今回のオチ
遺跡を脱出した後は、そりゃもう散々だった。
フェデラル丘陵は完全に崩れ落ち、その大半が土砂と瓦礫の海と化している。
もちろん、遺跡も完全に崩壊していた。
そんな遺跡を抜け出した僕たちの前に現れたのは、学院の調査隊。恐らく入れ替わりで寄越された面々だ。
そんな彼らが目の当たりにした惨状。
都合の良い新世界の自壊に伴う遺跡の崩落に、調査隊の犠牲。
ナイアルラトテップの件は伏せるにしても、説明を求められるのは明らかで──
「はぁ〜……やっと終わったのう」
「ぶっ通しで5日……ここまで拘束されるのは初めてだ」
疲労困憊で王都に戻ってきた僕らに待っていたのは報告会という名の事情聴取。
今回の事件の当事者である、僕たち特務課の面々とエイクは王城において取り調べを受けていた。
逃亡しないように、しっかりと個室に監禁されていたわけだが、見張りをつければある程度の自由は許されていたのだがやはり窮屈である。
まぁ、それもこれで終わりを迎えたんだが。
「辺境伯は結局どうなったか聞いたか?」
「はい、お師匠様。ロードアイランド卿の具合は芳しくないようで、自宅療養という体で軟禁されているみたいですわ」
取り調べを受けていたエイクと共に、王城の廊下を進んでいく。
横にはエイク、後ろにはエイジングとアミタが続く。
僕らの身の潔白が──と言っても全く悪くはないと思わないが──証明されたところで、こうやって解放され、今に至る。
取り調べの席には、探索者協会のリチャードを筆頭に、王国騎士団団長や何故か国王陛下も臨席していた。
終始笑いを堪えていたあの王様には、何か仕返しを考えないといけない。
「古神魔導書で治療したと言ってもあれは応急処置だったからな……」
「ええ……。ですので、近々家督を譲る話も出てきているそうで」
「あやつの子と言っても、まだ成人しておらんのではないか?」
「唯一のご息女……ウェンディさんと仰るのですが、確かまだ16……17ぐらいだったかと」
その歳で辺境伯の地位を継ぐというのも苦労しそうだな。
僕には関わりのない話だろうが、貴族どものドロドロした政争に巻き込まれることになるとは。
まぁ、貴族の子供なんてどこもそれなりの覚悟は持っているのだろうが。
「あー……腹減ったな。食堂開いてるか?」
「ウィルがおるじゃろう。しかし、何故あやつだけ取り調べを受けんかったんじゃ」
「一応、特務課じゃないからな……」
「クラフトさん待ってましたよ!!」
廊下の先には、管理局の制服を着た銀髪の少女──アンが仁王立ちしていた。
僕の姿を見るや否や、大股で近づいてくる。
「もうっ! 大変だったんですからね! 色々と!」
「それは僕らもだって……」
僕らは一応お咎めなし、ということになっている。
調査中にたまたま視察に来ていたロードアイランドと共に、遺跡の崩落に巻き込まれた、というシナリオだ。
彼の口添えと、エイクの家の干渉やらなんやらがあったらしい。
ナイアルラトテップに惨殺された調査隊の遺族には、国と辺境伯から補償が出るという話だが、これは口止め料も含まれている可能性が高い。
今回起きた事件の真相については、僕らも隠していることがあるとはいえ、完全に闇に葬られたということになる。
あくまでも、国と学院、ギルドは事故の体を取りたいらしい。
「それにしてもクラフトさん、よく無事でしたね」
「まぁ、何とかな……」
「それよりも早う、食堂へ向かうのじゃろう? 我も腹が減ってたまらんわ」
「エイジングちゃん、まだお昼前ですよ?」
朝飯もそこそこに、取り調べが始まったからな。
それで何時間も詰問されてたらそりゃ、お腹も空腹を訴えるというものである。
「取り敢えず、詳しい話は食堂で食いながらでいいか?」
「……そうですね。私も全てを把握しているわけではないので、すり合わせしたいです」
▽▽▽
食堂には何故か、ダレスとエーリカもいた。
時間が時間なので、人影はまばらだ。
「ダーリン! こっちこっちー」
「なんだ? ええ? 今回は大変だったみてぇだなぁ」
「なんでお前は面白がってんだよ」
遅めの朝食なのか早めの昼食なのかはわからないが、ダレスは日替わり定食を口に運びながら言う。
ちなみの今日は、ナスとトマトのミートグラタンに季節ものの野菜サラダ、コンソメスープである。
「エーリカちゃんもちょろっとしか話聞いてないけど、結構な大ごとになってるとかぁ?」
