第27話 修学旅行5-好きだし-
「別れる……って、なんで?」
「沙彩さ、アイツ……蒼井大翔、だっけ」
唯の口から、久々に聞いたような名が出てきた。
「そいつのこと、まだ好きっしょ?」
「え?なんで?」
「修学旅行の初日の朝……蒼井の朝練、沙彩見てたろ?」
朝練…あ、『蒼井大翔親衛隊』が見物してた……
ていうか、なんで……?
「なんで唯が知ってんの?」
「あの日さ、遅刻してきたのって、ウソ。沙彩見つけて観察してたんだ」
……じゃあ、表情がわざとらしかったのって、そのため?
「……で、沙彩が行った後、俺、蒼井に聞いた。なんで朝練してんのかって。……沙彩さ、蒼井が事故ったの知ってる?」
「う、うん。咲良ちゃんから聞いた」
よくよく考えたら……虚実なのかな、って思ったこともあったけど。
「この頃、蒼井、頭痛がヒドいんだって。んで、検査入院してんの。海宮病院だから、学校もすぐ近くだし……許可もらって、朝練に参加してるんだって。検査入院つっても、軽度だしって言ってた」
検査入院?大丈夫かな。また記憶喪失に……
って、今はそれじゃないっ!
「と、とにかくっ!唯とは別れないから!」
何故か、唯とは別れたくなかった。
同情じゃなく……最初は、蒼井君のこと忘れれるかな……って思ってた。
けど、今は……
「唯のこと、好きだ、し……?」
告白まがいの言葉に、語尾が小さくなる。
……唯には、好きだって言われた。
でも、私からは初めてで……
火照る私の体を、唯が抱き締める。
「……マジ、今日で終わりかって思った」
唯の腕は、かすかに……ほんと、かすかに震えていた。
……そんなに、不安だったんだ。
「確かに、蒼井はカッコいいヤツだ。でも俺、蒼井越えれるように頑張るからさ」
「……バカだな、唯」
腕を唯の腰に回して、抱き締めた。
唯がどれだけ苦しく、切ない想いをしてきたか……後々、思い知ることになる。
……そして、唯に伝えた『好き』っていう、2文字の言葉……
これが、最初で最後だった。
私たちは、ここで始まって―――ここから、終末に行き着くのかな。
―――…
3日目は、大分疲れが出始めたのか……体がダルかった。
4日目はサイアク。せっかく楽しみにしてたディズ○ーランドなのに……
浦○市に着いた途端、ヤバいくらいのめまいに襲われた。
ちなみにディズ○ーランドでの行動は、班を解体して学年全体で班を決めるらしい。
夏姫はもちろん、たっくんと班を組んだ。
高校生になったら、大分大人数で行動しなくなる。2人や3人が普通で、多くて4人程度の班ができた。
私はというと……結構お誘いがきた。でも、2人組とかを組んでる直後に誘ってくるから……なんとなく、気が引ける。
桃花からもお誘いがきたのだが、ギャル4人組で誘いをかけてきて……正直怖かった。
それで、最終的に唯と伶君の2人組に入った。
唯に至っては、「いーよ。俺も嬉しーし」と笑顔で承諾。
伶君に至っては、「暗に俺のこと、追い出そうとしてね?」って言いつつも、(一応)班に入れてくれた。
「ディズ○ーランドって、イタリアのバチカン市国2つ分の大きさらしーよ」
伶君の豆知識情報に、知ってるよ!とツッコむが……気分は悪いまま。
だけど顔に出しちゃ、せっかくの旅行の雰囲気ガタ落ちだよね。
ディズ○ーランドに着き、唯が点呼をとる。
「時間もったいないから早速出陣だぁ〜っっ!!!6時にこの隊形で集合な!!!」
引率者の巨大先生の合図で、わらわらとゲートをくぐった。
「唯、杉浦!あれがミッキーっていうヤツ!?」
テンションが少し上がったらしい伶君が、ミニーを指して言う。
「いや……あれ、ミッキーじゃなくてミニーだよ。」
「へ〜……ていうかコレ、よくできてんなぁ」
伶君がペタペタときぐるみミニーを触るもんだから……ミニーが照れちゃってるよ。
それはさて置き……
「……暑っ」
日差しがキツく、思わず学校指定の帽子を被った。
……ヤバ、目眩が……
「沙彩沙彩!あれ、シン○レラ城ってやつ?」
「あ……うん、たぶん……」
唯が指差す方向に佇んでるシン○レラ城。
わ〜、やっぱすっげぇ、でっか………い……
―――……
「……あ、起きた」
いつの間にか眠っちゃったらしく、目を開けると、唯が覗き込んでいた。
そう、いつの間にか眠っ……
って!!!
