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海と想いと君と  作者: coyuki
第2章 優しい人
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第36話 体育祭3-仕草-

「あれ……?」

座席にダッシュで向かったけど……唯の姿はない。

「どーしたのさーや!汗ヤバいよ?」

夏姫やクラスメイトが私の周りに集まる。

私は必死に辺りを見回したけど……やっぱりいない。

「唯……唯見てない!?」

「あ、そーいえば見てないなぁ……」

「まだ弁当じゃない?」

いや、もう午後の部開始10分前だし……座席についててもいいはずの時間。

「杉浦ぁ!唯ならもう帰ったぞ!!なんか体調崩したみたいでさぁ!」

クラスメイトの男子が大声でそう言った。

え……帰った?

「あ、そーなんだ……ありがと。教えてくれて」

間抜けた返事をして、よろよろした足取りで座席に着いた。

そっかぁ。帰ったんだ唯。

帰っ……

……ただ事じゃないかもしんない。

だって、1年生からずっと風邪とかインフルエンザとかかかったことない唯が早退!?

皆勤賞貰ってた唯が早退!?12月まで半袖だった唯が早退!?

……やっぱ聞かれてたのかも……

「誤解なのにぃ……」

溜息とともに、小さく言葉がもれる。

『続いては応援合戦です。地ブロックは準備を……』

時刻は13時。私たち水ブロックの応援は4番目だ。

……一時このことは忘れて、配点が高い応援合戦とダンス……しっかりやらなければ。


―――……


応援合戦もうまくまとまり、ダンスもなんとか成功。

あとは部活対抗リレーとブロック対抗リレー。なんか出身中学別リレーもあるらしい。

リレーが根本的に大嫌いな私は、3つのリレーに出場願いが出たけど断った。

クラス全員リレーは流石に出たけど……

大体、リレーは人を至近距離で抜かすのがめんどくさい。

徒競走とかだったら、最初とばせば右に出る者はナシという状況作れるからいいけどね。(何気自慢)


最初は部活対抗リレー。声楽部は3年生がめちゃくちゃ多いから、出るのは全員3年。

「キャーッ!!!蒼井様~っ!!!」

女子の歓声……見なくたって分かるけど、バスケ部は蒼井君が出るのかな。

「へぇ、蒼井君1年生なのにスゴいねぇ」

「蒼井君は100メートルを大体10秒で走れる超俊足なんだって!!んで、たまに9秒出るらしいよ!」

夏姫と河野さんの会話を盗み聞き……

ひゃ、100メートル10秒!?

そりゃあ、借り物競争の佳境で抜かすわけだ……それについてった私も凄い。

「さーや~っ!蒼井君100メートル10秒だってさ!」

にやにやしながら夏姫が言う。

「へぇ凄いねぇ。速いねぇ……あ、小平先輩頑張ってください!!!」

適当にスルーし、目の前を通過した部長の小平コダイラ先輩に声援を送った。

小平先輩は陽気な性格だからか……私に向かって手を振ったので、私も振り返した。


―――……

女子の部と男子の部が終わった。

女子の1着は陸上部。まぁ当然かな。

2着はバスケ部。走りこんでるからね……

3着はなんと、声楽部。文化部でTOP3入りは史上初みたい。

男子の1着はバスケ部。アンカーの蒼井君で3位から挽回した……凄すぎる。

女子の歓声もハンパじゃなかった。

2着は陸上部。3着はサッカー部という結果だった。


「す、凄かったなぁ蒼井君……」

冷やかす心も忘れてる夏姫は、口をあんぐりあけている。

……歓声上げる女子たち以外は皆、呆然としていた。

「平成のボ○ト……?」

「いや、ボ○トも平成で金メダル獲ったでしょ……」

「すげぇ……ハンパじゃねぇなぁ」

「転入生かなんかだっけ……あ、遅れて入学したんだっけ?蒼井大翔……」

男子も蒼井君に興味を持つようになったという……

「うわ~すげぇすげぇ!あの1年のバスケ部すげぇ!!マジ俺惚れるかも!」

同クラの柏原は1人騒ぎ……

「蒼井大翔……」

同クラの変人吉峰(男)は恍惚の表情を浮かべ……

グランドは次の種目、ブロック対抗リレーに移っていた。


男女混合のこのリレー。

1着は我等水ブロック。やはり蒼井君の活躍で。

2着は風ブロック。3着は空ブロック。


次は出身中学別リレー。

1着は私の出身中学校の朔良中。略して朔中サクチュウ。やっぱり蒼井君が大活躍。

2着は海宮中学校。3着は柊中学校……

って……全部のリレー、蒼井君出場してるじゃん!

