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海と想いと君と  作者: coyuki
最終章 海と想いと君と……
115/124

第114話 5月の日常

「槙村!マークが甘い!そんなんじゃ逃げられっぞ!」

「うぃっす!」

「橋本!もっとちゃんと周り見ろ!」

「はい!」

レギュラー6人同士の3on3……正直キツいが、メンバーの技術向上のため檄を飛ばす。

相手チームでも、副キャプテンの田中が同級生に容赦なくアドバイスをしていた。

5月。3年生の授業にもだいぶ慣れ、第一段階の地区予選も突破した。


「張り切ってんなぁ、キャプテンさんよ」

「……お前もな。話し方変になってるぞ」

汗臭い更衣室。部活が終わり、この更衣室には俺と田中、2人が残されていた。

それもそのはず……予定の時間より長引かせたのは俺だ。

他のメンバーはものすごい速さで着替えを済ませ、一目散に出て行った。

「正直さ、もっと落ちると思ったよ。杉浦先輩卒業しちゃって。意外とドライだな」

「あいにく、そんな五月病みたいな時期はもう過ぎた。今はなんとか踏ん張ってるとこだ」

「……5月になったばっかだけどな」

それに……と、一昨日のやりとりを思い出しながら付け加えた。

「電話し合ってんだ、土曜の夜に。だから落ちる必要なんてねーよ」

なんだか照れくさくてだんだん早口になる俺を見て、田中はきょとんとした。

「……電話?普通なら毎日会っててもするもんなんじゃないのか?特に女なら……大抵の男は最初は相手するものの次第にめんどくさくなるパターンが多いが……しかも週1って……」

「ああ、俺ら、あんま電話とかメールとかしなかったから」

「……杉浦先輩もドライだな……よく続いてるなぁ、お前ら」

それじゃあ、彼女との約束があるから……と、話しながらも順調に帰る準備をしていた田中は、右手を振りながら更衣室を後にする。

「あ、そうだ。今度の合宿、ちゃんとゴリ(顧問)と三笠と話しとけよ」

「おう。じゃーな」

合宿……大会がある前に、1泊か2泊ぐらいで合宿か遠征をすることとなっている。

練習試合が目的で県外遠征することあれば、朝から晩までみっちり練習をする目的で(なるべく海宮市内で)合宿をすることも。

今回はその後者で……


「沙彩はどこがいいと思う?」

『んー、そだなー……合宿……予算を抑えて朝から晩まで練習できる場所……』

市民体育館だって、貸切にするのは日程関係で大変だ。金もかかってしまう。

顧問や三笠と話し合っても、いい場所が出ない……ということで、土曜の夜。沙彩に相談してみた。

すると……

『じゃあ、キョンの家とかは?』

「えっ?遠藤崎?」

意外にも、女バスの盛り上げ役、遠藤崎の名が挙がった。

そういえば、遠藤崎ってお嬢様なんだよな……失礼だが、そんな雰囲気は皆無だけれども。

『中学のとき、女バスでよく泊りがけで練習させてもらってたんだ。キョンの家、本当に無駄にデカいから、海宮高校のバスケ部全員入るし、おそらく部屋も1人1部屋あるよ』

「へぇ……泊りがけで練習、って、トレーニングルームでもあるの?」

『いや、キョンの家の敷地内にでっかいジムがあって……たしかバスケコート四面に卓球場、武道場……それにプールもついてたかな』

どんだけ金持ちなんだ、遠藤崎……

『蒼井君?』

呆気にとられ、ボーっとしていると……沙彩の心配そうな声が耳に入った。

「ああ、悪い。ちょっとスゲーなって思って」

『うん、確かにすごいよ。設備もいいし……提案してみたらどうかな』

「うん、そうする。ありがとう」

電話の奥から、「さーや、この冷蔵庫の中の野菜全部つかっていいー?」と、高い女の人の声が聞こえた。

その声に対して、沙彩は「ん、どーぞ」と返す。

「あ、友だち来てんの?」

『うん、3人ほど。2人はお菓子買いに行ってる』

「そういやまだ7時だもんな……悪い、ちょっと早かったな。丁度夕飯時だし……」

『んーん、全然。今料理している友だち、すっごい料理上手でさ。料理下手な私は入る余地ないし』

セッティングも終わって、丁度暇だったから、と沙彩は付け足した。

『蒼井君は?夕飯、まだ食べてないの?』

「うん。なんていうか、腹減ってないし……昼飯も、練習が長引いて3時ぐらいだったし」

『ちょ、ダメダメ!そんな不規則じゃ!ちゃんと時間決めて食べないと!あなたまだ17歳でしょうが!私が今からでも行って作って……って、いかん、私料理下手なんだ!』

珍しく慌てた声に、思わず笑ってしまう。

自分だって、この間まで17歳だったくせに……と言おうと思ったが、やめた。

「……なんか沙彩、母さんみたいだな」

『ハハッ……1人暮らし始めて家事とか全部やってたら一気にオバサンになった気分だよ……』

照れているのか、一気に声が小さくスピードもゆっくりになった。

顔を見ない分、声からいろんな表情が伝わる。

電話ってなんか、すげぇな。

「じゃあ、適当になんか作って食べるよ。本当に沙彩が授業サボって来かねないし」

『ほんとにそーだよ……単位落としてでも行くかもしんないからさ』

たまに沙彩は単位とかサークルとか、いろんな大学用語を口にする。

そんな時……少し、遠く感じたりもする。

「じゃ、また来週……あ、合宿の日程決まったらメールする」

『うん。なるべく早く返すようにがんばる』

「いーよ、2日3日遅れてもさ」

『ハハッ、そこまでズボラじゃありませんよ私』

……いつも、「また来週」とか言いつつも少し話を長引かせる。

電話を切る瞬間……お互い、何よりも寂しいのだろう。


―――……


「はーい、できましたよー!凛子特製、ハンバーグカレーにサラダとコンソメスープ!」

「うわぁ、超おいしそう……!」

法学部の同級生、藤原凛子フジワラリンコが、シンプルなのにとても豪華な食事を作ってくれた。

ハンバーグカレーに野菜いっぱいのサラダ、それにいい匂いを漂わせるコンソメスープ。

「奈智と恵美理、遅いねぇ。どこまで買いに行ってるんだろ……」

「うーん、ここら辺コンビニないからなぁ……張り切って買いに行っちゃって、言う間がなかったけど」

同じく法学部のタメ、篠崎奈智シノザキナチ川島恵美理カワシマエミリの話をしている間も、料理に釘付け……

「ねぇ、先に食べちゃわない?」

「ふふっ、ほんとにさーやは私の料理が好きね。どうぞ」

その声がかかるやいなや、「いただきます!」と手を合わせた。


「んー、ほんとにおいしい……」

話題のジュレポ○酢がかかったサラダ、野菜のコクが染み出ているスープ、そしてコクがありつつまろやかなカレーに手作りハンバーグが上手くマッチしていて……

「本当に凛子はいいお嫁さんになるね!」

「もう、さーや、そればっかりー」

同級生で同じ18歳でも、大人っぽい凛子はますますお母さんに見えてしまう。

「相手がいないんだからどうしようもないよー」

こんなに面倒見がよくて優しくていい女な凛子だが……今まで彼氏がいたことがないらしい。

世の男性はなんて節穴なのだろう。そう思えてならない。

そう思っていると……戸がガチャッと開いて、2人分の「ただいまー」が響き渡ってきた。

奈智と恵美理。2人のご帰還だ。




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