第26話 修学旅行4-別れよう-
翌朝。朝食の時間より1時間早くセットしていたアラームの音で目が覚めて……予想してた通りだけど、夏姫は起きてない。
「夏姫ぃ〜。朝だよ〜。メイクやんないの〜?」
寝ぼけた声で夏姫を呼んでみるけど……起きる気配は全くナシ。
……仕方ない。夏姫は放っておいて先にメイクと髪やろっか。
バッグからごそごそとコテを出して、コンセントを探した。
「おっはよぉん!さーや!よく寝たぁ〜っ!」
髪を巻いている途中、夏姫が起きた。
「おっ!今日はストレートじゃなくって巻き髪〜?」
「うん。気分的に」
自分の中で、大体この4日間の髪型やメイクは設定してる。
昨日はストパー&マスカラとリップをつけただけのシンプルスタイル。
今日はしっかりした巻き髪&ピンク系メイクのドーリー系。
明日は2つ結いにリップだけの女子高生系。(女子高生だろ)
明後日はポニーテールにスッピンのスポーティー。(遊園地で遊ぶから)
明々後日は移動だけだから何もしない。
……まぁ、大したことはするつもりはない。
「今日はお台場のフジテレビ局見学と銀座〜?」
夏姫も私と同様、コテで髪を巻きながら聞いてきた。
「うん。確かお台場は唯の提案だったような……」
「唯、昔っからの夢がカメラマンだからね〜!」
そう。唯の将来の夢は、プロカメラマン。
しかも、フジテレビの専属カメラマンっていう、細かい要望まで持っている……
「楽しみだなぁ〜……水○ヒロに会えると思う!?」
「う〜ん……み○もんた になら会えると思うよ?」
「あ、「み○もんたの朝ズバッ!」か!」
なんて会話しながら、手際よくメイクしていった。
「それでは、気をつけて行ってください」
先生の合図で、午前中に予定してるフジテレビ局へと電車で向かった。
「さ、さささ、さーやぁ……」
座る席がないので立っていると……隣の夏姫が涙目で私を見た。
「何?どしたの?」
「私、後ろ……」
夏姫の後ろを見ると……サラリーマンのオッサンが、夏姫のお尻を触ってる。
あ〜なるほど。痴漢ってヤツ……
東京にいないはずないもんね。
私は大きく溜息を吐き、ニヤニヤしながら夏姫のお尻を触ってるオッサンの手首を掴んで、圧し折った。
ボキッて、不快な音が耳に入る。
「○×△□☆%(○´v`)ポョ(゜□゜;)ンガァッ――――っっっっっ!!!!!orz」
ワケ分かんない奇声を発すると、オッサンは手首を手で掴んでしゃがむ。
あ、ちなみに折れてはないと思う。まぁ関節と腱はどうなったか分かんないけど……
「ありがとぉさーやぁ……」
「どーいたしまして。ったく、やっぱ東京って痴漢が多いね」
左向こうでは、女の人が涙を流してる。
右向こうには、女子高生か誰かの悲鳴が聞こえる……
助けにいきたいとこだけど……傷害をもたらした罪で私が連行されてもいけないし。
『次、台場駅〜』
電車のアナウンスが聞こえ、入口へと少しずつ足を進めた。
「沙彩、夏姫、大丈夫?」
「夏姫がちょっと……でも私が手首折ってやったし」
「うわっ。怪力女。そういや杉浦って握力いくらだったっけ?」
「45だよ」
2年女子の中では、暫定1位。
扉が開き、波のように流れ出る人たちと一緒に駅へ降りた。
―――……
今日は、昨日と比にならないほどいっぱい買い物したなぁ。
袋に入ってるメイク道具やアクセを見て、しみじみ思う。
……といっても、夏姫の比にはなんないけど。
「ごめんねぇさーや!持たせちゃって」
「いーよ、別に」
片手には私が買った商品。そしてもう片方には夏姫が買った商品……
「おい東郷。お前買いすぎ」
「夏姫、おまえいくら持ってきたんだよ一体……」
唯や伶君も片手には夏姫のお買い上げ商品をぶら下げている。
「ほんとごめんってぇ!」
なんて言いながらも、夏姫はご満悦だ。
ホテルについて、一旦肩の荷(?)を下ろす。
「は〜重かったぁ」
そこら辺のおばちゃんみたいに肩を叩いた。
「こっちもぉ〜」
夏姫も私と同様、肩を叩く。
……まぁ夏姫は両手に大袋2つずつ持ってたから。
「6時から夕食だって」
「え〜!私、お腹空いてないし!」
……そう。結構間食しちゃって、腹は全然空いてない。
「けどね、うん」
「む〜……」
微妙なやり取りをして、夕食会場へと向かった。
「あれ?食べねーの?」
肉汁たっぷりのステーキを頬張りながら、唯が不審そうな目で私と夏姫を見る。
「あ、さては食べ過ぎただろ」
ニヤリとしながら、伶君はサラダを食べた。
……ていうかさ、唯も伶君も……私たちと同じぐらい食べたよね?
「2人とも、お腹空いたの?」
「うん。バッチリ」
サラダボールの中に入ってるミニトマトを突付きながら聞く私に、男性陣2人はハモッて答える。
……恐るべし、男の胃袋。
「あ〜!もう私、ムリッ!唯、私の分食べてよ!お願いっ!」
「……いくら俺でも2人分はキツいわ」
「東郷、俺が食べるよ」
「マジで!?ありがと!」
ギブする唯に対して、伶君はサラダを完食し、夏姫の料理を受け取る。
伶君細いのに……むちゃくちゃ意外。
いや、隠れ細マッチョ系なのかもね。
「伶君スゴいね。なんでそんなに食べれるの?」
「家での料理が、バカみたいに多いから」
……あ〜、なるほど。お金持ち食に慣れちゃったワケね。
「しかもスポーツ系の習い事、いくつかしてんだよね」
「え、たとえば?」
「バスケ、バレー、卓球、剣道、柔道、空手、弓道」
「な、7つ……」
さすがお坊ちゃま……ていうか、ほとんど武道じゃん。
「あれぇ?テニスとか野球とかサッカーは?」
「屋外とか、暑いしヤダ」
……なるほど。
「伶、お前、屋外の体育の授業全部休んでるだろ」
「だって暑いし。その分テストで単位はとってるよ」
我侭お坊ちゃまはそう言い、ステーキを切った。
食事の時間が終わり、部屋に帰ろうとした時……
「沙彩、ちょっといい?」
唯に呼び出された。
「?いーよ」
少し不思議に思いながらも、唯についていく。
着いた場所は、人が通る気配がない廊下。
「あのさ、沙彩……ずっと思ってたんだけど」
唯は、息を大きく吸い、はいた。
そして、私の方を向く。
「……別れても、いいよ、うん」
唯は、寂しげに微笑んでいた。