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海と想いと君と  作者: coyuki
第6章 過去からの蘇生
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第102話 紅葉の色のように 中編

バスに乗ること30分……中心都市の外れまで来た。

始めは満員だった車内も、今じゃガラガラ。私たち以外3人ぐらいしかいない。

「ねぇ、ずっと気になっているんだけど……私たち、どこ行くの?」

いろいろ話しているうちに、やっとして当たり前の質問をした。

そもそも、誘ってきたのは蒼井君……いや、大翔だ。

どっか行こう、その言葉だけで、プランは全て大翔持ち。

静岡へ行くというのも、切符をもらってから聞いたし……

「……内緒。お楽しみってことで。多分、沙彩がすっごい喜ぶとこだと思うよ」

「えー、なんだよそれー」

まぁでも、それはそれでいいかも……大翔が提案してくれる場所だったら、きっとどこでも嬉しいから。


『終点の佐々丘、佐々丘です。どなた様も……』

「よし、降りるよ」

「あ、ちょっ、あお……いや、大翔!」

誰かの名字みたいな終点バスストップに着いたアナウンスが流れ、いきなり大翔は私のバックの上の乗車券を取って、席を立つ。

私も慌てて席を立ち、後を追いかけようとしたが……追いついたのは、バスを出てからだった。

そう、大翔が2人分のバス代を払った後で……

「なんか悪いよ、電車の切符代も払ってないのに……」

財布を閉じる大翔に、私は財布からバス代を出しながらそう言う。

大翔は私の手を制して……切符代を払おうとしたときと同じように、いーからいーからと言った。

「彼氏だし、移動料金ぐらいは払いたいんだよ」

「んー……でもなー……」

このご時世、そういうのは申し訳ない。(昔だとまた違うかもしれないが)

どうにかできぬものか……と考えた結果、

「じゃーさ、お昼ご飯は私が奢ってあげる!」

「あ、大丈夫大丈夫。サービスしてくれるらしーからさ」

「え、どういう意味?」

「それもお楽しみってことで」

そう言うと、スタスタと先に行ってしまう。

「ちょっ、そんな“お楽しみ”ばっかりにしないでよー」

慌てて追いかけている私の後ろ側で、バスが回送として発進するエンジン音が聞こえた。


「うわー、やっぱこの時期は紅葉がキレーだねー……」

「ん、そだね」

木々が立ち並ぶ公園に入り、辺りを見回しながらその美しさに感嘆の声をあげた。

赤、オレンジ、黄色……色とりどりの紅葉が、空の青を埋め尽くすように咲いている。

しばらく歩くと、「あ、ここだ」と言い、大翔は立ち止まった。

その先には……小さい洋風の建物があった。

秋色の紅葉には似つかわしい、白を基調としたヨーロッパ風の小さいおうち、みたいな。

近づくと……“Closed”という看板がつるされていて、初めて喫茶店かなんかのお店だということが分かった。

「Closedって……閉まってるんじゃん?」

「今日だけは開くんだよ」

そう言い、大翔は扉の取っ手に手をかけた。

カララン、と懐かしいベルの音が聞こえて中に入ると……これまた、オシャレな内装が私たちを出迎えた。

そして……スタッフルームから、誰かが近づいてくる。

その人は……

「Oh,Welcome! I was waiting you!(いらっしゃい!待ってたよ!)」

これまた、流暢な英語で……日系アメリカ人らしき人物が、白い歯を輝かせていた。


4人用のボックス席に案内され、大翔とそのアメリカ人に対面する形で座った。

ニコニコしながらこちらを見るアメリカ人、厨房キッチンにいる別のアメリカ人(おそらく彼の兄だろう)と難なく会話をこなしている大翔……

と、とりあえず話しかけてみようか……

「E……Excuse me,……Who are you? Are you Hiroto's friend?(すみませんが……あなたは一体誰?大翔の友だちなの?)」

つたない英語でそう聞くと……そいつは、大げさに体をのけぞらした。

「ノーッ!!!ユー、僕を知らないの!?」

「え、ええ……すみません……」

「スティーブ、落ち着いて。ビックリしてるじゃん」

大翔がなぐさめるが、アメリカ人はNo……No……と繰り返し、なんだか嘆いているようにも見える。

「え、えと……ひ、大翔、彼は芸能人か何かなのかな?消○力のCMで歌っている子みたいな……」

「いや、芸能人じゃないけど……うちのクラスの転入生のスティーブ・アルベルトだよ。2学期の始業式に全校生徒の前で挨拶したじゃん?」

「そーだよ!!僕のキラースマイルで君もベイビーちゃんたち(女子生徒)もイチコロだったろ!?」

ス、スティーブ?キラースマイル?ベ、ベイビー……?

