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海と想いと君と  作者: coyuki
第1章 恋への目覚め
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第3話 電車で

補習2日目。

「……よし、準備完了。」

朝、こっそりと支度をして、制服に着替えた。

あとは音を立てずに玄関を出るだけ……

……だが!

「沙彩!待ちなさい」

「うげっ」

制服の襟元を寝ていたはずのお母さんに掴まれてしまった……

「昨日から夏休みのはずでしょう?制服着てどこ行くつもりよ?」

「え、えと……」

そう。こそこそしてたのには理由がある。

補習のことがバレない為だ……

「せ、制服でーと?」

「デートが平仮名よ。彼氏なんていないでしょう?」

嘘も呆気なくバレる。

なんせお母さんは刑事。嘘ついても、最終的には必ずバレてしまう……

ここは正直に言おう!うん。

「……補習デス……」

容疑者の自白みたいにそう呟いた。

「まぁそれは分かってたけどね」

そう言い、お母さんは白い紙切れをヒラヒラさせた。

……完敗です。


「とりあえず、朝食はちゃんと作ったものを食べなさいよね」

「はぁい……」

昨日は6時ぐらいにこっそり家出て、コンビニ弁当を食べた。

お母さんはそれさえも知ってたのか……慣れた手つきで次々と料理を作り出す。

「なんでお母さん、そんなに手際いいの?」

「お母さんの実家、自営業だって知ってるでしょ?手伝ってて自然に身についたのよ」

そう言って、サラダとオムレツとスープとパンとフルーツポンチを私の前に出す。

時計を見たら……僅か10分しか経ってない。

「あんたも一品ぐらい作れるようになんなさい」

「別に料理できなくっても生きてけるし……」

愚痴をこぼしながら、オムレツに手をつける。

ちなみに今、お父さんはいない。

お父さんは海上自衛隊の隊長やってる。どんだけ大変なのかは分かんないけど、お盆とお正月以外、1年に3回ぐらいしか家に帰って来ないんだ。

私の志望大学に対してダメだ、と言ったのもお父さん。


……ふと気がつくと、お母さんがいない。

「お母さん?」

お母さんは、私の通学カバンの傍に座って何かしてた。

「何やってんの?」

「ハ〜……男の子の名前がない……」

どうやら、私のケータイのアドレスブックや送受信データを見てたらしい。

「男子の名前なんてあるわけないっしょ。てゆーか勝手にケータイ見ないでよ」

無理矢理ケータイをお母さんの手から奪う。

「あんた、高校2年生でしょ?一応」

「だから何?」

「そろそろ彼氏の1人や2人作らないと、売れ残っちゃうよ?」

売れ残っちゃうよって……私は物じゃないし。

「今彼氏作ってもすぐ別れるに決まってるじゃん。結婚まで進展するのはカップルの100組中……いや、200組中1組ぐらいだよ?」

「その1組にお父さんとお母さんがいるのよね……」

うわ。いきなりうっとりし始めたよこの人……

お父さんとお母さんは、恋愛結婚。高校時代の同級生同士だったらしい。

「はいはい。もうその話めっちゃ聞いたからいいよ」

「何を聞いたのよ」

「どうせ「私たちは高校2年生の春に廊下でぶつかって……」から始まるんでしょ?」

「何で分かるのよ」

「あ、もう学校行ってくる」

7時前後になってるのに気づき、通学カバンを持ち上げた。

「聞き忘れてたけど、なんであんた補習なんか受けるの?」

「……えと、自主参加……」

「ふーん。“第1学期期末考査で30点以下の生徒”及び出席日数が極端に少ない生徒には補習義務を……」

「行ってきます!」

プリントには、赤点取った人に補習義務が与えられることが書いてあったらしい……


私が通う海宮高校は、私の家から電車で40分、そっから自転車で20分かっ飛ばした先にある。(かっ飛ばさなかったら30分。)

名前通り、海の近くにある。

んで、海宮病院という比較的おっきい病院があって、私がインフルエンザになったり予防接種を受けるときはお世話になってる。

なんせ、家の近くに病院なんかないからだ。これぞ、過疎地域の運命。

「あ、さーやじゃん!」

駅のホームでばったりと夏姫に出くわす。

夏姫の格好は私服。いかにも「夏満喫中!」的な。

「夏姫。どーしたの?」

「見てのとーり、朝帰りぃ。たっくん家に泊まったんだぁ!」

朝帰りって……なんかやらしい響きをもってる言葉だ。

「ふーん?」

「やーだもぉ〜!さーやったらぁ!」

顔を赤く染めて私の背中をバシッて叩く夏姫。……痛い。

こんなミクロちゃんでも、やることはやっちゃってるわけだ。

「そんじゃ、今日もまた補習に励んできますよ」

「頑張ってね〜!」

テンションマックスなのか、夏姫は元気よく手なんか振ってる。

まぁ夏姫はいつもテンション高いんだけどね……


電車に乗ると、ちらほらと同年代の人たちの姿が映る。

みんな私服で、夏休み満喫中……か。

制服の私が浮いているのか、みんなチロチロと私を見る。

……悪かったね、補習生と同じ電車で。

その中でも、一際目立つギャル男みたいなグループが私をチロチロじゃなくジロジロ見てきて、耳打ちし合って気持ち悪い笑みを見せる。

それが約5分間続き……

いい加減、滅多にキレない私の怒りケージもマックスに。

そして遂に、怒りのゴングが私の中で鳴った……

「……さっきからジロジロ見てて気色悪いんですけど、何なんですか?」

我ながら低い声で呟きながらギャル男集団に近づく。

「いや、なんでもねぇって。なぁ??」

「そーだよなぁ〜!」

なんて、ニヤニヤしながら同意を求める集団……

私の怒りケージ、マックスの値から遂にマックス上になってしまった!

ボス的な感じのギャル男の胸倉を掴み上げると、電車の壁に押し付ける。

「気持ち悪ぃんだよ。ニヤついてんじゃねぇ」

「うぐっ……」

苦しそうな表情と声を出すボスギャル。

多分今、私の腕の筋肉凄いことになってるだろう……

残りのギャル男たちも怯えた表情してんのがよく分かる。

『○○駅に到着しました。』

……と、そこで電車のアナウンス。

「あ、ボス、到着……」

残りのギャル男Aが怯えた声で呟く。

軽く舌打ちして、手を離した。

ボスギャルはひどくむせ返ると……

「い、いくぞっ!」

と、残りのギャル男に号令をかけてそそくさと立ち去っていった。

立ち去り際、「痴漢計画なんてアホなこと考えるなよな、お前!」というボスギャルの掠れた声が聞こえた。

「ふーん」

適当に相槌を打つと、元の席に腰を下ろした。

隣にいた乗客がズザザッと私とは反対側にずれたのはさて置き……

ふと顔を上げた。

すると……

笑顔で私に拍手をする男の子の姿……

私の中で、何かがサ―――ッと冷めた。




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