第10話 海宮花火2-一期一会-
「おわ〜……」
祭り会場に着き、その“祭り”という典型的な雰囲気に魅了された。
綺麗な浴衣姿の女の人。はしゃぐ子ども。
まるで、自分が未来からやって来た人物みたいに思える。
……でも、そのイメージは簡単にかき消された。
「あ、さーやだぁっ!」
と、近くに寄ってきたピンクのド派手な浴衣で、デカ花つけたギャル、桃花。
そして後ろには、黒ギャル3人がギャーギャー言いながらはしゃいでる……
……ああ。このギャルこそ典型的な祭りの要素……なのかな。
「どーよ!この海宮美女・美男が集まった祭りは!」
キャッキャはしゃいでる桃花。
……そういえば桃花、蒼井君のこと好きなんだっけ……
「お〜い、さーや!うちらあっち行ってるね〜!」
「えぇっ!ちょっと夏姫ぃ……」
瞬く間に蒼井君と夏姫とたっくんは人ごみへとかき消された……
「あ、メールのこと、本気だからね!!」
と、念を押すように私の目の前に人差し指を突き出す桃花。
少々後退りしながら、うん、と答えた。
「んじゃ、またねぇ〜っ!」
黒ギャル集団の中に帰っていった桃花。
……さてと。夏姫たちを追いかけなければ……
辺りをキョロキョロしてると、男友だちと笑い合ってるユースケがいた。
「ユースケ!」
大声で呼ぶと、ユースケが振り向く。
ワックスでガンガンに逆立てた髪。ピアスに腰パン……レベル8のギャル男、ユースケ。(MAXはレベル10)
なのになぜか頭いい、謎なヤツ。
「さーやじゃねーか!マジ久しぶり!」
ユースケとは1年生で同じクラスだったから、ちょっとは喋ったことがある。
「桃花と別れたって本当?」
「あぁ。あっさり振られちまった〜的な!」
そう言ってユースケはニャハハと笑った。
……あれ?意外と平気そう……?
疑惑を持った目でユースケを見ると、「マジだって!」と言われた。
「んじゃ!さーやもいい恋しろよー!」
人ごみに消えてゆく後姿を、最後まで疑惑を持った目で見てた。
普通、彼女に振られたらショックで立ち直れないだろう?
でも、今普通に友だちと笑ってたし……
ていうか、他に女がいたとか!?
……悶々と考えていても、別れた、という事実にしか結びつかなかった。
その後も、顔見知りの人と会ったら少々話し、また会ったら少々話して……の繰り返し。
「夏姫たち、いないし……」
歩くの速すぎるし!
……なんか今、迷子になった子どもの気持ちが分かるよ。うん。
なんて考えてたら……
「うえ〜ん!ママがいなぁぁぁい!!!」
足元でちっちゃな女の子が、わんわん泣いていた。
「ど、どうしたの?ママいないの?」
3歳ぐらいの女の子を抱き上げ、問いかける。
「みうねっ、そこでねっ、そこでねっ!」
嗚咽で途切れ途切れの言葉。名前は……みう、って言ってたから、みうちゃんかな。
よく見ると、膝が少しすりむけている。
憶測だけど……お母さんについて行こうとして、走ったらこけて、お母さん見失って……で、今に至るのかな。
なんて、みうちゃんに聞いても分かるわけがなく……
「え、えと、とりあえず消毒……って、薬持ってないし!」
とりあえず、けがの処置は早く……ということで、水道に行って、みうちゃんの膝を洗う。
「ママァ……どこぉ?」
だいぶ泣き止んだのか、それともまた泣きはじめるのか……寂しそうな顔で、みうちゃんは辺りを見回していた。
「すぐ見つかる……よ」
と言ったけど……みうちゃんのお母さんの顔が分かんないから、見つかるはずもなく。
あ〜、どうすれば……
「先輩、この子誰ですか?」
「え?」
振り向くと、みうちゃんの目線に合わせてしゃがんでる蒼井君がいた。
「えと、迷子っぽくて……ケガしてたから、傷口洗ってたんだけど……」
「んじゃ、とりあえず本部行きますか。」
と、蒼井君はみうちゃんを抱き上げた。
あ、本部!その手があった……
「おにーちゃん、だぁれ?」
不思議そうな顔をして、みうちゃんは蒼井君を見る。
「そこのおねーちゃんの友だち。」
「ともだち?」
まだ小さいみうちゃんには「後輩」という言葉は分かんないんだろう。
「友だち」っていう言葉が分かりやすいんだろうけど……
その「友だち」の響きに、違和感を感じた。
「海翼!」
みうちゃんを連れ本部に行くと……中に、すっごい綺麗な女の人がいた。
みうちゃんは、「ママ!」と大きな声で言うと、蒼井君の腕の中から飛び出し、お母さんに飛びつく。
胸板を蹴られたらしい蒼井君は「おっ」と言って、抱えていた腕をほどく。
一瞬見えた、みうちゃんのバッグ。
“工藤海翼”と書いてあった。
海の翼……で、海翼ちゃん。か。
「海翼、ごめんね、気づいてあげれなくて……」
海翼ちゃんのお母さんは、もう声が震えてて半泣き状態。
「本当、ありがとうございました!」
と言って、深々と頭を下げられた。
しどろもどろしてると、海翼ちゃんが、
「あのねっ、おねーちゃんとおにーちゃん、ほんとのパパとママみたいだったんだよ〜!」
と、笑顔でお母さんに言っていた。
「あら、そーなの?」
「うんっ!あ、そだっ!海翼ね、りんごあめ食べたい!」
「じゃあ、買いに行こっか!」
そう言って微笑む海翼ちゃんのお母さん。
「本当にありがとうございました!」
そしてもう一度、頭を下げて、日差しもないのに何故かサングラスをかけて本部を出て行った。
「バイバ〜イ!」
元気よく手を振る海翼ちゃんに、私も振り返した。
……さっきのお母さん……つい綺麗さに見惚れちゃったけど、なんか、子持ちにしては若すぎたような……
「俺、さっきの人……なんか知ってる」
「え、誰?」
「たしかモデルの、工藤リ……」
「あっ!工藤リリナ様!?」
工藤リリナ様とは、今人気のファッションモデル。20歳で日米ハーフで超美人、と有名な人。
確か、子どもがいたような……
「な、なんでリリナ様がここに……?」
「ここの出身で、海宮美人の象徴ですよ。多分」
「うわ〜……サイン貰っとけばよかったなぁ〜」
少々後悔中の私……
そんな私を見て、蒼井君が笑う。
「なんか先輩、子どもっぽい」
「え゛……」
思わぬ言葉に、言葉を濁す。
クスクスと笑い続ける蒼井君。
「んじゃ、屋台でもまわります?」
「あ、うん!」
思えば夏姫たちを探すばっかで、屋台まわってなかったっけ。
蒼井君に続いて、私も本部から出た。
そして数年後、またリリナ様や海翼ちゃんに会うことになるとは……祭りを心から楽しんでる私には、想像がつかなかった。
一生に一度の出会い……つまり、「一期一会」だと思ってた。