「えっ、私、ちょ、どう……うっ」
頭にズキッと痛みが走った。
「あ、ほら、急に動くと危ねーよ」
そう言い、唯は再び私をベッドに寝かす。
混乱してた頭が、少し整理ついた。
「……私、倒れたの?」
「うん。バターンって。すぐ救護室運んだ」
「そう……なんだ。伶君は?」
「ついさっきまでいたんだけど……いつのまにか消えちゃっててさ。多分、他のヤツ等といると思う。」
「そっか。重かったよね?ごめんね」
「いや、全然重くなかったし」
一通りの会話が終わったせいか、沈黙が続く。
口を開いたのは私だった。
「ごめん……せっかくのディ○ニーランドなのに……」
「まぁ、アトラクション全部まわるつもりだったから、ちょっと残念だけど」
唯のぼやきに、少なからずショックを受ける。
いや、少なからず……じゃないか。
私が黙り込むと、唯は笑った。
「冗談冗談。これも思い出になるからいーじゃん?」
「……だね」
笑ったせいか、頭の痛みがだいぶ取れた。
「あ、頭痛くないかも……」
起き上がると、さっきのような痛みはない。
「薬効いてきたんじゃん?」
「へ〜、薬……って、私薬なんて飲んだっけ?」
「じゃ、平気っぽいから戻るか!」
唯はさっさとイスから立ち上がり、バッグを持った。
「え、ちょ、私の疑問は?どーなるの?」
「疑問は疑問のままでいーじゃん。」
意味不明な唯の言葉を聞きながら、ベッドから降りた。
疑問は疑問のままでいい……か。
「お〜唯、杉浦。復活?」
伶君は土産物屋でぬいぐるみを全種類買い占めているところだった。
手首には、しっかりとリストバンドがついている。
しかも今日買ったものらしく、ミッキーの刺繍が入っていた。
……そのリストバンドの下に隠されている、傷痕。
その傷痕に対する私の疑問も……疑問のままで、いいのかな。
「あ、うん。復活。ごめんね、迷惑かけて……」
「迷惑かけるぐらいなら、最初から言えっつの」
伶君はそう言いながら、笑った。
「ていうか伶、お前ぬいぐるみオタク?」
「記念だよ記念。愛美がコイツ…ミッキー好きだったからさ。」
さらっと言い、彼はブラックカードを店員に見せて、たいそう驚かせる。
……え?ツグミ?
「ねー伶君。ツグミって、誰?」
「……は?杉浦、お前、どこでその名前知った?」
伶君の目は、一瞬にして変わった。
“多分、人間が狼男に変わるぐらいに”
唯が言ってた……まさにソレ。
「いや、伶、お前さっき言っただろ。ツグミって」
「……あ」
伶君は口を押さえる。
空気が、なんか凍った感じになった。
「……もしかして、それと関係アリなんじゃない?」
私が伶君の手首を指すと……彼は大きく溜息を吐く。
「……誰にも、言うなよ」
私の中で唾液が、喉をリアルに音を立てて通る。
「愛美……早川愛美は、俺の元カノ。……もうこの世にいない」
早口で言うと、伶君は小さいミッキーを追加した。