第11話 海宮花火3-気づき-
「んん〜〜〜……」
杉浦沙彩。只今、りんごあめ売り場の前で悩み中…です。
「先輩、りんごあめとか、どれも一緒ですよ?」
「……じゃなくって〜……」
りんごあめの屋台、にも関わらず、いちごあめやぶどうあめが、艶やかに光って並んでいる。
りんご、いちご、ぶどう…どれも大好き。だから迷ってるんだ。
ていうかなんで「りんごあめ」って堂々と書いてあるのに、レパートリーが広い……?
「お嬢さん。どれにするかね?」
売り場のおじいちゃんも、半分呆れた様子でフォッフォと笑ってる。
「ん〜……」
りんごはシャリシャリしてておいしい。
いちごは美肌にはもってこいのフルーツ……
ぶどうはあの味の濃さがいいんだよね……
「迷うなぁ〜……」
3つのフルーツと、にらめっこしたけど……どれにも負ける。(意味分かんない)
「おっさん、これとこれとこれ買う」
「え?」
横にいる蒼井君が、3つのフルーツを指差した。
「まいどありぃ〜。450円だよ。」
おじいちゃんの手に、蒼井君が450円をのせる。
「はい」
と、にっこり笑って、3つの棒がちらっと見える袋を渡す蒼井君。
「え?あ、ありがと……」
ビックリ、と嬉しい、が混じって拍子抜けな声になる。
「兄ちゃん見てると、昔のワシの鏡のようじゃ。」
顎鬚を触りながら、シワシワのおじいちゃんが笑う。
お、おじいちゃん、蒼井君ぐらい顔キレイだったの……!?(ちょっと失礼)
「ワシも若い頃はヤエコによくいろんなものを買ってあげたもんじゃ……あ、ヤエコっていうのは数年前に死んだ娘のことなんじゃけどなぁ」
おじいちゃん、回想シーンに入ってます……
ていうか、私と蒼井君……親娘じゃないですよ?
おじいちゃんの話を長々と聞かされ、ようやくりんごあめの屋台から脱出。
「あのおじいちゃん、ウケますね」
いや、ウケるというかなんというか……
「そ、それより!450円払うよ!」
「いやいいですって。先輩、多分もう底ついてるだろうし」
財布を開けてみると……蒼井君の言うとおり、100円玉が2枚と50円玉が1枚。
思い起こせば、いろんなモンを買った……
「……ほんと、ゴメン……」
半泣きでそう言うと、財布をバッグにしまった。
「それより、ちょっと金魚すくいしてもいいですか?」
「え?金魚?」
金魚すくい、とかかれた屋台を指差す蒼井君。
「妹が熱出してて。「金魚とってきて」っていう命令が出たもんで……」
「妹いたんだ!」
「はい。5歳の」
だ、だいぶ歳が離れてますなぁ……
「名前はなんていうの?ヒロトだからヒロコとか?」
「いや、亜珠華。亜細亜の亜に真珠の珠、華道の華、で、亜珠華」
わお。豪華な名前〜……
「母の再婚相手の連れ子なんで、全然似てませんが」
と、蒼井君は苦笑した。
「いや、でもやっぱ妹っていいよね〜。私、1人っ子だから羨ましい」
「たまにウザいですけど……じゃ、ちょっとすくってきます」
蒼井君が人ごみに混じって見えなくなり、私は石が積み重なった塀にもたれる。
夜風が頬に当たって、気持ちいい。
しばらく目を瞑っていると……
「あ、杉浦先輩!」
聞いたことがある声に、目を開けた。
「あ。優希ちゃんと李流ちゃんと咲良ちゃん……だよね?」
「キャー!覚えててくれたぁ!」
浴衣姿のリボン3人組。私が覚えてたぐらいで、キャッキャ騒いでた。
でも咲良ちゃんは……なんか、じとっとした目線で私を見る。
「……どしたの?」
咲良ちゃんは、ふい、と私から目をそらせた。
「……優希、李流。ちょっと先に川原行ってて?」
「え?あ、うん。どうしたの?咲良ぁ」
「別に……ごめんね?」
なんて言う咲良ちゃんの目は、別にって感じじゃない。
渋々優希ちゃんと李流ちゃんは川原へと向かって行った。
「……杉浦先輩」
今度はまっすぐ、咲良ちゃんは私を見る。
「ん?」
「……大翔と、どんな関係ですか?」
その言葉に、眉をひそめた。
この子は……やっぱ、蒼井君に未練があるんだ。
「咲良ちゃんが知る必要、ないじゃない?」
「あるんですっ!」
咲良ちゃんの大きく、叫ぶような声に、少しビクッとなる。
「……先輩、大翔と付き合ってるんですか!?」
「そ、そんなことないよ」
「じゃあ、大翔のこと好きなんですか!?」
その言葉に、ドクッと一気に心臓に血液が流れ込む感じがした。
私が、蒼井君を……好き?
