第28話 修学旅行6-過去の傷-
この世にいない……それはつまり、死を表していた。
「じゃ、宅配お願いします」
伶君は店員にそう告げると、さっさと土産物屋を後にした。
歩いている途中……何と声をかけていいのか、分からない。
「……ていうか、暑っ。アイスでも食おーぜ」
「あ、うん」
沈黙を破ったのは、伶君の言葉だった。
アイスを買って、ベンチに座って食べる。
アイスはサーティーツーみたいに種類が豊富だった。
「……ったく、高杉夫婦!黙りこくって気持ちわりーよ」
「た、高杉夫婦って……」
「あのこと聞かされて、お前に気安く喋りかけれるわけねーじゃん」
唯の言葉で、また静まり返った3人の空気……
「……まぁ、そうかもな。愛美の死が、俺が彼女作りたくないって思うトラウマ」
「愛美さん、なんで亡くなったの?」
「脳卒中。中学の時、結構頭痛がするって度々言ってたしな。いわゆる突然死、ってやつ。」
脳卒中ぐらい知ってるし……
「俺、自分で言うのもなんだけど……すっげぇ、愛美のこと好きだった。結婚まで約束した」
馬鹿らしいだろ?と伶君は付け足す。
私は首を横に振った。
「……結婚約束した次の日に、死んだんだ」
思わず、眉をひそめた。
伶君の表情がすごく……すごく、哀しそうだったから。
「俺、思った。すげぇ好きでも、いつかは離れてゆく……って。手の届かないところに。その形が、縁を切る、ただの“別れ”かもしれねぇし、永遠の“別れ”かもしれない。縁切りの別れだったら、またいつでも会えるけど……永遠の別れなら、いくら願っても会えねぇんだよ、ずっと」
……私は、固まったまま動けず……
手に、溶けたアイスが付着した感触で、ようやく我に返った。
「杉浦、アイス溶けてんじゃん」
慌ててアイスにがっつく。
全部食べたところで、立ち上がった。
「手汚れてるから……トイレ行ってくる」
「行ってらっさい」
すぐ近くにあったトイレに駆け込み、手に付着したアイスを洗い落とした。
「……いくら願っても会えない……か。」
伶君のあの表情が、頭から消えない。
……まさか……私と渋谷か銀座で口論したり、夏姫と戦ってた伶君にあんな過去があったなんて。
彼女作らない理由も、女嫌いかと思った。
“いくら願っても、会えない。”
まだ、そんな状況がよく分からなかった私は……伶君の心の痛みがどれほどのものか、分かったつもりで、分からなかった。
唯と伶君のところへ戻り、ご飯を食べると、伶君の提案で『アトラクション完全制覇』を実施することにした。
時間はお昼の1時。あと5時間で、このパーク内のアトラクションを全部乗ろう、という計画(?)
でも、ディ○ニーランドって……来て思ったけど、無駄に広いじゃん。
「まぁ、できるだけって話じゃない?」
パンフを見ながら独り言を言う伶君の後ろで、私に唯がささやく。
「今日平日で人あんまいないからさ、制覇できるかもよ?」
「あ〜、なるほど。ていうか沙彩、アトラクションとか平気?」
「うん。遊園地とかの乗り物、好きだし!」
ただし、一部を除く。
私が笑うと、唯は何故か切なそうな表情を見せる。
「どしたの?唯。」
「いや、なんでもない。それよりさ、これ面白そうじゃね?」
話変えるとこあたりが怪しいけど……疑問は疑問のままで、いいよね?
―――……
5時ぐらいになり、このディ○ニーランドのアトラクション全て乗れた。
「つっかれたぁ~~~……」
近くにあったベンチに腰掛ける私。
「あ〜俺も。かなり……」
「移動、走ったもんなぁ……」
でも、私の中では立派な思い出のひとつになった。
それから、近くのショップに入り、お土産選び。
とりあえず、(隠れディズニーオタクの)お母さんとお父さんにペアのストラップ……かな。
あと、声楽部のメンバーにお菓子。
「あ、そうだ、イトコにも……」
なんて言いながら商品をカゴに入れていくと……予算ギリギリの量に達してしまった。
「あとひとつ……」
お土産は一通り選べた。予算ギリギリで……使い切るためには、あと500円の品物をカゴに入れないといけない。
この幅がキツい……
ふと、私の横を新婚さんらしき夫婦が横切った。
「お揃いのストラップ、可愛いねっ!」
「そーだな」
……そうだっ!
「ね〜唯、伶君!」
ショップの外で喋ってる2人を呼び出した。
「ん?何?」
「3人でお揃いの物買わない?記念でさ!」
「え〜、俺、んなモン興味ない」
私の提案に、伶君はすかさずクレームを入れる。
「え~マジで~?お坊ちゃまだから高価なモンしか買いたくないとか~?」
「そんなんじゃねーよ。お前と唯とで買えばいーじゃん。わざわざ俺入れなくても」
もしや……この人、気遣ってる?
「んじゃ、俺らで買う?」
唯の言葉に、私は頷いた。
再びショップに入り、早速どれにするか選ぶ。
「やっぱストラップがいちばんよくね?」
唯の提案で、ストラップにすることに。
「わ、コレ可愛いかも……」
目に留まったのは、ミニーのシルバーのストラップ。
可愛いけど、カッコいい……いわゆる、カッコかわいい系なストラップだった。
「んじゃ、俺もコレにする」
「いや、これも可愛いかもな〜……」
「・・・」
あれやこれやと散々迷い……結局、最初に選んだストラップにした。
唯は私と同じ種類のストラップのミッキーヴァージョン。
「記念……か」
夕日にストラップを翳し呟いた唯の言葉に、私は気づかなかった。
「お前ら、遅っ。俺、逆ナンされてたんだけど」
「そんだけいい男ってことじゃん?」
伶君、かなり怒ってる様子……
唯は謝る様子もなく。
「ご、ごめん伶君……」
「ま、別にいーけどさ。あと何分?集合時間まで」
腕時計を見る。
「5時58分……」
唯と顔を見合わせ、青ざめた。
「俺、先に行こうと思ってたんだけどさ、親切だからお前ら待っててやっ……ってオイ!」
伶君の言葉もろくに聞かず、ゲートに向かい、本日最後の猛ダッシュ。
周りには、誰1人として海宮高校の生徒は居ず……6時丁度に着いた私たちの班が、最後だった。
走り回ったこの1日……きっとずっと、一生忘れない。