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海と想いと君と  作者: coyuki
第2章 優しい人
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第30話 いじめ

「おっはよぉさーやぁ〜!」

月曜日。何日かぶりの登校。

電車の中では、夏姫が大きく私に手を振っていた。

「おはよ、夏姫」

「あれ?さーや、顔怖いよ?何かあった?」

「別に、何も……」

……っていうけど、実は未だにムカついている……

なんで私が睨まれなきゃいけないワケ!?なんかしたのか私!

「……ねぇ夏姫。私、蒼井君に何もしてないよね?」

「おっ!久しぶりじゃん!さーやの口から蒼井君って言葉出るの!さては〜?大翔君絡みぃ?」

「いや、休み中に桃花と遊んだときの帰りの電車で、偶然咲良&蒼井カップルに遭遇しちゃって。蒼井君に睨まれた」

夏姫は「へっ?」って感じな顔してる。

そりゃそうでしょう。だって、あの『1−Dアイドル四天王(河野さん命名)』のリーダーだよ?(リーダーかどうかは不明)

ていうかそれ以前に私、蒼井君に何もしてないし。(また。)

「あ〜それはぁ〜……う〜ん……」

「ね?おかしいっしょ?意味分からんっしょ?」

「てかその人、ほんとに大翔君だったの?」

改めて思い出す。

黒の無造作で、目が大きくて……ちゃんと面影残ってた。

「うん。99.9%。」

「何その値〜!あとの0.1%は?」

「睨んだときの表情カオ。あれはちょっと別人っぽかった」

電車に乗って、辺りを見渡す。

……いました。蒼井君。咲良ちゃんはいないのか、友だちと喋ってます。

「蒼井君、かなり友だちと打ち解けてんね〜……やっぱ見間違いじゃない?」

「んなわけないじゃん。咲良ちゃんと一緒にいたんだよ?咲良ちゃん、「大翔~」って呼んでたし」

「あ〜、そっかぁ」

……にしても夏姫、蒼井君を凝視しすぎ……いい加減あっちも気づくでしょ。

「さーや、その時1人だった?」

「いや……キョンっていう、中学時代の後輩と一緒に居て……あ、キョンって海宮の1年生なんだけどさ。咲良ちゃんと仲良いっぽい。2人が再会したとき超騒いでたし……まぁ、蒼井君はキョンのこと気に入らなかったみたいだけど」

「……もしかして、キョンにムカついて睨んだのかもよ?」

……え。キョンに?

睨みの標的はキョンだったの?

そっか、標的はキョンかも……なのに私、勘違いしてた?

「……かもね……うん」

納得して、改めて自分の早とちりさを恨んだ。

いや〜、ハズいハズいハズい……


でも、あの目つきを思い出すと、また振り出しに戻るような気がした。


電車に揺られて、海宮駅に着いた。

チャリに乗り換えて、夏の終わり(?)の風を頬で感じる。髪が風に靡いた。

「ほんと、沙彩の髪ってキレーな栗色だよね〜。うらやまし」

セミロングの夏姫は私の髪を触ってくる。

「運転中だよ。危ないよ」

「はぁ〜い」

夏姫は手をハンドルに戻した。

「あ、沙彩夏姫。おはよ〜」

曲がり角から、唯が現れた。……って、なんか違うぞ、唯。

「唯、髪染めた?染めたよね?」

あ、そうか、髪色。夏姫の言葉で気づいた。

唯の髪は、金髪に近い色になっちゃってる。

「あ〜、うん。イメチェン?」

「似合うね」

そう言うと、唯は嬉しそうに笑った。

「も〜ラブラブだなぁ〜高杉夫婦!」

「それ、伶にも言われたんだけど」

「ま〜いーじゃん?」

横3列で喋りながら、学校へと車輪を走らす私たち。

ハタから見たら……危なっかしい光景だろうな。


学校へ着くと、何故か先生に呼ばれた。

「お〜スマンな呼び出して」

1年部の……滝川先生。

なんで1年部の先生が私に?

「杉浦、西院咲良知ってるか?」

「知ってますけど……」

「おおそうか。やはりな。先生は西院の担任だが……西院、この頃元気がないみたいなんだ。何か知ってるか?」

「いえ、特には……」

聞いて、ピンときた。

多分、蒼井君絡み……って。

「そっか。すまんな!」

「いーえ。では」

先生に一礼すると、教室へと向かった。

『蒼井大翔親衛隊』の人数や学年から見ても……蒼井君のファンは1年生のみならず2年3年にもいるだろう。

そんな人と付き合ってる咲良ちゃん……全学年のファンから目をつけられるのは、多分当たり前。

目をつけられるだけなら、いいかもしれないけど……ファンが行動し始めると、恐怖モノ。

集団イジメとか、有り得るよね……

「〜〜〜っ!!!―――」

「―――!!!」

心なしか、どこかからか罵声が聞こえてきた。

どうやら……旧校舎からだ。

空き教室に入り、旧校舎を見る。

「さっさと別れろや!!!」

「嫌っ!やめてくださいっ!」

旧校舎の裏側なのか……とにかく、人の姿は見えないけど、明らかに声は聞こえる。

ていうかこの声……咲良ちゃんじゃん。

始業が鳴っているにも関わらず……私は2階から飛び降りた!(※絶対マネしないでください)

