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ショートショート『バレンタイムマシン』

作者: 川住河住

「とうとう完成しましたね。おめでとうございます、博士」

「ああ、君も協力してくれてありがとう」

「いえ……好きでやっただけですから……」

「謙遜することはない。今まで何十人と助手を雇ってきたが、私の目標や研究に賛同してくれる者は一人もいなかった。しかし君だけは違った。本当に感謝しているんだよ」

「恐縮です」

「それでは早速準備に取りかかろう。世界初のタイムマシンによる人類初の時間旅行だ」

「しかし博士。本当に過去へ行くつもりなんですか?」

「当たり前じゃないか。私は未来になんか興味はない。いつも言っているじゃないか」

「そうではありません。本当に過去へ戻ってバレンタインデーをなくすつもりですか?」

「今さらなにを言ってる。君だけは私のことを理解してくれていると思っていたが、どうやら勘違いだったようだな。私だけで出発の準備を進める。君はなにもしなくていい」

「バレンタインデーをなくしたってなんの意味もありませんよ?」

「意味ならある。そもそもこの国の人間の知能が著しく低下した原因はチョコレートにあるのだぞ。チョコレートは甘い。そのうえすぐに溶ける。この二つの要素が思考をぼんやりさせて視野を暗くさせているのは科学的に証明されている。この国の若者が貧しいのも、晩婚化や少子化が進んでいるのも、すべてはチョコレートが原因なんだ。そうに決まっている」

「どうして博士は天才なのにバカなんですか?」

「バカとはなんだ。せめてアホと言いたまえ」

「それで博士。タイムマシンで過去に行ってお菓子メーカーの社長たちにバレンタインデーを普及しないように説得するんですか?」

「その通り。本当はチョコレートそのものを根絶したいところだが、カカオ農園で働く子どもたちの仕事をなくすのはさすがの私も心が痛むからな」

「やはり博士はアホなんですか?」

「なんとでも言いたまえ。さあタイムマシンの最終整備は終わった。あとは乗り込んで出発するだけだ」

「もうなにを言っても無駄なようですね。あ、博士。大事な部品がゆるんでいますよ?」

「なに? それは困る。ネジ一本でも抜けていたらタイムマシンは誤作動を起こして時空間を一生さまよってしまうことになるからな。しっかりと締めておいてくれたまえ」

「さっきはなにもしなくていいと言ってたじゃないですか」

「最後に助手らしい仕事を与えてやっているんだ。ありがたく思いたまえ」

「わかりました。締めておくのでさっさとタイムマシンに乗ってください」

「そうさせてもらおう。もう君とは会うことはない……と言いたいところだが、お菓子メーカーの社長たちの説得を終えたらすぐに戻ってくる。その時にまた会おうじゃないか」

「博士。本当はバレンタインデーに誰からもチョコレートがもらえなくて辛いんですよね?」

「そ、そんなわけないだろう。私はチョコレートが大嫌いなんだ」

「もうすぐバレンタインデーがやってきます。もしかしたら、博士のことを好きな方がチョコレートをくれるかもしれませんよ。タイムマシンに乗るのは、その日まで待ってみてもいいのではありませんか?」

「うるさい! すでにタイムマシンの起動スイッチは押したんだ!」

「そうですか。わかりました」

「ははは! バレンタインデーなんてこの世からなくなればいいんだ!」

「博士。最後に一つだけ言っておきたいことがあります」

「なんだね。あと数秒で出発するんだから早く言ってくれ」























「わたし、博士のことが好きでした」

 助手はタイムマシンから取り外しておいたネジを掲げる。


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