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海と想いと君と  作者: coyuki
最終章 海と想いと君と……
123/124

第122話 未来への……

飛行機に乗って、電車を乗り継ぎ……やってきたのは、本州から少し離れた小島ののシーサイド・ウエディング。

そこに着くと、大翔はたっくんの控え室、私は夏姫の控え室に向かった。


「キャー!さーやぁー!久しぶりー!!!」

ドアを開けると……目をまんまるくした夏姫が、ドレスのまま私に抱きつく。

「コラコラ、着崩れちゃうじゃん、せっかくキレイなドレスなのに」

「だって嬉しいんだもん!へへへー」

プランナーさんがおろおろしている中で、顔をくしゃくしゃにして笑っている。

人懐っこさは相変わらずだけど、やっぱりドレスアップした夏姫はとてもキレイ。

ちょっとうらやましく思いながら、花束を渡した。

夏姫は大学卒業後、民間企業に就職。たっくんは高校の数学教師として活躍している。

「今ね、杏里がトイレ行ってて……あ、そうそう!今日は唯も呼んだの!撫子ナデシコも一緒に来るんだって!」

「え、唯も?」

久しぶりに聞いた名前に、二度聞きをしてしまう。

唯はカメラ撮影の専門学校を卒業後、カメラアシスタントとしてキャリアを重ねている。

そこで、俳優科の武田撫子タケダナデシコという名の彼女ができたらしくて、夏姫とも仲良くなったらしい。

「そっか、唯もか……高校卒業以来会ってないから、もう6年ぶりかな?」

今の年齢……24から、18をひくとそのくらいになる。

そう呟くと、夏姫はきょとんとした。

「え、何言ってるの?さーや。確か、今日……」

……と彼女が言いかけた言葉は、ガチャリとドアが開く音によって遮られた。

「杏里!」

「わっ、さーや!久しぶり!髪黒くなったねー!」

「まぁ一応ね……」

結構名の知れた役者さんのマネージャーを勤めている杏里が、(仕事だったのか)スーツ姿でご登場。

ちなみに私は、普段履かないハイヒールにピンクのワンピース、そしてかぎあみのカーディガンを羽織ったという出で立ちだ。

髪は、一応検察官なので黒に染めている。

「蒼井様は?ご一緒?」

「うん、今たっくんのとこ行ってる」

大翔のことを“蒼井様”と呼ぶのも相変わらずだ。

「私たちが高校卒業して、もう7年……今年で医学部に進んだ蒼井様もやっと大学卒業だよね?やっぱ研修医とかになっちゃうの?」

早く診てもらいたい……という杏里の危険目な独り言は聞き流した。

若干神妙な顔で、こう答える。

「ん、それがね……」


―――……


「は?アメリカのメディカルスクールに留学?しかも大学の勧めで?」

「はい」

小原先輩……いや、小原拓海先輩の控え室を訪ね、一通りの挨拶を終えた後、急にこれからのことについて聞かれた。

4月からの生活……メディカルスクールに2年ほど留学することについて言うと、先輩はたいそう驚いていた。

「へぇー……そういや夏姫言ってたなぁ。「大翔君がKPS推薦蹴っちゃったらしいよ」って。6年経って心変わりしたの?」

「いえ、やっぱもうちょっと詳しく医療学びたいなって思って。日本ここの大学卒業してたら、あっちのメディカルスクールにも入りやすいし。もしKPS推薦受けてたら、6年はおろか臨床含めて10年ぐらいアメリカにいることになるから蹴ったわけです。下手したら就職も日本ではできないかもだし」