あっという間に私は旧校舎のすぐ近くに。シューズのまま、旧校舎の裏側へ行った。

「なんだこの草……」

首まで生えている草が邪魔。振り払いながら、進むと……ギャル系の3年生、5人の姿が見える。

その5人に囲まれ……リボンのついた頭が見えた。

「おめぇみてぇなぶりっ子、大翔様には似合わねぇんだよ!!!」

3年は咲良ちゃんを蹴って踏みつけ踏みにじり……私は、いてもたってもいられなくなった。

「何してんですか!?」

草むらから飛び出した私は、3年生を掻き分けて囲いの中に入り、ぐったりしてる咲良ちゃんの意識を確認する。

「大丈夫!?咲良ちゃん!」

反応しないけど……呼吸はしていた。

「てめぇなんだよ!邪魔すんなよ!」

今度は私に蹴りが飛んでくる。

防衛術は知らないけど……先攻術が飛んできたら、こっちも先攻術で応じよう。

「いででででっ」

ギャルの足を掴み、足首を捻らす。

グギギって聞くからにも痛そうな音したけど……捻挫ぐらいだろう。

そいつはその場にうずくまり、足首を掴んでのた打ち回った。

残り4人が呆然としてる間に立ち上がり、咲良ちゃんをかつぐ。

「……次は誰ですか?」

我ながら、気持ち悪い笑みを浮かべると……後ろから、殴られる気配がした。

すぐさま振り向き拳を避け、そいつを転倒させる。

今度は横から拳が飛んできて、下がってかわして、背骨を瓦に見立ててチョップする。

あとの2人は、凍りついた。

「つーかコイツ、2年の杉浦沙彩じゃん!握力40で有名の……」

「チッ……行こっ」

2人はのた打ち回るギャル1人を担ぎ、復活した2人はよろめきながら走ってどこかへ行った。

……なんだよ。4人一斉にかかってきても大したことないのに。ていうか40じゃなくて45だよ。

とにかく、咲良ちゃんを保健室に運ぶのが先……かな。


「あら、杉浦さん。HR始まってるわよ……って……」

保健の先生も、私が担いでいる咲良ちゃんを見て絶句した。

「さ、さささ、西院さん!?」

「はい。3年の女子5人から暴行を受けてたみたいで……私が助けに行ったときは、もう意識不明で……」

「と、ととと、とにかく救急車!」

慌しく先生は動く。

その間、咲良ちゃんをベッドに寝かせた。

「失礼しますっ!」

先生があたふたしている最中……保健室から、人が入ってきた。

蒼井君だ。走ってきたのか、汗が一筋流れている。

「咲良!大丈夫か!?」

蒼井君は咲良ちゃんに駆け寄った。

「あら、蒼井君!西院さん、今さっき運ばれて……意識がないみたいなの!」

「え……」

蒼井君は、咲良ちゃんの顔を見て絶句した。

だって白くて綺麗な咲良ちゃんの肌は……殴られて、ボコボコになってて……ところどころ内出血していたから。

「……咲良ちゃん、3年の女子に殴られてた」

何日……何ヶ月かぶりに、蒼井君にそう話しかける私。

「3年女子は……蒼井君と咲良ちゃんが付き合ってるのが気に食わなくて、何発も何発も殴ってた。私が助けに行った時は……既に、意識なかったよ」

「・・・」

「なんでこんな風になる前に助けに行かなかったの……?私が行かなきゃ死んでたよ」

ああ。人に怒るのって何年ぶりだろ。

蒼井君は、俯いているだけだった。

「……せ、先生、西院さんの保護者に連絡してくるわね……」

静かながらもこのピリピリした空気に耐え切れなくなったのか、保健室を出て行った。

そして、訪れる沈黙。

「ご、ごめん。第三者外の私が変な口きいて……」

謝る必要ないけど、沈黙に耐え切れず謝った。

「いえ……俺が、悪いんです」

蒼井君が、この場所へ来て初めて私に向かって言葉を言う。

「咲良がいじめを受けてることに気づかなかった。全然」

「……咲良ちゃん、いつも明るいし」

そう。あの日の電車の中でのテンション……あんなテンションの子が、いじめを受けてるなんて普通思わない。

「ごめんな、咲良」

そう言い、咲良ちゃんの頭を撫でる蒼井君の表情は、もう立派な“彼氏”だった。


このまま、2人がうまくいきますように。

私は思った。

だけど……これから、あんなことになるなんて……思わなかった。




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