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海と想いと君と  作者: coyuki
最終章 海と想いと君と……
116/124

第115話 未来

「もうさーや!この近くコンビニないやん!おかげで1キロ先のスーパーまで歩いたよ!」

「ごめんごめん……ちょっとタイミング失っちゃって」

「ってあーっ!フライング!さーやんと凛子フラゲしとる!」

キッチンにお菓子が入った2つの袋を置くと、光の速さで2人が席に座る。

隣に奈智、私の目の前に凛子、その隣に恵美理。4つのイスがやっとうまった。

ちなみにこの部屋は1LDK。備え付け家具が充実していて、大学まで電車で20分……という、今までの高校まで電車で40分という生活をしていた私にとってはまあまあの部屋だ。

本当はワンルームでもよかったけれど……元々私立を希望していた私の意見を金銭的理由で変えさせてしまったお詫びと国立大への進学のご褒美として両親が1LDKにしてくれた。

「にしても本当にいいよなーこの物件!キッチンもダイニングもリビングもひろうて!でもコンビニないのが難点やなぁ」

恵美理がしげしげとそう言い、カレーを口に運んだ。

「うっま……!凛子、マジ神やわー……」

「ふふっ、ありがとう」

彼女は大阪出身で関西弁が特徴的な現代っ子。

同じく奈智も大阪出身。私のことを“さーやん”と呼ぶ。

恵美理とは幼馴染の大親友で、一緒に現役大学合格を勝ち取ったらしい。

そんな個性豊かな3人とは、大学入学後最初の“法学部親睦会”で意気投合。もちろん、他の子たちとも仲良くなれて……本当に楽しい大学生活を送っている。


「さてと。夜も更けて参りました」

夕飯と入浴を済ませ、舞台はダイニングへ。

今日は泊まる気らしく、3人はパジャマを着用している中……私はジャージという格好。

「入学式から約1ヵ月……10人以上には告られたっつー噂を身に纏う杉浦沙彩がベタ惚れな彼氏の蒼井大翔君について聞かせてもらおうやないの!」

「ちょ、その情報どっから……てか、何について話せばいいのかな?」

おそらく、フランスの帰国子女の編入生が生徒に囲まれたとき、「なんかフランス語しゃべってー」と言われたときこんな気分なんだろう。

返答に困っていると、奈智がすかさずこう言った。

「写真!ずっと前から見たかったんやー、さーやんの彼氏の写真!ケータイにはおらんっぽいし」

「え、写メとか撮るもんなの?」

「当たり前や!フツー待ち受けにして1日最低5回はキスするもんやろ!?」

フ、フツーそんなことするか!?世のお嬢様方はそんな変態なのか……?

