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海と想いと君と  作者: coyuki
最終章 海と想いと君と……
122/124

第121話 ある春の日

それから時は流れて…………


「差し入れー!買ってきたよー」

頭にタオル、上下ジャージといった、甚だ華の女子大生とは思えない格好で、あるマンションの一室の玄関でビニール袋を掲げる。

「おー、ありがとー」

何か作業をしているのか……顔だけを玄関に向けてそう言うのは、今月から晴れて大学生となる彼氏、蒼井大翔。

そう。今日は大翔がマンションに入居する日。その手伝いでお邪魔している。

「先輩、ジャージにタオルにビニール袋……まるで工事現場のオッサンですねー」

「ハハッ、コンビニのお姉さんにも言われたよ。「お仕事ご苦労様ですー」って」

同じく手伝いとして来ているカイジ君が、さらっと失礼なことを言う。

それをうまくかわしながら、大翔にポ○リ、カイジ君にコーラを手渡した。

「カイジ、沙彩はオッサンじゃねーよ。せめて兄さんだろ?」

「大翔ー、フォローになってないってー」

……ま、いいけどさ。

紙パックのレモンティーにストローをさしながら、唇を尖らせた。


「でもよー、やっぱもったいねーなぁ、KPS蹴っちゃうなんて」

ここまで来て言うことじゃないかもだけど、とカイジ君が付け足す。

ここまで……大翔は、全国屈指の有名私立大学に推薦で早々に合格。やっとマンションに入居した次第だ。

「お前だったらアメリカでもやってけたはずじゃね?」

「んなことねーよ。そんないきなり異国で暮らすなんてできるわけねーし」

「とか言って、杉浦先輩と離れたくないからだったりしてー」

カイジ君の何気ない一言で、少しむせた。

本当、カイジ君は彼女と別れてから野暮な奴になってしまった……

ついでに買ったお菓子を「いただきー」と手を伸ばしながら言うカイジ君を軽くにらんだ。


そんな彼がトイレに行っている間を狙って大翔に聞く。

「ねぇ、もしかして誰にも言ってないの?去年の6月のこと?」

「あ?……ああ、うん。悪い?」

「いや、いーよ。その方がいい」

人に知られてしまったら、ただの陳腐な出来事になってしまうからな……少々恥ずかしく思いながら、残りのジュースを飲む。

改めて、部屋の中を見渡してみる。

広いリビング、キッチンも私の家の数十倍キレイ。

部屋も他に2つあって、すぐ近くの海が見える見晴らしのいいロフトまでついていて……

「なんか、新婚さんみたいだねー」

頭に巻いていたタオルを外しながら、冗談で呟く。

すぐツッコミがくると思ったが……思いのほか、大翔は何も言わない。

「あ、大学生の独り暮らしには見えないかもーって意味で……って、何赤くなってんの?」

「べ……別になってねーし」

顔を覗き込むと、ぷいっと逸らされた。

そして、わざとらしく「コップとってくる」とキッチンに向かう。

そんな後姿を見て……思わず、フッと笑ってしまった。

……変わんないなぁ。大翔は、ずっと。

出会ってからもうすぐ3年、付き合って2年と数ヶ月。

長い目で見ると、たった数年だけれど……どれもこれも、私にとって大切で。

きっとこれからも、そうなんだろうな。

過去の自分が知りえなかった年月を、重ねてゆくことになるんだろう。

しみじみとそう思っていると、ふとある写真が目についた。

「あ、これ、インターハイのときの写真?」

「ん、そう。マネージャーが撮ってくれたやつ」

スタメン5人、全部員。2枚の写真が飾られていた。

インターハイの結果はベスト8。悔しさと誇らしさが入り混じっている写真たちは、輝かしい青春の光を放っている。

「そーいや大翔、お前大学ではバスケやんねーの?」

トイレからでてきたカイジ君がそう聞くと……

「うん。医学部……しかも最先端医療科ならサークルとかやる間なさそうだしな」

「まぁ確かに……でももったいねーなぁ。ゴリも落胆してたぞ。「蒼井ならNBA選手も夢じゃないのに」って」

カイジ君のバスケ部顧問、ゴリのモノマネが案外似ていて、2人で爆笑した。

ちなみにカイジ君は東京の大翔とは違う大学、シゲオ君、ユウヤ君の2人は地元大学に進学することになっている。

「さてと。残りちゃっちゃと終わらそ!んでご飯でも食べに行こうよ」

「了解ー」

頭にタオルを再度巻くと、残りのダンボールを開けた。


―――……


あれから、また6年の月日が経った。

無事に司法試験に合格し、新米検事として慌しい日を過ごしていた……そんなある朝。

「……彩、沙彩。起きろ、もう8時」

「んー……まだ8時じゃん……有給とったんだしのんびりさせてよー……」

体を揺すられて起きた私は、そう言ってぐずる。

そんな私に、大翔はあきれた声でこう言った。

「その有給、なんでとった?」

「えー?なんでって…………」

思考回路を巡らし……「あっ!!!」と言って、勢いよく起き上がった。

「夏姫とたっくんの結婚式!!!」

……本当、大事な日に限って寝坊する癖も変わらない。




遅れた上につなぎの回になってしまって申し訳ないですm(_ _)m

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