星の子供
「君が探してるものはなんだい?」
雪が降る寒い夜でした。
ダイチは同じぐらいの年の男の子に会いました。
大きな病院の屋上で寒そうな薄い着物を着た子供はまたきいてきます。
「こんな寒い夜に独りで出歩いてるんだから何か探してるんじゃないかい?」
ダイチは首を横に振ります。
「ううん、星を見に来たんだ」
「星?今日は雪が降ってて見えないだろう」
「そうなの?」
「そうだろ」
ダイチは残念そうな顔になりました。
「お前、ここに入院してるのか?」
「うん」
男の子はダイチの周りをぐるぐると歩いて回り出しました。
「星に何かお願いかい?」
「お願いすれば、叶えてくれるの?」
「ああ、もちろん。代わりにな、星はお前の心臓を貰うぞ」
「シンゾウ?僕の?」
ダイチは胸の辺りを見下ろします。
それを男の子は意地悪く笑って見ていました。
「ああ、それが嫌だったら早くここから去れ」
「いいよ。僕のシンゾウはね、とっても悪いんだって。ママはいつもそれで泣いちゃうし、パパは僕とあんまりお話ししてくれないんだ。だからいいよ、僕のシンゾウでいいならあげるよ」
男の子はむすっとした顔になりました。
「…何を叶えて欲しいんだ?」
「お星様が欲しい!昔ね、ママとパパと一緒にお星様を見たとき、2人ともすごく楽しそうだったからまた見せたいんだ!」
「ふーん、そんなんでいいのか。いいぞ、僕が星を探してあげるよ」
男の子は手を叩くとふわと体が浮かびました。
ふわふわふわふわと、2人はゆっくり雪降る空へと浮かんでいきます。
「わあ、すごいね!」
「ほら、迷子になるなこっちだぞ」
男の子はダイチの手を握ると泳ぐ様にスイスイ空を進んでいきます。
街からどんどん遠く離れていきます。
ダイチがいた大きな病院も小さく見え、街の光もキラキラと輝いて見えます。
「こっから見るとお前の街も星に見えるな」
「うん、すっごい綺麗だね」
ダイチも目をキラキラさせました。
すると、男の子がすっと離れてしまいました。
「上の遠い星よりも、下の街の方がキラキラしてて綺麗でお前の両親も喜ぶんじゃないか」
ダイチは急に一人ぼっちになってしまったみたいで寂しくなってしまいました。
「こんな遠いとこまで来て、迷子になるくらいならもう帰ろう。あの宝石みたいな街の方がいいじゃないか。諦めて帰ろう」
男の子の声は寂しそうで、消えてしまいそうなぐらい小さくて、とても遠くから聞こえてきます。
「僕、お星様がいい」
「なんで?」
「だって、ママとパパと見たお星様の方がずっと綺麗だったもん」
「ふーん」
気がつくと目の前に小さな光がありました。
ダイチは手を伸ばして光に手を伸ばしました。
それは優しい光でした。温かい光でした。
きっとこれがお星様なんだとダイチは思いました。
これよりも綺麗な光をダイチは知らなかったからです。
光に触れたら、急に眠たくなってきました。
男の子はどこへ行ってしまったんでしょう。
でも眠くなる前に男の声が聞こえてきました。
「それじゃあ、お前の悪い心臓はもらってくぞ。じゃあな、ダイチ」
「…ダイチ!ダイチ!」
目が覚めるとそこはいつもの病室でした。
ママが心配そうにダイチを見ています。
「ママ?」
ダイチが返事すると、ママはぎゅっとダイチを抱き締めました。
「よかったな、ダイチ。手術成功だ。よく頑張ったな」
ママの後ろにはパパもいました。
パパはよしよしとダイチの頭を撫でました。
ダイチは2人が久しぶりに嬉しそうなので、とても嬉しくなりました。
そうだ、お星様も見せてあげようとダイチは見つけたお星様を探しました。
でも手の中にもポケットにもありません。
どこにもお星様が見当たらなくて、ダイチは悲しくなってしまいました。
すると、風が吹いたのでしょうか。窓がガタガタと揺れました。
気がつくと窓の外の雪は止んでいました。
そして、
「見て!ママ!パパ!」
ダイチは窓の外を指します。
雪が止んで晴れた真っ暗な空にはたくさんの星がキラキラと輝いていました。
それはとても小さくて、優しくて、温かくて、意地悪そうにチカチカと瞬き続けました。