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海と想いと君と  作者: coyuki
第2章 優しい人
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第40話 どっち

「ねぇ、愛美さんってどんな人?」

「……まぁ、一言で言うと可愛い奴」

涙が収まって、愛美さんについて聞くと……返ってきたのは、ノロケ?

「なるほどねぇ……」

「俺がいじる度にオモロい反応して、もう可愛いのなんの……」

わぁ……こんな笑顔の伶君初めて見た。

「あと、男嫌い」

「マジ?あんな可愛いのに?」

「ああ。なんか男は怖いって……好きになったのも付き合ったのも俺1人。まぁそこも嬉しいんだけどね」

写真の中の愛美さんは……物凄くフレンドリーで女子や男子とも仲良くって……な感じの子だったけど……

さて、伶さんのおノロケ状態は……

「愛美はやっぱ、俺しか見えてなかったと思うよ。まぁ俺も愛美しか見えてなかったけど」

……最高潮です。

「その状態だと、愛美さんにもデレデレだったんじゃない?」

クラスメイトの中川君を思い出した。(中川君……マオという1年生の彼女がいて、その彼女を「ま~タン」と呼んで授業中以外ほとんど彼女にくっついている、典型的なデレ系男子)

「いや……んなことねーよ。心ん中ではめっちゃ大好きなのに、チビとかバカとかっていっつもからかって、全然素直になれねーで……あ~、もっと好きって言えばよかった……」

クウを見つめ、呟くように言う伶君。

……今、その言葉の裏でどんなことを考えているんだろうか……


「なんか、杉浦と喋るとスッキリする」

「え、そう?」

「適度に深入りせず、そうでもなく……って感じ」

「それ、微妙じゃん」

何分かして海宮市駅に着いた。

「じゃ、また明日。……いろいろ教えてくれてありがと」

いろいろっていうのは、愛美さんのこともだし……唯のこともだし。

「ああ。……あ、そうだ。来週の月曜の5時、旧校舎裏で待ってるって」

「え?」

「あ、これ伝言。唯からの」


心臓が、ドクッと跳ねる。

そして、鼓動が速くなる。


「う……ん、分かった」

「そんじゃ……あ、俺のノロケ話、誰にも言うなよ?」

「分かってる……」


来週の5時……私が伝えるんだろうか。

それとも……唯が伝えるんだろうか。


―――……


家に帰っても、お母さんはまだ帰っていない。お父さんも勿論いない。

私の足音だけが響く廊下……

「寂しいな……」

来週の今頃……この寂寥セキリョウの感は、更に募るのかな。


部屋に着いて、ベッドに寝転びケータイを開く。

ここで……何回涙を流したかな。

子供の頃……お母さんに叱られて、目に涙いっぱい溜めて、自分の部屋に駆け込んで……

高2の最初……私立大学の進学を断念させられたとき、大声で怒鳴って自分の部屋に駆け込んで……

私が涙を流す場所は、いつもここだった。

弱い人間と見られたくないから、人前では決して涙を見せなくて……

……最近は、弱虫になって。いっぱい人前で泣いてしまった。

唯の前で。そしてさっき、伶君の前で……

ほんと、頼ってばっかだ。

でも……私は今、普通の人間になろうとしている。

人前で笑って怒って泣いて……いっぱい感情を出すようになって。


夏姫に、桃花に……そして唯に、蒼井君に出逢ってからかな……


待ち受け画面を眺めた。

……海宮崖からの帰り際、撮って素早く待ち受けに設定した、海宮海。

生命の源ともいえる海。

みんな海から生まれ、海に帰っていく。

その間の期間……つまり人生は、100歳で亡くなったおばあちゃんみたいに長い人もいるし、10年ちょっとしか生きられなかった短い人もいる。

いつかは海に帰っていく。

その定めを知ってても、海を見ると、誰でも元気になる。

生命を貰うから……元気も貰う。

人にとっても、何にとっても大切な海。


私にとって大切な人は―――……


……あるジャニーズグループの、『Love so swe○t』が聞こえてきた。

電話の着信音……唯から。

正直今は出にくい……でも、出なきゃいけない気がする。

通話開始ボタンを押し、耳にケータイを近づけた。

「……もしもし」

『もしもし……沙彩?』

いつもどおりの唯の声……

「……うん」

『もう帰った?』

「……うん」

『そっか。海宮海綺麗だった?』

「……う……ん」

声が掠れる。いつの間にか、目には涙が溜まっていて……

『……沙彩?……伶から聞いた?』

唯のその言葉に、相槌を打つことができなかった。

『……ゆっくりでいーから。1週間で答えが出なかったら……旧校舎裏、来なくていーから』

……その言葉に連動して、蒼井君の顔が浮かぶ。

そうだ、誤解の件……!

「あの、ゆ……」

『沙彩の本当に好きな人、俺じゃなくても……俺、絶対責めねーから』

その言葉を残し、電話は一方的に切れた。


その日……夕食を食べるのも忘れ、一睡も出来なかった。


……ずっと考えてた。




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