第1話 補習
私は、白い紙切れを渡されて呆然とした。
「マジですか……」
「残念だが、マジだ」
1学期最後の学級活動が終わり、先生に手招きされて向かったのは職員室。
手渡されたのは、白い紙切れ……補習の案内だ。
「杉浦、お前1年の頃はそこそこの成績だったみたいだが……何があったんだ?」
「そこそこって……やっぱ志望する大学が変わったから……ですかね」
1年の頃、私は私立の大学を目指してた。
でも親に「私立はダメ」と猛反対され……渋々志望大学を変えた。
国立の大学だけど……簡単に目指せる大学じゃない。
自暴自棄になった私は、授業はサボるわ、授業に参加したときは寝るわで……散々だ。
「変わったからって……全教科赤点はさすがにマズいぞ」
「ですよねぇ。なんかもう、勉強する意味が分かんなくなったっていうか……赤点でも、まぁいっかって思うようになっちゃって……」
だらしなく頭を掻いてると、先生が短く溜息をついた。
「勉強する意味が分からないなら、退学しろ」
きっぱりと先生に言われ、私は白い紙に目を落とした。
退学は……嫌だ。
「……はい。ちゃんとします。」
「ならよし。この期日にちゃんと来いよ?」
「……はい。失礼します」
職員の目が気になり始め、早足で職員室を後にした。
「さ〜や〜!どしたの〜?」
「うわっ」
後ろから突如何かが抱き付いてきて、体が少しよろめいた。
「……夏姫かぁ。びっくりした」
「ヘヘッ」
可愛く微笑む抱きついて来た人物は東郷夏姫。身長145センチのミクロ少女だ。
ちなみに「さーや」とは私、杉浦沙彩のこと。
執拗に三画の部首が一文字一文字に入っているのが特徴の名前。
「……コレ見てよ」
補習の案内用紙を夏姫に見せる。
「あっちゃ~……さーやが喰らったかぁ。補習」
……ん?“が”
「何?が、って。」
「ほら、先生が言ってたじゃない。「このクラスの中でたった1人補習を受ける義務を要する人物がいるので、そいつはサボらず補習を受けるように!」って。その1人がさーやだったとは……」
いつものように寝てた私は、そんなこと聞いていない。
「だから、終わった直後先生にさーやが手招きされてたから、もしやって思ってたんだ〜」
「……ねぇ、そんなに私バカ?」
「うん」
そ、そんなにハッキリ言わなくてもよぉ、夏姫さん……
「だって今回のテスト楽勝だったでしょ?1回目だったし。なのに、さーや赤点だったじゃん」
グサッと刺さる夏姫の言葉。
忘れてた。夏姫は1年の頃から10番以内に常に居座るエリートだったっけ……
「……2学期からはちゃんとするもん……」
「とにかく、補習頑張ってね!んじゃ、私たっくんと一緒に帰る予定だから〜!」
夏姫は私の肩を叩くと、靴箱へと向かった。
たっくんとは、夏姫の彼氏。1年の頃から付き合ってる。
たまに私と夏姫とたっくんとで絡んでる。
「彼氏……ねぇ」
―――必要、あるのかな。
結婚するわけでもない、ただやらしいことだけする男女の仲。
どうせすぐ引き裂かれる、もろい仲……
だけど夏姫たちは、例外かもしれないな。
だって、1年以上互いを想いあって過ごしてるんだから。
改めて、補習案内を見る。
平日9時から12時。場合によってはお昼過ぎまで……
夏休みに平日も休日もあるのか?っていうツッコみはさて置き。
「夏休み、半分奪われるし……」
隣を、1組のカップルが通り過ぎる。
笑い合いながら、夏休みの予定を語り合ってるっぽい。
そんなカップルを横目に、心の中で溜息をついた。
すぐに引き裂かれるもろい仲。
でも、そのもろい仲に憧れてる自分がいたのかもしれない。