「好きじゃなかったら、関係聞いたときに「ただの友だち」って言えるはずでしょう?」
ただの友だち……ただの、をのけても、友だち。
唯みたいな、一緒にいることが当たり前な存在。
唯みたいな、恋愛とか考えられない存在。
蒼井君は……友だち、じゃない。
さっき、蒼井君が海翼ちゃんに私のことを「友だち」と言ってて、ズキッときた。
―――じゃあ、一体……友だち、じゃなかったら、何?
「……関係が分からないのなら……大翔に、近づかないでください。私が迷惑なんです……」
冷たい声でそう言い、走り去って行った咲良ちゃん。
私は無意識に、3種類のあめが入った袋を握り締めた。
「……輩。杉浦先輩!」
「……え?」
ボーっとしてたらしく、蒼井君の声に気づかなかった。
「すみません、結構並んでて遅くなって……」
時計を見たら、あれから30分は経っていた。
「ん、いいよ。あんま気にしないし」
「あ〜よかった。怒られるかと思った」
安堵した表情を浮かべ、蒼井君が笑う。
「そこまで怖い先輩じゃないよ」
私もつられて、笑顔になった。
「金魚、5匹すくいましたよ」
ほら、と言って目の前に出された小さい袋の中には、オレンジ色の金魚が口をパクパクさせている。
「亜珠華ちゃんもきっと、喜ぶね」
「はい」
すると、夜空に……大輪の花火がひとつあがった。
よく見ると、辺りには人がほとんどいない。
また石壁にもたれかかった。
んで、空を見る。
「わぁ、キレー……」
次々と打ち上げられる花火。
蒼井君も同じように、もたれかかって上を見る。
赤、オレンジ、青……色とりどりの花火。
これが……海宮花火、なのかな。
最後の花火が夜空を彩って、しんと静まりかえった頃……ケータイの着信音に気づく。
夏姫からだ。
『今日はたっくん家泊まるから、先帰っててぇ〜!』
……あの2人といったら……
「夏姫、たっくん家泊まるんだって」
「それじゃ、先帰りますか」
蒼井君の合図で、もたれていた体を起こした。
帰り道……といっても、いつもの学校からの帰り道に等しい。
「海宮花火、日本の名花火百選に選ばれているらしーですよ」
「どうりで……すっごいキレーだったしね」
さっきの海宮花火を思い出し、納得する。
そして……何故か訪れる、沈黙。
頭の中には……咲良ちゃんや、桃花が浮かぶ。
「……あのさ、蒼井君」
「はい?」
「なんか変な話なんだけどさ…例えば、身近に異性の友だちがいるとするよ?」
「はい。女友だちですか?」
「うん。蒼井君の場合だとすると……その女の子の笑顔思い出しただけで頭がクラクラしたり、他の男の子と喋ってるのを見て、めっちゃ悲しい気分になるのって……恋だと思う?」
まっすぐ、前だけ見て聞く。
でも、蒼井君の考えてる表情がなんとなく分かった。
「……だと思いますよ」
「え?なんで?」
蒼井君を見ると、口に拳をあてている。
「友だちかどうかはさて置き、その人のこと考えるだけでも……十分恋なんじゃないんですか?」
「……そっか。」
だとしたら……
多分私は……あれほど、必要ないと思ってた恋を、しているのかもしれない。