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海と想いと君と  作者: coyuki
第6章 過去からの蘇生
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第110話 消えない想い

「いやー、3年生は出し物しなくていいから楽でいいねー!」

センター試験も終わった1月下旬……二次対策に集中している中での文化祭。

丁度来週から自宅勉強期間になる、というこのタイミングでの文化祭。

「そだね。夏姫はたっくんとまわるの?」

「もちろん!高校生活最後……いや、もうギリギリだからね!」

「そっか、ギリギリ……だよね」

夏姫は4月にたっくんと付き合い始めた。

クラスは別々だったけど、運命的なアレでお互い一目惚れだったらしい。

私は……どうだろう。

平凡に、でも新鮮味を帯びながら流れていった1年生の時間。

2年生になって、夏季補習で蒼井君と出会って……そして、唯から気持ちを打ち明けられて。

でも私はすでに蒼井君を好きになっていて、唯からの告白を断ったものの……蒼井君に咲良ちゃんがいることを知って。

空っぽになった私は……唯を求めたんだ。

でも彼は見抜いていた……空っぽの中にあった、変わらぬ蒼井君への想い。唯への想いは上辺だけだって……それには、私も気づかなかった。

あれから、もうすぐ1年が経とうとしている……

「さーやももちろん大翔君とまわるよね?あ、そだ!どーせならウチら合わせて4人でまわらない?」

「……うん、そだね」

なんだか、寂しいな。

1年が経つとすぐに……顔を合わせる学校ばしょがなくなっちゃうから。

蒼井君とはもちろん……夏姫や杏里、クラスメイト……もう、制服を着てこの学校で一緒に過ごすことはなくなるんだ、永遠に。

そう考えるとなんか……泣けてくる。

が、泣くわけにはいかない。

「杏里は?もしよかったら6人で……」

「いやっ!私、2年B組がやっているイケメンホストクラブにミーハー仲間とずっと入り浸る予定ですから!」

「ああ、そう……」

……ん?2年B組?


「いらっしゃいませー!って、あ!杉浦先輩じゃないっすか!お久しぶりです!」

オープニングセレモニーが終わり2-Bの出し物会場である視聴覚室へ行くと、キラキラな衣装のシゲオ君が笑顔で出迎えてくれた。

文化祭という空気もあいまってか、いつもよりテンションが高い。

「お久しぶり、シゲオ君。蒼井君いる?」

「大翔っすか?あー、アイツ、検査してから来るって……SHRの時にいなかったから連絡取ったんすけど」

「そっか……」

やっと会えると思ったのに。

あからさまにがっかりした顔をしていたのか、シゲオ君はバンバンと私の背中をたたいた。

「ささっ、先輩、がっかりしてないで1曲パーっと歌って憂さ晴らししましょうよ!」

「え?歌う?」

「榊原っつー坊ちゃんが用意したカラオケ機器あるし!ささっ、東郷先輩も小原先輩も!」

カラオケにホストクラブに……ここは男版スナックか!?

