第34話 体育祭1-カード-
体育祭当日。空は見事に晴れ渡っていた。
「うわ〜っ!超緊張するぅ〜」
夏姫はずっと騒ぎっぱなし……
私はというと……ハチマキの巻き方にてこずってる。
だって髪が邪魔すぎる!!!
「ほんと、切ろっかなぁ……」
いや、でも!唯がせっかく似合うって言ってくれたし……
うん、ショートには絶対しないぞ!
「おはようございます!杉浦先輩!」
優希ちゃんと李流ちゃんがやって来た。
相変わらずリボンを頭につけている。今日はハチマキバージョン。
てか、ハチマキ巻くの上手すぎ……
「おはよ」
「水華ブロック頑張りましょうね!」
「うん。てか、1年の女子来るの遅いよね……」
ていうか、全校の女子ほとんど集まってない。
もう集合時間間近なのに……集まってるのほとんど男子じゃん。
「あ〜、女子は……」
そう言い、優希ちゃんが指差した方向は本部テント前。
……うわぁ。女の子の塊だぁ……
その中心にいるのは……
「1−Dイケメン四天王……だったっけ?」
「はい。ハチマキ姿がよほどカッコよくて色っぽいのか……」
……そりゃあ、あの蒼井君だしシゲル他だし……(シゲオです)
ハチマキ巻いて数段カッコよくなるのは予想範囲内だけど……色っぽいって……
「イケメンはハチマキを巻くとカッコよさだけでなく色気も出るのか……」
単純に凄いね。
「でもっ!杉浦先輩の方が男っぽくて色っぽくてカッコいいですよぉ〜!!!」
「あはは……なんかありがと……」
……一度でいいから、この2人の脳がどうなっているのか見てみたい。
「ほんといいよねさーやは!身長160でしょ?」
緊張で騒いでいた夏姫が、私を突然羨ましがる。
「私なんて145だし……早く成長期来て欲しいし!!!」
「あの……成長期、もう過ぎたんじゃ……」←李流ちゃん
「えぇっ!?だったら一生145!?ショック!!!」
とうとう緊張でテンションがおかしくなったのか、夏姫……
『選手のみなさん、入場門に集まってください』
アナウンスが流れる。それを合図に、女子がわらわらと入場門に集まってきた。
「もう、サイッコー!」
「大翔様マジヤバいし!!!」
「あのぶりっ子(咲良)の彼氏なんて信じれないんだけど!」
女子は並んでも騒ぐ騒ぐ……3年生までも。
おいおい、先輩でしょ!?
「あの、ウルサいです!!!並んだら静かにしてください!!!」
みんなの前に立ち、朝一番の大声で言うと……ピタリと全校女子の歓声は止む。
止む……というか、しらけた?
「……っていうことで……」
だんだん羞恥心が込み上げてきて、所定の位置に戻った。
「さーやカッコいいっ!!」
「恥ずかしかった……」
絶対嫌な方向に知名度上がっちゃったなぁ……
開会式が終わり、先生に呼び出され、お礼を言われてしまった。
「いくら先生が注意しても静かにならなかったんだ〜」
先生はそう言ってたけど……それ、単に先生の声がちっさいだけなんじゃ、と思った。
席に着いて、プログラムを開く。
始めは……1年生の男女種目か。
1番目は1年生女子による二人三脚。
2番目は1年生男子による借り物リレー。
その後に1年生の学級旗紹介
3番目は1年生男女混合のリレー……
当分私たち2年生の出番はないかな。
「1番目って二人三脚だよね〜?」
夏姫が私の手にあるプログラムを覗き込む。
あ、そういえば……咲良ちゃんいないんだよね?
人数足りるのかな……
「ねぇ愛ちゃん、二人三脚って人数足りるの?」
骨折してて、運動会出場を断念し席に座っている愛ちゃんという1年生に向かって声をかける。
「あ、はい。リカちゃんが熱で休んでて……1走と2走のペアが2回走るみたいです」
「そうなんだ。ありがと〜」
とりあえず一安心……かな。
運動場に目を向けたと同時に、競技開始のピストルが鳴った。
―――……
最初3位からのスタートだったけど……徐々に間をつめていって、2位に。
そしてアンカーである李流ちゃん&優希ちゃんペアが物凄い速さで目の前の相手を抜かし、1位になった。
「凄いねぇ、アンカー2人……」
隣の夏姫や私も含め、李流ちゃん&優希ちゃんの驚くべき速さには、全校生徒が唖然したことだろう……
まぁ、とりあえず1年女子は1位という結果を収めた。
「次は借り物競争だね」
運動場を見ると、1年女子から男子に変わっていた。
「借り物競争の定番は“好きな人”だよね〜!」
夏姫が何故かワクワクしながら体を上下させている。
いや、そりゃ漫画の世界でしょ……
なんて思ってると……
「はぁっ!?好きな人ぉっ!?しかも異性!?」
1番目の子が大声を上げていた。
てか、もう競技開始したんだ……
さて、どうする!?
「んで、どさくさに紛れて告白もしちゃう……うひゃあ〜、オモロー!!!」
夏姫、足踏みまで始めちゃったよ……
一方、好きな人カードを引いちゃった子はというと……意を決したような目で、こちらへ走ってきた。
どよつく水ブロック……
「李流ちゃん、来て!!!」
おぉっ、李流ちゃん!!!
「へ?あ、うん」
優希ちゃんと喋っていて、競技を見てなかった李流ちゃんは……キョトンとしながらも、差し出されたその子の手を取った。
「わぁ、あの子の好きな人ってアンカーの子だったんだ〜!!!」
目をキラキラさせて夏姫はそう言う。
運動場には、長靴やリップクリームなどを持った男子が次の走者へとバトンを渡しに行っていた。
10番目、20番目と続き……我がブロックはアンカーに。
まだ18番目のブロックもある。
今のところ、水ブロックは3位だ。
「最後はイケメン四天王のリーダー、蒼井君ですねぇ〜っ!!!何て書いてるカード引くんだろう……」
イケメン好きの河野さん(久々登場)が蒼井君をガン見している。
蒼井君はというと……カードを見て、固まっていた。
そして、辺りを見渡す。
ど、どうしたんだ!?
「あ、もしかして蒼井君……好きな人カード引いちゃったのかな!?」
河野さんが大声で言う。
周りの女子がどよめきだした。
「す、好きな人カードって?」
「借り物競争実行委員から聞いたんだけど、10枚“好きな人”って書いてあるカードを混ぜてるらしいよ〜」
じょ、情報が凄い……
「でも、蒼井君の好きな人なら……」
「杉浦先輩、ちょっと来て!」
蒼井君の好きな人なら、今海宮病院に……と言おうとした瞬間、いちばん前の席に座ってた私の手首を誰かが掴んだ。
と同時に湧き上がる歓声……
「うそぉぉぉぉぉ!!!」
「なんでぇ!?」
私の手首を引っ張る、無造作の黒髪……
……蒼井君……だよね?
ていうか、今気づいたけど……身長めっちゃ伸びてない!?
夏頃は私と同じぐらいだったのに……
「2着、水ブロック!」
蒼井君(と、沙彩)が1人抜かしたみたいで、1年男子の結果は2位。
「……あ、ごめん。いきなり掴んで」
パッと蒼井君は私の手首を離した。
……カードになんて書いてあったんだろう。
「カード、なんて書いてあったの?」
そう聞くと、蒼井君はポケットの中からカードを取り出した。
「はい」
そして、私に渡してきて……
見るのが何故か……ほんのちょっとだけ、怖かった。