ファンの女子たちは喜ぶだろうなぁ……


「蒼井様!カッコよかったです!」

「本当に足が速いんですね!」

リレーが終わり、得点係が集計をしている。

私たちは10分間の休憩に入っていて……蒼井君、予想通りのモテっぷり。

なんか同じブロックで同じテントにいるのに、むっちゃ遠い……

って、何考えてんだ私。

「さーやぁ、行かなくていーのぉ?盗られちゃうよぉ?あの3年生の先輩とか!」

と言いながら夏姫がやって来て、3年生の中でもとびきりで美人な華城咲カジョウサキ……先輩を指差す。

てか、華城咲先輩で合ってたっけ……そもそもこの3文字で名字?サキが名前で華城カジョウが名字?

う~ん、これをうろ覚えっていうのかな。

「盗られるって……蒼井君には咲良ちゃんがいるんだよ?」

「またまたぁ~!さーや告られたんでしょぉ~?」

「告られるわけないでしょ。全く、みんな誤解ばっかり……」

……もうここで弁解するしかない。

「あのね、好きな人カードは10枚あって……10枚目はたぶん地ブロックの男子が引いてたよ。蒼井君が引いたカードは“尊敬する先輩”。好きな人でもなんでもないの。分かった?」

「……なぁんだぁ。つまんなぁい!」

……散々騒いどってそれかいっ!

まぁ、私が逆の立場だったら落胆はしてたかな……

「だったら唯に悪いことしちゃったかなぁ~……」

「え?唯に?」

「えっと……」

夏姫が何か言おうとした瞬間……

「さぁぁぁぁやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!」

得体の知れぬものが前から突進してきて私に抱きついて来た!

こ、香水臭っっっ!!

って……

「桃花!?」

「ダンス凄かったぁぁぁ!!!違うブロックだけど見惚れちゃったぁぁぁ!!!」

ほ、褒めてるんだろうけど……臭いっ!

「ごめん桃花。ちょっと離れて……」

「はぁいっ!」

そう言い、離れた桃花は……真っ黒!!!

地黒に加え、今日のガンガンな紫外線で真っ黒!!!

「どう?イケてっしょぉ~?」

なんて、セクシーポーズをとる桃花……

いや、誰もイケてるとは思わない!単刀直入に黒でしょ!!!

……というツッコミは、ウキウキな桃花にはできない……

「あ、うん……」

「おっ!さーやの横の子(夏姫)、お初じゃなぁ~い?私桃花!ヨロシコ~っ!」

いや、1年の時同じクラスだったっしょアンタ……

夏姫も苦笑いだし……

『生徒はグラウンド中央に集まってください』

「あ~っ!もう帰んなきゃなんないしぃ!じゃあねぇ!」

シタタッと去っていく桃花。

……あ、そういえばさっき夏姫が……

「夏姫、さっきなんだって?」

「……なんでもなぁい!早く行こっ!」

……なんか様子がおかしいなぁ……

そう思いながらも、グランド中央に行った。


涙と歓声と笑い声……さまざまな声に包まれ、体育祭は幕を閉じた。


―――……


「へぇ。優勝……ねぇ」

海宮病院に、咲良ちゃんのお見舞いに行った。

もうすぐ退院らしく、咲良ちゃんは点滴も外れ服装も外出着になっていて……けれど、足のギブスがまだ痛々しさを物語っていた。

同じブロックだから、一応結果報告をした。

応援の部で3位、女子のダンスで1位、男子の組体操で3位。

そして午前中の競技の部総合で1位だってこと。

あと、蒼井君がMVPを取ったことも。

「……なんであなたが大翔のMVPのこと知ってんの?」

私が蒼井君の名を出すと、決まって咲良ちゃんは不機嫌になる。

「咲良ちゃんさぁ、もうすぐ退院だから一応忠告してるんだけど……たぶん今、海宮高校じゃあ、どこでも蒼井君の名が挙がってるよ?いちいちムカついてたら可愛い顔が台無……」

「余計なお世話よ」

私は苦笑いを浮かべて、首の後ろを掻いた。

「クラスで大翔の名が挙がってたら、片っ端からとっちめるわ」

そう言い、咲良ちゃんは顔を上げる。

……そして何故か、ハッとした表情になっていた。

必要外の時はいつも閉ざされていた口が半開きになる。

「その仕草……!」

「え?あ~……癖だって最初、咲良ちゃんと優希ちゃんと李流ちゃんが言ってたっけ。補習の時」

私はサッと手を下ろした。

「それじゃあ、もうすぐ蒼井君来ると思うから帰るね」

荷物を持って、出口に向かう。

……あれ?いつもなら……「なんであなたが大翔の来る時間知ってんのよ」ぐらい言うのに……

私の口から蒼井君という単語が出たにも関わらず、咲良ちゃんはさっきの表情のまま。

「咲良ちゃん?」

私は咲良ちゃんの目の前に行き、顔を覗き込む。

次の瞬間……


「杉浦先輩……」


咲良ちゃんは、私と、しっかり目を合わせた。




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