促されるまま、視聴覚室へ入っていった。


―――……


「ヤバ、もう昼前じゃん……」

地元駅に着き、ケータイの電源を入れて時刻を見ると、11時。

幸い電車は10分後に到着する。

入院を経てからの検査1回目。文化祭があることを親に伝え忘れていて、今日に予約を入れられていた。

文句のひとつでも言おうと思ったが、元々は全部俺の非だから、何も言えずじまいで……


ホームでボーっと立ちながら思うことは、沙彩さんのことばかりだった。

誰とまわってんだろ……高校最後の文化祭だから、友だちとたくさん思い出を作ってほしい。

そこに俺が加わってよいものだろうか……とんだKYじゃないだろうか。

そもそも彼女は俺がいないことに気づいているのだろうか……

そんなことを悶々と考えていると、ポケットに入れていたケータイの着信音が鳴り出した。

ディスプレイには……“音声着信 杉浦沙彩”の文字。

間隙を見せない勢いで開始ボタンを押す。

『あ、蒼井君?沙彩だけど、もう病院出た?』

「ああ、うん。今駅にいる」

かすかに聞こえてくるA○Bの音楽……体育館裏にいるんだろう。

『じゃあ学校には12時ぐらいに着く?』

「うん。……あ、検査行ってたってシゲオから聞いたの?」

『うん。蒼井君のクラスの……なんとかクラブってとこに行ったときに』

「そっか。クラブ、結構おもしろかったでしょ?」

『そだねー、カラオケとかいろいろあって……榊原って人が用意したらしいね』

「そうそう。出し物決めたとき即案出してきてさ……」

……何日ぶりだろう。こんな、他愛のない会話……

まるで、過去がなかったときに戻ったみたいだ。

「あ、そろそろ電車来る……じゃあ、また学校で」

『うん……あ、学校着いたら食堂来て!一緒にご飯食べよ』

「食堂?うん、分かった」

終話ボタンを押し、画面右下には“通話時間 6分35秒”の文字。

あっという間だったな。少々名残惜しい気分でケータイを閉じた。


―――……


海宮高校の食堂は、去年オープンされたばかりの真新しい生徒たちの憩いの場。

元々人ごみが苦手な私は行ったことなかったのだが……最後だし、ということで、ここを待ち合わせ場所に決めた。

ステージ発表が大詰めを迎えているせいか、食堂にはあまり人がおらず空いている。

よかった、と思いながら窓際の席をキープした。

「あ、沙彩じゃん」

パンフレットを見ながら、一緒にどこまわろうか……なんて目星をつけていると、そんな声がして顔を上げる。

「……あ、唯。久しぶり」

「だなー。体育祭以来?」

「そだね……」

唯とは、今は事実上友だちなのだろう。

でも……やはり、私にとってはまだ気まずい存在で。

そんな私の気持ちをくみとってないのか……唯は私の目の前の席に座った。

「蒼井とは続いてんの?」

「うん、そうだけど……なんで?」

「最近一緒にいるとこ見かけないから」

「今はほら、受験あるし、ちょっと距離置いてんの」

「ふーん。それで今1人なんだ?」

「今待ち合わせしてるの。蒼井君、午前中は病院行ってて来なかったから」

なんだか……少し、唯が怖い。

雰囲気にしても、しゃべり方にしても……平生の唯は、もう少し穏やかなはずなのに。

「病院?あいつどっか悪いの?」

「いや、悪いっていうか……その……」

通院している理由を話すとなると、記憶がなかったことも絡んでくる。

蒼井君のトップシークレットがそれだとしたら……そしてそこを突かれたら……

迷っていると、意外にも唯は「ま、いーけど」で終わらせた。

「あのキーホルダー、蒼井にあげた?」

キーホルダー……修旅のときにペアで買った、ミ○キーマウスのキーホルダーだ。

ううん、と首を横に振る。

「だろうと思った」

想定内だったのか、唯は笑った。


「ゆーい!食券買わねーのー?」

「あ、わりー、すぐ行く!」

唯の友だちと思われる集団が、食券販売機Aから声をかけてきた。

食券を買うとき、唯が私を見つけてこっちに来たのかな。

「ねぇ」

立ち去ろうとする唯を、不意に引き止めた。

「唯は私のこと、もう好きじゃない……よね?」

なんとなく、確認したくて……まるで、念押しのように聞いた。

すると、唯はフッとほほえみを浮かべ

「簡単に消えんだったら、あの時告白しなかったよ」

「……そう」

「でも、沙彩とあいつの仲をこじらせるつもりもねーから。じゃ、お幸せに」

そう言うと、だんだん増えている人ごみの中に消えていった。

消えないほど強い想いで私と付き合った唯。

消えるはずなんかない想いを抱きながら、唯と付き合った私。

……同じ消えるはずのない想いでも、あきらかに食い違っていた。

「唯、ごめんね……」

私はつくづく、最低だ。

でも、私は……最低でも、今ある消えない想いを貫いていく。

今度は、正しい方向へ。


「お待たせ。大分こんでるね」

数分後、蒼井君が私の目の前に座った。

「うん、大分ね……ステージ発表終わったのかな」

そう言うと、蒼井君が不意に私の手をとった。

「食券買いに行こ」

「あ、うん……」

ニコッと笑って席のキープカードを表に返すと、蒼井君は私の手をひいて食券販売機Bへ並んだ。

滅多に人前で手をつないでこない蒼井君の手には、かすかに力がこもっていた。




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