第18話 班長
「あ、おはよ〜さーやっ!復帰したんだ!よかったぁ!」
1週間後……気持ちにケリがついた私は、いつも通り駅のホームへと向かった。
「おはよ夏姫。心配かけてごめんね」
「いや〜、さーやのことだから心配いらないっしょ!」
夏姫は力強く私の背中を叩いた。
電車に乗り込み、いつもの席に座ってケータイを開く。
「これ、今超ハマッてるお笑い芸人!」
お笑い好きの夏姫は、またもや芸人の写メを見せてくる。
……これ、江○2:50だよね…?今更かい……
「私は、は○にゃがいいと思うよ」
「あ〜、は○にゃね!おもしろいよね〜!あっ、そだ、学校でづくだ○づんぶ○ぐんゲームする??」
「やめとく……」
そんな会話をしてると……ふと、視界に入ってきた。
「今日、数学の宿題やってきてないしぃ〜」
浮ついた声で、長い巻き髪をくるくるさせてる……咲良ちゃん。
「俺やってきてるから見せたたげよっか」
「え〜マジで!?ありがとぉ!大翔大好きぃ〜!」
いつもの綺麗な笑顔を咲良ちゃんに向ける、蒼井君。
「……さーや?どした?」
「え?あ……江○なにげカッコいいなぁ、と思ってた」
「でしょでしょでしょ〜!?」
適当な言い訳……
胸は、じくじくと痛む。
まぶたが熱くなる……
……忘れたはずじゃん。なんで悲しんでるんだよ、沙彩。
自分に強く言い聞かせ、上を向いた。
……やっぱまだ、キツい。
「おはよ、沙彩、夏姫」
駅を出ると、自転車に乗ってやって来た唯が私たちに声をかける。
「おはよ、唯」
私がそう言うと、唯は照れくさそうに笑った。
……意外と可愛いな、こいつ。
「おっはよぉ唯ちゃん!」
「なんでいきなりちゃん付け?」
夏姫の「唯ちゃん」発言に、思わず顔が緩む。
私と夏姫は自転車に乗り込み、大通りへ出た。
横一列に自転車3台……通りすがりのサラリーマンが驚いた顔で私たちを見た。
「……ていうか、話にくくね?自転車置いていこーぜ」
唯の提案で、近くにあった駐輪場に自転車をとめた。
「あ〜、久しぶりの歩き!」
夏姫は伸びをしながら歩いてる。
「……そういえば沙彩、夏姫に言った?」
唯が耳打ちで聞いてきた。
「え?何を?」
「付き合ってること」
「あ……言ってない」
そう言うと、夏姫は「何何〜?」って言って近寄ってきた。
「夏姫、あのさ……」
言おうとした瞬間、唯に肩をつかまれ、引き寄せられた。
「俺ら、付き合ってるから!夏姫、沙彩に手ぇ出すなよ?」
ちょ、直球すぎるって!!!
案の定、夏姫は「え?」って感じの顔。
「そういえば唯、さーやに告ったんだよね?夏休みの最初ら辺……さーや振ったんだよね?唯のこと……」
夏姫はもう、混乱状態。
「蒼井君からの想いから逃げて、唯からの想いを受け取りました。」なんて言えるはずもなく…
「いや……でもやっぱ、唯でもいいかな〜って……」
「なんだ〜?“でも”って!」
唯は小さく私の頭を叩く。
唯の腕の中で、笑みをこぼした。
「そっかぁ!唯、さーや、おめでとぉ!」
何がおめでとうなのか分からないけど、ありがとうって返した。
……3人の間には、平穏な空気が漂っていた。
いつもと変わらない…変わったのは、私と唯が付き合うことになったことくらいの。
ずっと続くといいな。
これは、本心だった。
そして徐々に私と唯が付き合ってる、って噂が流れ出た。
もちろん妬む人もいたけど……だって唯、世間一般からするとカッコいいしね。
でも、その妬む人とも最終的には和解、という結末に必ずなる。
なぜかは……唯が、その人たちに「沙彩は何も悪くない」って、はっきり言ってくれるから。
その言葉を聞く度、好きでいてくれてるんだな、って思う。
夏姫とたっくんは、相変わらず順風満帆。
些細なことでよくケンカしたりしてるけど、翌日には元のラブラブカップルになってる、って感じの。
桃花に、蒼井君に彼女が出来たことを話した。
『ふ〜ん、そっかぁ』……それだけ。
噂だけど、桃花とユースケは復縁したらしい。
うん。それはいいことだ。
それはさて置き……1限目は学級活動。
修学旅行の自由行動のプラン決めだ。
「夏姫、私どこの班?」
「ふふっ私と唯とさーやと伶だよぉ!」
「あ〜よかったぁ。奇跡的じゃん」
「実はね、くじ引きの時にちょっと細工しといた!」
さ、細工って……恐るべし、夏姫さん。
先生が「班作れ〜」って言って、早速その4人で集う。
「んじゃ〜早速だけど、どこ行きたい?」
「えっと、私竹下通り!」
夏姫が大声で主張。
「俺、渋谷がいい」
クールに呟く伶君。
伶君とは、唯の幼なじみで唯と腐れ縁で唯と誕生日一緒で……とまぁ、簡潔に言うと、唯の親友。
あんま喋んない人だけど、そこがいい!って理由で、女子にモテる。
「俺やっぱお台場がいいな。沙彩は?」
「え?私?……ぎ、銀座……?」
「え〜俺ヤダ銀座。人多いし」
「渋谷も多そうじゃん」
「渋谷は若者の街だからいーの」
……そこから、私と伶君の討論が始まった。
「若者の街……って危ないよ?」
「昼間だからあっち系の店やってねぇし、危なくねぇよ」
「だって、カツアゲとか」
「どこでカツアゲすんだよ」
「ていうか伶君、メイド喫茶とかに入りたいだけでしょ」
「知らねーし、そんなキャバクラみたいなとこ」
「はいはい、討論そこまで!」
唯のデカい声で私と伶君は黙る。
「……とりあえず、伶は渋谷、沙彩は銀座な?」
落ち着いた物腰の唯。
どうやら班長は唯だろうな……
「じゃあ、班内で班長と副班長決めろ〜」
先生の声で、第ニの討論が始まる。
「どうする?班長〜!」
「班長どうやって決める?班長」
「班長は決まってんだろ。な?班長」
私と夏姫と伶君、一斉に唯を班長呼ばわりする「班長攻撃」。
「…分かったよ。俺がなる」
「よっ!九州男児!潔い〜っ!」
「いや、九州じゃないしココ」
夏姫がやんやと声をあげる傍で、副班長は誰にする?という議題が浮かび上がった。
「やっぱ副班長は彼女のさーやでしょ〜!」
「あ、唯、杉浦と付き合ってるんだっけ?」
伶君は思い出したように唯に聞く。
「ああ。修旅中に沙彩に手出すなよ?まぁ伶なら出さねーとは思うけど」
「……出したら杉浦の少林寺拳法の大技で腕粉々にされそう」
……少林寺拳法なんて知らないし。
「伶君は彼女いないの?」
「いない。てゆーかいらねぇ。めんどくさいし」
うん。伶君らしい答えだね。
その間、夏姫は先生を呼び出し、私と唯の名を告げた。
高校生活で最も思い出になるであろう修学旅行……
心なしか、今からワクワクしてた。