俺の長い自分語りにも、相槌をうってくれる小原先輩。

話が終わると、「やっぱ蒼井はすげーな」と言い、白いタキシード姿で立ち上がった。

「そのこと、ちゃんとさーやは了解してんのか?」

「……はい、もちろんです」

それを話したとき、彼女は俺以上に喜んで祝福してくれた。

でも、その後にこぼした……「やっぱ、寂しくなるね」という言葉。

それを思い出すたびに……渡米を来週に控えた今も胸が痛む。

そんな俺の心の内を察したのか……先輩は短く「そっか」と言った。

「んじゃあ、今日の二次会はお前のお別れ会だな。同高だった奴ら集めてパーっと飲もうぜ!」

「いや、俺下戸なんで……でも、ありがとうございます」

……もちろん、このまま来週何もせずに渡米する、なんてことは考えてない。

男として、ちゃんとケジメというものをつけないといけない。

ポケットの中にある、小さな箱を握りしめながらそう思った。


―――……


式が終わり、私たち招待客は屋外に移動した。

「ははっ、沙彩、超必死じゃん」

一眼レフ片手に、ベストポジションを探す私に、隣にいる彼が笑う。

「だって式中は撮影禁止だったもん。ここで友人の門出をおさめないわけにはいかない……!」

この日のために(少々痛い出費だったが)このカメラを購入した、と言っても過言ではない。


そして、花吹雪が舞う中で……

お色直しをした夏姫、たっくんが登場した。

一斉に歓声と拍手が流れる中、パシャパシャ写真を撮りまくる私。

「2人ともー!目線こっちお願いしまーす!」

……なんて言う私は、もう立派なカメラマンだ。

カメラに映る2人は……この世の誰よりも、幸せそうで。

「うらやましいなぁ……」

そんな本音が、口をついで出てしまった。


そして、ブーケトス。華やかな2人のステージが、女の戦場と化するのを後ろで見守っていると……

「なぁ沙彩」

「ん?」

不意に、大翔が私を呼ぶ。

「海、見に行かね?」


―――……


「うわーっ!超キレー!」

時折窓から見えていた海も、間近で見てみると迫力とか綺麗さが全然違う。

「見て見て大翔!海がエメラルドグリーン!」

「ん、そだな」

白い砂浜、エメラルドグリーンの海……そっと水を掬ってみると、透き通るような透明だった。

「そういえばさ、大翔と私が付き合うきっかけになったのも海だったよね」

「沙彩の実家の近所の海な。今思えば結構寒かったよな、真冬の海って」

「まぁそれも思い出だよ」

大翔への想いを再確認した海宮海、2人の始まりだった近所の海……

「海と想いは……つながっているね。少なくとも、私たち2人は」

「海と想い……か」

「これから、遠く離れちゃうけど……海があればきっと、想いを届けてくれるよね」

2人をつなぐものがあれば、きっと……けれど、海は不安までは飲み込んでくれない。

実はずっと不安に苛まれている。

このまま、彼が戻ってこなかったら……そんな不安に。

なんだか……視界がゆらぐ。

「きっとそうだな……でも、約束ぐらいはさせてくれ」

「え……」

背後に、彼の体温を感じる。

うしろから抱きしめられて、彼は右手をとって……


「2年後、ここに帰ってきて……結婚しよう」


輝くシルバーリングを、薬指にはめた。

「今、何て……」

言われたことが信じられない私……けれど、このシルバーリングが全てを物語ってくれる。

大翔はより一層私を強く抱きしめると

「返事は?」

耳元で、そうささやく。

……本当に大翔はずるい。「付き合って」も「結婚しよう」も自分からで……

でも、途轍もなく嬉しい……

さっきとは全然違う意味を含んだ涙を流しながら、返事の代わりに小さく頷いた。


すると、次の瞬間……

「「「おめでとーっっっ!!!」」」

屋外にいた人全員が、一斉にそう叫ぶではないか!

「え、うそ、なんで!?」

「……盗み聞きされてたわけか……」

「いや、盗み見も入ってるんじゃないかな!?」

どやどやと白い砂浜に降り立つ人々……自然と抱きしめていた腕が解かれ、代わりに指輪がされた右手をしっかりと握られた。

次々と降ってくる祝福の言葉……それに答えていくうちに、ああ、この人と婚約したんだなって実感していった。

嬉しさ、恥ずかしさ……愛しさ。

不安なんて一切混じっていない、この気持ちを……私はずっと、忘れない。




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