恵美理に聞いてみると、コクリと頷いた。

「へ、へぇ……そうなんだ……」

「それより早よ、写真!しゃーしーんっ!」

「はいはい、分かった分かった……」

凛子とは対照的に、奈智は少し年下っぽく感じる。しいて言うならば、キョンみたいな。

苦笑いを浮かべながら、自室に写真をとりに行った。


「ん、これが写真。左から二番目が彼氏だよ」

選んだのは、送別会での集合写真。総勢8名が写っている。

「うっわ……これまた、どえらいイケメンさんやなぁ……」

「さーやの彼氏だからきっと顔立ちがいいだろうなと思っていたけど……」

「さーやんってショタ(ロリコンの対義語)に加えて面喰いなんやなー……」

「奈智さん、それはちょっと聞き捨てなりませんな」

お菓子をお皿に出しながら、私をショタに面喰いと言った奈智にツッコミをいれる。

お菓子は袋食いじゃなくてお皿に出してから食べる。この4人内での暗黙のルールだ。

「んでんで?さーやんはこのイケメン君のどこが好きなんや?」

「“蒼井君”ね。んー、どこだろなぁ……」

思えば、今まで本人にも他人からも「どこが好き?」とは聞かれたことがなかった。

どこが……と言われ、彼のいいところをひとつに絞れるわけがない。

「……強いて言えば、全部?」

「うっわー!なんかエロい!」

予想外の反応に、運ぶお皿を落として割っちゃいそうになった。

「ちょ、いや、そんなつもりで言ったわけじゃ……」

「まぁまぁ、好きになるのに理由はないってニュアンスでしょ?」

「そう!凛子、そう!」

危ない危ない……危うくペースを乱されるところだった。

テーブルにお皿2つ、それにコップとジュースを置いた。

「うち、個人的にはこのよう分からんポーズとっとる男の子が気になるんやけど……」

「あぁ、この子は蒼井君の友だちのユウヤ君っていう子。普段はクールなんだけど、炭酸入ると酔うんだって」

「なんやそれ、おっかしー!炭酸で酔う人なんて初めて聞いたわ!」

「んじゃ、このちっちゃい女の子は?後輩?」

「その子は夏姫っていって、高校入ってからの友だち。今は名古屋で横に写っている拓海っていう彼氏と同棲中なんだ」

「へぇー、そうなんだ!うらやましいなぁ」

写真に写っているメンツについての話で盛り上がる中、奈智が不意にこう言った。

「さーやんの彼氏って高3やろ?彼が卒業したら、やっぱ同棲始めるん?」

「え?」

当然といっちゃ、当然な質問に言葉がつまる。

蒼井君には、行きたい大学行ってほしい。

でも、私はそれを知らない……聞いても、「受かったら教える」って言うばっかりなんだ。

「どうだろう……蒼井君、理系だからなぁ。文系色が強い瀬名大島大には来ないと思う」

瀬名大の学部は法学部、文学部、教育学部、心理学部、経済学部、理工学部の6つ。

理工学部があるとはいえ、ほぼ文系の大学だ。

「ふーん。それでも別れてないっていうのは……さーやも彼も、結婚したいっていう願望が少なからずあるんだ?」

「けっ……」

凛子の言葉に思わずジュースを吹きこぼしそうになった。

“ずっと離れない”ということは、傍から見たら“結婚”を意味することなんだよな。

分かっていても、なんだか実感がわかない。なんせ私は18歳、相手も17歳なんだから。

「……まぁ、そう……かも?」

それでも、その気が皆無ではないから、そう答えた。

「えーなぁさーやん!うちもそんな相手に早よ会いたいわー」

「まぁまずは女磨きやな。さーや目指してがんばるで!」

2人からの羨望のまなざしを受け、なんだか照れくさくなった。


午前1時。そろそろ眠くなってきたので、4つのクッションを枕代わりに、4枚のブランケットを掛け布団代わりにして4人で雑魚寝をした。

……こんな風に雑魚寝するのも久しぶりだな。去年の夏、蒼井君の家でみんなでA○Bの話題になって……そのまま雑魚寝をしたことがあったっけ。

「蒼井君、高1の春から高2の冬まで記憶がなかったんだ」

「え、記憶喪失?」

奈智と恵美理が寝静まった頃、隣の凛子にそう話しかけた。

案の定、凛子はちゃんと起きていた。上半身を少しだけ起こして、私を見る。

「だから、なんとなく蒼井君と未来の話することはタブーみたいに感じていたけど……これからは、話してみるよ。ちゃんと記憶も戻ったしね」

「……うん。そうしたらいいよ。大事だよ、将来の話をするのは」

凛子の声が、なんだか寂しげに聞こえた。

時計の秒を刻む音が、やけに響く。

「なんか、さーやの話聞いてたら本気で彼氏欲しくなってきちゃったー。さーや、フッた人でもいいから紹介してよー」

冗談っぽく言う凛子の言葉を、ハハハと受け流した。


私との、これからの未来……蒼井君は、どんな風に考えているんだろう。


―――……


「先生、ノート回収したんで置いておきます」

「おう蒼井か。ごくろーさん」

2日目の中間テスト終了後、集めたノートを数学担当兼3年A組担任の北村先生の机の隅に置く。

さて、明日の科目の勉強を始めようか……と、職員室を出て行こうとしたとき、北村先生が呼び止めた。

「そういや蒼井、お前英語できるか?あ、成績とかじゃねーぞ。英会話とかできるか?」

「ああ、はい。一応」

英語は幼少の頃から親父に叩き込まれていた。なので、そこそこ自信はある。

「ならば、今日の2時から会議室に行きなさい。姉妹校のリザロフ教授が到着するだろうから」

「え、教授が?」

リザロフ教授、とは、アメリカにある海宮高校の姉妹校の教授のこと。

医学界の第一線で活躍する、世界的に有名な名医と大学教授を兼ねている人物だ。

「いろいろと話を聞くといい。進路決定にも役立つぞ」

「はい、ぜひ伺います」

―――あ……

思わず即答した後、口を片手でふさいだ。

「ん?なんかまずいのか?」

「……いえ。午後2時に会議室、ですね。分かりました。失礼します」

一瞬、沙彩の顔が浮かんだんだ。

その顔は……送別会のときに見せた、不安げな表情で。


俺は……一歩ずつ、でも着実に……離れたくないといいつつも、離れていっているんじゃないか……?




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