「管理局はてんやわんやでしたよ……局長はどうしてか自宅の地下室で倒れてたのを発見されて、しかも何日かの記憶が飛んでるとか」
「酔っ払って寝てたんじゃねぇの?」
「んなわけあるか」
僕が席に着くと、アミタがウィルから受け取った定食を配膳してくれる。
メニューはダレスと同じ日替わりだ。
エイジングとエイクも同じものを頼んだようである。
「騎士団でも、えーっとどこだったかな……第9か10大隊使って現場の調査するって」
「探索者協会の介入はないんですか?」
「んー、そこまで聞いてないけど、多分共同でやるんじゃないかなー?」
「事が事だしな……」
遺跡から脱出する間、ロードアイランドに話を聞いたが、都合の良い新世界の自壊プログラムはそれ自体を完全に破壊するものらしく、例え瓦礫の中から発掘されたとしても修復や解析はほぼ不可能らしい。
僕とエイクがその話を聞いて胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
あんな凶悪なもん量産できないにしても、復元されたらえらいことである。
「一応言っておきますけどクラフトさん。特務課には責任が無かったとはいえ、他の部署から疑問視されてる点があるんですよ?」
「例えば?」
今回の件は事故という形で話が収まっているはずだが。
「積層立体七重封印の破壊が元で、遺跡の崩落を引き起こしたのではないかと」
「…………」
「…………」
「…………」
僕とエイジング、エイクが固まる。
積層立体七重封印の解除──という名の破壊──はタイタスたちを含め、先に戻った調査隊から報告が上がっている。
エイクがどう纏めたのかはわからないが、確かにそう思われても仕方のない……のか?
「うひゃひゃ、何だよそれ。クラフトお前、どういうやり方やったんだ」
「いや、言ってた通り、ウィルの最大出力でぶっ壊したんだけどな……」
「あっひゃっひゃ! マジでやったのかアレ。っくくくくくく……まじ笑かすわー!」
ダレスが腹を抱えて爆笑している。
いや、お前もそれしかねぇみたいなこと言ってたろ。
「ダーリン……流石にそれは仕方ないかな……」
「エイク、お前どういう報告上げたんだ」
何かやましい事があるのか、僕と視線を合わせようとしないエイク。
「オイコラ」
「私はその……そのままを報告書に纏めただけですので……も、もちろん、お師匠様の名前は出してませんわっ」
ということはタイタス辺りから話が漏れたのか……?
いずれにせよ、少しの間面倒なことになりそうだ。
「他部署から突っつかれてるのは全部無視しとくか……国も公式声明出してるし、こっちから動かなきゃ何もないだろ」
「だといいんですけどねぇ」
明日からは業務再開だ。
僕はグラタンの最後の一口を頬張った。
食事を終え、エイクとエーリカとも別れ、特務課へと戻った僕らは、日常業務に戻るための用意をしようと資料の整理を行っていた。
ふと見ると、僕の机の上に1枚の封書が。
差出人の名は無い。
「……おい」
「あれ、もしかしてそれ……」
嫌な予感がしつつも封を切ると、中には局長からの出頭命令が。
「1週間ぐらいしか経ってないじゃろ」
「最短記録じゃないですか?」
「あのクソ局長め……! ふっざけんなァァァ!」
慟哭が地下に響き渡る。
ああ、公務員生活も楽じゃないな。
「忙しいのう」
「俺ちゃんやっぱ公務員辞めるわ……」
「処しますか?」
静かな日々はいつになれば訪れるのか。
それはまだまだ先のような気がしてならない。
「はぁ……行くか」
「あっ、私も一緒に行きますね!」
僕につられるようにアンも立ち上がり、ブリーフケースを持ち出す。
「じゃ、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
アミタたちに見送られながら、特務課を後にする。
出来るなら、次の仕事は危なくない、疲れない類のものだといいんだけどな。
完
これにて一章完結となります。
処女作(?)として、色々と見直すべき点やらなんやら課題は山積みですが……
なにはともあれ、完結までこぎつけられてホッとしております。
この作品はここで一旦終わりますが、何らかの形でリメイクなどできればいいかなと思っております。
約一ヶ月間、ご愛読有り難う御座いました。




