第22話 惹かれ
……夢を見た。
薄暗い森の中……目の前に、2本の道がある……
どっちに行くか、迷ってた。
……迷ってた私の手を、誰かが握り、左の道へと私を引っ張る。
「……誰?」
その誰かが振り返ったけど……
途端に目を攻撃した、眩い光に反射して、顔が見れなかった。
「……――や?沙彩?」
「ん〜……?」
名前を呼ばれ、目を開くと……唯の姿。
「ごめん。結構長引いた……終電間に合う?」
時刻は、6時。
「……余裕で間に合うよ?」
「マジで?俺、電車乗ったことねぇから分かんなかった」
苦笑いを唯は浮かべ、「行こう」と言った。
それに続き、私もベンチから立ち上がる。
空は……オレンジ色。もうすぐ、秋が来る。
「ていうか唯、ほんとに電車乗ったことないの?」
「うん。練習試合とか大会とか、移動全部車だし。沙彩ん家や夏姫ん家行くときも自転車で行ってるしね」
「あ、そっか。唯、いっつも自転車だったよね」
「まぁ、軽い筋トレ感覚?てか、電車だったら痴漢に遭うかもしんないし」
「痴漢は普通、男は受けないよ〜」
笑い飛ばしている間……蘇ってきたのは、夏祭りの日。
駅のホームでの、蒼井君との別れ際……
『帰り、気をつけて』
『蒼井君こそ。私は誰か来ても吹っ飛ばすし!』
『さすが先輩!じゃあ、また』
『うん、バイバイ』
結局、蒼井君は逆ナンに遭ったんだっけ……
思い出し、またかすかに笑う。
……ハッてなった。
私、また……
また、蒼井君のこと思い出してる。
その後は、唯と一緒にいるのに蒼井君のことを思い出してしまった罪悪感からか……会話が成り立たなかった。
「あ、着いた」
唯の一言で顔を上げると、駅のホームがある。
「わ。なんか早い」
沈黙交じりの会話だったけど……不思議と、居辛くなかった。
だから、ほんとに駅のホームに着く時間が早い。
1年ちょっとの友達期間って案外すごいなぁ……
「あ〜、ここで沙彩とお別れか〜……」
残念そうに笑う唯と一緒に、私も笑った。
……なんか、不思議な感じ。
友だちだった頃は、普通にホームに着いたら「はい、バイバイ」だったのに……
今はちょっと、名残惜しい。
唯はもっと前から……名残惜しさを隠してた?
……自意識過剰だと思うけど……
「じゃ、またね」
「うん、また明日」
唯は私の頭を軽く叩くと、近くに停めてあった自転車に乗って颯爽と消えていった。
その姿を、無意識にずっと見つめてた。
ホームで別れなきゃならないときの名残惜しさ。
ほんの少し、唯を可愛いって思えたこと。
少しずつだけど、多分唯に惹かれてる。
―――だけど、私の中には……こんな些細な、自分でも感じ取りにくい感情より……もっとおっきな何かがあるってことに、気づかなかったんだ、この時は。
ただただ、「唯だけを見れる日が近づいてるんじゃないのか」って、笑みを浮かべてたんだ。