序-主人公
【再掲】
初めまして、朝風零と申します。小説処女作で何かと至らぬ点があるかとは思いますが、お楽しみいただけると幸いです!
パシャッ
手を洗っていると隣から水音がした。それと同時にひんやりとした感触が頬に走る。
「水をかけられた」それを理解するのに長い時間は必要なかった。
「おいやめろよー!w」
笑いながらそう言う。水をかけたやつは笑いながらその場を去っていく。
幸いにもそこまで濡れたわけではなかった。次は嫌いな英語の授業・・・憂鬱な気分になりながら教室へと歩を進める。
その教室。僕の机は窓際の一番前。風と光がちょうどよく入ってくる僕にとっての特等席だ。
しかし、そこに戻ると一つの違和感があった。
用意しておいた筆箱がそこにないのだ。
「ふう」と心の中でため息を漏らした。
僕はいじられ・・・いや、僕からしたら「いじめられている」のだ。
何か取り柄があればよかった。
勉強でも、スポーツでも、ルックスでも、身長でも・・・
でも僕には何もない。勉強はせいぜい中の上、スポーツは下の上ってところか。残りの二つは論外だ。
それが彼らからしたら扱いやすかったのだろう。気が付いたら「いじられキャラ」になっていた。
先生からしても僕は「いじられキャラ」だから何も口出しはしない。だって、どこのクラスにだってそんな人が一人はいるのだから。このクラスではたまたまそれが僕だっただけである。
でも僕は、そんな今の生活が嫌なのだ。
ゴミ箱の下、ちょうど見えない位置に僕の筆箱はあった。
「はあ・・・」
今度は声に出してため息をついた。でも、みんなには背を向けて。
後ろで笑い声が聞こえる。随分と楽しそうな声だ。
先生もそれに気づいてはいるが、まるで何事もなかったかのように教壇に立つ。
授業開始のチャイムが小さく鳴った。
そんな僕だが、家に帰ればささやかな楽しみがある。いや、これくらいしか楽しみがないといった方が正しいか。
『東方二次創作』
僕の好きな動画がYouTubeにたくさん上がっている。
どの動画もきれいな女性がサムネイルに映っている。でも、僕はきれいな女性でストレスを発散させようってんじゃない。
「幻想郷」という世界が好きなのだ。
きれいな景色、静かな世界、活躍するヒロイン・・・そんな世界にあこがれて、数年前は僕も動画を作っていた。
でも、たった一年で辞めてしまった。
僕にとって彼女たちの活躍はきらびやかすぎた。平々凡々な生活を送る僕が、そんな物語を綴ることはできない。いや、してはいけないのだと思った。
そんなことを思い出しつつ、ぼーっと動画を見ていると、時計の針はいつの間にか午後十時を指していた。
明日もまた教室に戻らなきゃいけないのか・・・
そんなことを憂鬱に思いつつ、僕は電気を消した。
『幻想郷BGM』と書かれたパソコン画面だけが明るく光っていた。
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