私が、前に好きだった人の存在が唯にとって重荷になってること……

そう言うと、夏姫はヤバいって感じの表情を浮かべた。

「……あの時?」

その言葉を鸚鵡返しして聞く。

「体育祭の時……大翔君、さーや連れてったでしょ?その時私言ったんだよね……「大翔君に取られないよーにね~」って、唯に」

……マジで……?

てか、この成り行きだと……

「それがきっかけで唯、いつもにまして元気なくしたじゃん。もしかして大翔君が関係してんの?」

「……」

嘘をついても、見透かさないような夏姫の大きい瞳。

……私は小さく頷いた。

「……そっかぁ」

私が頷いたところで、私が前好きだった人は蒼井君だって夏姫にバレてしまった。

けれど夏姫は、そう言うだけだった。

「じゃあ、大翔君が関係して……」

「それは……違う」

咄嗟に否定した。

……私が、蒼井君のこと好きだから唯とは別れる。

そんな最低な女にはまだ、なりたくない。

「中島が言ったんだ。恋人同士は自然体でいることが重要って」

「自然体?」

「唯のお姉さんの唯華さんっていう人がね、唯は本当は凄く寂しいのに気丈に振舞ってる感じがするって。そうさせたのはきっと……私なんだよ」

複雑な家族関係に加え、私の存在で……唯の元気さを奪ってしまった。

「私自身……周りにおかしく思われないように一生懸命唯の彼女を……無意識のうちに演じていた。つまり……自然体じゃない。唯も私も自然体になってない以上……恋人でいる資格なんてないよ」

「……じゃあさ、さーやは唯の傍にいたいの?」

唾を飲む。

唯華さんが、「唯を愛してあげてね」って言った時、私が返すはずだった言葉……

「……自信が、ない」

「……そっか」

それ以上、夏姫は何も聞かず、何も言わなかった。


電車に乗って、40分。A市駅について、電車を降りた。

降り際に夏姫はこう言った。

「さーやと唯の問題だから、余計なお世話はしないけど……どんな結果でも、さーやを応援するよ!!」

私は、ありがとうって呟いた。


―――……


流れるように土日が過ぎ、月曜日を迎えて授業が終わり……

「4時45分……」

丁度日直だった私は、仕事をしながら5時までの時間を潰した。

あと15分。仕事も終わり、日誌を書こうとペンを持って字を書く。

「……あれ……?」

手が振るえ、字がへにょへにょになってて……情けない文章になってしまった。

……私の体の中から出てる、罪悪感。

日誌を閉じると、窓の外を見た。

……部活動に励む、何人もの生徒。

ポケットの中から、修学旅行で唯とおそろいで買ったミ○ーマウスのキーホルダーを出した。

「……ごめんね」

夕日にかざすと……光が宝石みたいなキラキラした石に反射して、私の目を刺す。

それを握り締めると……ポケットにまた、しまい直した。


―――……


5時15分。1年校舎では、日直の仕事と委員の仕事がかぶり、5時30分の下校時間前まで文書にペンを走らせていた大翔は、ペンを置いた。

「終わった……」

彼は背伸びをすると、窓際のいちばん後ろの席……咲良の席を見る。


“「……大好きだよ大翔。別れよ」”


寂しげな咲良の笑顔がよみがえる。

あれから咲良は、いつも通りの笑顔で優希や李流と接していた。

咲良が喋ったかどうかは知らないけど……だんだん周囲の人々は「2人は別れた」と噂し始めていた。

だけど、それも先週の週明けの話。次の週に入った今日は、その噂はピタリと止んでいた。

「……伝えられるのかな、俺」

今まで、たくさん想いを伝えてきた咲良。

一方大翔は、咲良に想いを伝えたこともないし、咲良に想いを抱いたこともない。

……伝えることの、難しさ。

大翔は溜息をつくと、カバンと日誌と委員の文書を持って席を立った。


「よっ」

教室を出ると……壁によりかかり、片手を上げる……

「えっと……五十嵐先輩でしたっけ?」

「よく覚えてくれてんじゃん。喋ったことねーのに」

……伶がいた。

「だって同じブロックでしたし。このクラスでも有名でしたよ?」

「へぇ。どんな風に?」

「女子も男子も五十嵐先輩を崇拝スウハイしてたっていうか……」

「俺、神様かよ」

伶は笑みを浮かべ、それにつられて大翔も笑顔をみせた。

「それはそうと……今、杉浦沙彩が危ねーぞ?」

「……杉浦先輩?」

「杉浦があまりにも唯に無関心だったからか……唯、かなりキレてて、杉浦呼び出してた。……たしか、旧校舎裏だったっけ」

大翔の顔からは笑みが消え……カバン等をその場に置くと、走り出した。


「嘘なんだけどなぁ」

大翔の姿があっという間に消えた後、伶は大翔が置いていったカバン等を拾い上げる。

「学級委員か……大したもんだ」

文書には、『1-D学級委員用 1-D近況状況』とあり、50行ぐらいのスペースがあり、それをビッシリと綺麗な字で埋められていた。

『神楽と武田と水口は最近仲間割れしたそうだ』とか、『榛名と神保は最近妙に仲がいい』だとか、『八代と榎本が付き合い始めた』など。

人間関係、休み時間の様子、体育祭の様子や反省……これだけ生徒の状況を記憶できるのも、記憶する領域が空いたからなのか。

「杉浦は……どっちにするんだろうな。楽しみだ」


窓から伶は、旧校舎を見る。

裏までは勿論見えないけれど……意味深な笑みを浮かべるその目には、見えてるかのように思えた。




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