そんな聞きなれない単語には覚えがないが、ひとつだけ確かなことがある。

「……ごめんなさい。始業式、最初から最後まで夏姫に起こされるまでずっと寝てたから知らないの」

「ノーッ!!!この僕が目の前にいるのに眠っちゃう子羊ちゃんがいるなんて!!!」

ああもう、めんどくさいなぁ……若干そう思い始めた頃、厨房のお兄さんが料理を運んできた。

運ばれてきたのは、3人分のパスタにピザなど……本格的なイタリアンだった。

「うっわ、おいしそー……お兄さん、プロのシェフなんですか?」

「え?あ、いや……うんまぁ、そんなとこかな。お嬢さん、テレビはあまり見ないのかな?」

「あぁはい。ニュースぐらいしか……お兄さん、すごい人なの?」

「まぁそんなとこかな。それはさておき、どうぞ召し上がれ。お代はいらないからね」

そう言い残すと、お兄さんはスタッフルームらしきものに戻っていった。

残された私たち3人は、料理を一瞥して……

「ウチの兄の料理は世界一なんだよ!今回は僕の友だちとその彼女ってことでサービスだよ。ささ、早くヒロトも子羊ちゃんも食べちゃおうよ!」

「あのー、子羊ちゃんじゃなくて杉浦沙彩ですが……まぁいっか。いただきます」


聞いたところによると、厨房のお兄さんは世界的に有名な三ツ星シェフらしい。

どれほどすごいかは、つゆ知らない私だが……ランチの味だけはしっかり分かる。

「あー、おいしかったー!」

「沙彩、それ10回目」

何度も何度も“おいしい”を繰り返すほど、その料理は格別だった。

リゾット、スープ、パスタにピザ、サラダ……どれをとっても、今まで食べたことのないおいしさ。

「すごいねー、スティーブ君のお兄さんは」

「まぁね。僕の自慢の兄さんだから!」

ナプキンで口元をぬぐいながら、スティーブ君は誇らしげに言い切った。

「兄さんはずっとジャパンで店を持つことが夢で、それが叶って……今年の9月にオープンしたんだよ」

「じゃあ、お兄さんと一緒にスティーブ君も来日した理由って?」

「だって、兄さんだけ来日しちゃったら……兄さんの料理、食べれなくなるじゃん?それに日本にもすごく興味があったしね」

親にはすごく反対されたけど、とスティーブ君は続ける。

「カルチャーショックとかも少しはあったけど……同じクラスになったヒロトにいろいろ助けられたんだぜ!」

「ハハッ、おおげさだって」

目の前にいる肩を組み合う2人は……なんだか、兄弟のようにも見えた。

知らなかったな……大翔にこんな友だちがいるなんて。

きっとまだまだ、知らないこといっぱいあるんだろうな。

そう思うと、なんだか少し寂しくなった。

「悪い、ちょっとトイレ貸してくんない?」

「オー、いてらさーい」

大翔はスティーブ君にそう言うと、奥のトイレへ行った。

目の前にいる彼は、きちんと座りなおす。

「サアヤは知ってるのかな?ヒロトが高校入学前の記憶が全くないってこと」

「ええ、もちろん。でもなんか、少しずつ思い出してはいるんだって……」

でもね……と続けて、これ以上しゃべってはいけないな、と思い口をつぐんだ。

「でも、何?」

「……うん、早く全部思い出してほしいなーって。きっと彼も、とても苦しいだろうから」

……そんなの嘘だ。どこかで、嫌な予感がするから……

お母さんが“蒼井大翔”という名前を知ってる時点で、きっと過去に何かあったのだろう。

どんな仕事にも守秘義務っていうのがあって、お母さんを深くは追及しないけど……

人には、知らないほうがいい事実と知るほうがいい事実がある。そう思うんだ。

もちろん、過去を思い出すこと、知ること、留めておくことは大切なことだ。

しかし、その過去のなかに知らないほうがいい事実が隠れているとしたら…………

どうしたらいいのだろう。私は、どちらを望めばいいのかな。

そして彼にとって……どちらが幸せになるのだろう。


それから、いろいろスティーブ君は大翔のクラスでの様子を語った。

休み時間には勉強の質問にくるクラスメイトが後を絶たないとか、大翔目当てのギャラリーが昼休みに集まるとか、先生が知らないようなことまで知ってるとか。

「あとね、テキスト文を1人ずつスピーキングするときのヒロトの口調が……プククッ」

「え、何何?どしたの?」

「なんかさ、俺の口調が無駄にネイティブっぽいんだってさ。クラスのやつらは慣れてるけど、スティーブが毎回毎回うるさいのなんの……」

「へぇ、そうなんだー……じゃあ今度聞かせてもらおうかな」

「オーオー、命知らずだねぇサアヤ!笑い死にしても知らないよー?」

そのほかにも、アメリカの高校と日本の高校の違うところを語ってくれたり……

そんなこんなでお昼も過ぎ……

「お、もうこんな時間か。そろそろ出るわスティーブ。ランチごちそーさん、うまかった」

「そっかー……これからは2人の世界ねー。あぁさみしー……」

大翔はそう言うと、バッグを持って立ち上がる。

「じゃあまたねスティーブ君。お兄さんによろしくね」

そう言うと、私たちは小さな洋館……いや、木々に隠れる名店を後にした。




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