第29話 性分
「疲れたぁ〜……ただいまぁ。」
いろいろあった修学旅行も終え、家に帰った。
うん、やっぱ家の空気はホッとするな……
「お帰り沙彩。どうだった?」
お昼ごはんを作ってる途中のお母さんが、私に聞く。
「うん、おもしろかったよ。自由行動とかさ」
それから、延々と土産話をした。
今日は金曜日。明日明後日が休み。2年生は部活も出ちゃダメ。
……さて、土日何をしようか……
「沙彩、彼氏とはまわったの?」
「……え?」
あ、そうだ。お母さんに話したっけ……唯のこと。
結局聞き流したのかな……って思ったけど、しっかり覚えていたらしい。
「あ、うん。班は夏姫と唯と五十嵐君っていう人とで、ディ○ニーランドも唯と五十嵐君で班組んだし」
「……五十嵐君って誰だっけ」
「五十嵐伶っていう、唯の友だちだよ」
「あ、なるほど。唯君の友だち……五十嵐財閥の。なんで唯君と2人でまわらなかったの?ディ○ニーランド」
お母さんが、不思議そうな顔して聞く。
「付き合ってんなら、思い出作りに2人でまわればよかったのに」
「……十分思い出つくれたし……」
返答に、困った。
なんせ……お母さんにとって、恋人同士+1人なんて式は有り得なさそうだったから。
「そう。ならいいけど……私が高校のときの修学旅行はね……」
お母さんの思い出話が始まる……出された料理をもくもくと食べながら聞いた。
土曜日。桃花からお誘いのメールが来た。
「さーやぁぁぁぁ!!!補習ぶりっっっ!!!」
「……そんなこともないけど……」
駅につくと、修学旅行をきっかけに黒に磨きをかけた桃花が走り寄ってきた。
「あ、そっかぁ!んじゃ、サーティーツーでも行こーよっ!」
な、何がどうなって“んじゃ”に繋がるの!?
……って思いながらも、桃花といろいろ話しながらサーティーツーへと向かった。
「うは〜っ!うんめぇぇぇ!!!」
薄黄色のアイスクリーム……おそらく桃味のアイスクリームにがっつく桃花。
桃花だから桃か……(駄洒落?)
私も苺味のアイスクリームを食べる。
果肉が入ってて、めちゃめちゃウマいんだよなぁ、コレ……
「実は〜、今日、さーやに聞こうと思ったんだぁ!」
「何を?」
「さーやの彼氏って、高杉だよね?高杉唯!」
な、なんだ今更……
「そうだけど?」
「彼氏のこと、好きぃ?」
今更、なことばかり聞いてきて、少々「桃花頭おかしくなった?」って思う。
「うん……好きだよ?」
「彼氏=好きな人になってるぅ?」
「うん、まぁ……桃花、何が言いたい?」
「さーや、彼氏のほかに好きな人いるのかなぁ……って思ってさ!」
はい?……もう、ズバリ言う。
「桃花、頭おかしくなった?」
「っえ――――っっっ!!!さーやヒドッ!純情純白純粋純真な乙女の純情純白純粋純真な疑問なのにさぁ!」
どこが純情純白純粋純真っ!?
純情純粋純真はどうか分かんないけど…純白は違うでしょ!あと乙女も!
「はいはいはいはいはい……」
暴れる桃花を抑えていると……
「も―――――っっっっっ!!!!!サイアクゥ!!!」
桃花以上の大声が聞こえてきた。
「なんだなんだぁ?」
桃花も私と揃ってその大声の主を見る。
あ、まじない部の……原美来?
「お、落ち着こうよ美来……」
そう言い、原美来を抑える……えっと、誰だっけ。
あ、そうそう。バスケ部の1年内で唯一のレギュラーで有名な高倉歩海だっけ。
「何日暴れたら気が済むのか……」
クールにそう言うのは、生徒会役員で学年一頭がいい、窪田惠夢だ。
「だってさ!!!せっかく大翔君が登校したと思いきや……咲良ちゃんと付き合ってるんだよ!?」
「あ〜……蒼井君と咲良ちゃんって、7月あたりで一緒にいるとこ見ちゃったんだよなぁ……」
「うっそぉぉぉぉんっっっっっ!!!メグ、なんで言ってくれなかったのぉ!?」
「言えるわけないじゃん」
7月あたり……咲良ちゃんが、自分のこと思い出してもらうためにお見舞いに通ってた時期かな。
んで、思い出してもらって両想い……幸せなパターンだね。2人にとっても……
「さーやぁ?どぉしたぁ〜?」
「あ、えと……このアイスおいしいなぁって思って」
「なぁんだぁ」
……いけないいけない。何切なくなってんだ私は……
気を紛らわすため、再びアイスにがっついた。
それからゲーセンとかで桃花と遊び……夕方6時。電車に乗った。
「あ、メールだ」
ケータイに届いた、同じクラスの子からのメールに簡単に返信してると……
「あ〜っっっ!沙彩ちゃんだぁ!」
「わっ」
横から何かが突進してきて……ドンッとぶつかった。
「あ、キョン」
「久しぶり〜!」
キョンこと遠藤崎右京がニコニコと笑った。
「修学旅行どうだったぁ?」
「あ〜うん。楽しかったよ。ディ○ニーランドとか行ってさ。」
「ディ○ニーランド!キョンも行きてぇぇぇぇ〜〜〜!!!」
あ〜……キョンうるさいぃ……
目の前の席に座ってるカップルもじとっと私たちを見……
……て………
い………!!!?
「キョォォォォォンッッッッ!」
前の席からいきなりあの子が突進して……キョンに抱きつく。
そう、あの子……西院咲良ちゃん。
「んきゃ〜っ!咲良ぁ!ひっさしぶりぃぃぃ!」
「久しぶりぃ!中学校以来っ!」
見るからに、2人は親友っぽい。
……じゃあなんで高校で会わなかったのか……高校が無駄に広いからか!?
いや、それはさて置き……咲良ちゃんの横にいた、男の方。
あれは……蒼井君?
髪は栗色から黒髪に変わってて、色白だったけど少し黒くなっている。
そしてまた一段と大人っぽく……だけど、昔の面影はしっかり残ってた。
でも、明らかに違うところ……
眉をひそめ、口は一文字。目は鋭く光ってて……
私を、睨んでる?
「大翔ぉ?顔怖いよぉ?」
蒼井君の表情に気づいた咲良ちゃんが甘ったるい声で蒼井君に言うけど……蒼井君の表情は変わらない。
ていうか……なんで私が睨まれなきゃいけない?何かしたっけ?
元好きな人とはいえ……――正直、ムカついた。そして、正直悲しかった。
ワケ分からず睨まれるのは、最も嫌いで、むしろやり返す性分だから……
私も同じように少し眉をしかめた。
「キョン」
「ほへ?」
「なんか前の人に睨まれてムカつくから席かえるね」
キョンに小声でそう言い荷物を持ち、他の車両へと移った。
……そして、思った。
もう、あの頃じゃないんだな。って。
あの頃の私や蒼井君は、もういないんだな。って。
――あの頃の日々は、幻想だったかもしんない。って。