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公務員生活も楽じゃない!? ~執筆の魔王は今日も色々振り回されてます~  作者: 宇佐美
一章 僕たち治安維持管理局特務課!
39/42

35頁 執筆の魔王と始まりの三柱

「……――【空間繊維の五芒星(ナラトゥース)】!! 」


 放たれた衝撃波。それは僕らの息の根を止めるには十分な威力を持っていた。


 ウィルが神の力でもって受け止めなければ。


 ウィルの張った障壁(シールド)は光る五芒星を描き、俺たちを包み込むかのように展開される。

 その神秘的な輝きは、都合の良い新世界デウス・エクス・マキナの圧力をもかき消し、無効化する。

 神の力に対抗するには、同じ神格(ランク)か更に上位の神の力で持ってしかありえない。


「……かはッ……はぁ、はぁ…………」

「ウィル!」


 ウィルがその小さな口から血を吐き出す。

 小さな身体が崩れ落ちる。

 慌てて抱きとめるも、既に虫の息だ。胸は上下しているが、いつ呼吸が止まってもおかしくはない。


「……ご主人――」

「いい、喋るな」


 ウィルはゆっくり頷くと、目を閉じた。

 大丈夫、息はある。

 ウィルの身をそっと横たえる。


“此処は我ら神々の領域。下等種族の存在そのものは空間に押しつぶされ、自己を書き換えられる高次領域ではあるが……なるほど。その混ざりものも此処では多少の力を取り戻すということか。だが、もう終わりだろう? 抗いは苦痛。希望は絶望に変わる。何をどうしようが君たちに待つのはもう終焉しかないというのに”


「主よ! 何故このようなことを……貴方がた神々は、人を護り導くものではないんですの!?」


 エイクの悲鳴にも似た抗議は無理もない。

 自らが信じ、敬っていた神の正体がコレだからだ。


“神も慈善事業ではないということだ。むしろ人など我々の家畜に過ぎない。我々を楽しませ、糧となっていればこそ生かしておく理由もあるが……手を噛まれてしまっては処分するしかないだろう?”


「そ、そんな……」


 エイクは絶望の表情で崩れ落ちる。


「言ったじゃろう。神とてただの生き物に過ぎんのじゃと」

「これでも神を信じるか?」

「…………(わたくし)の信仰は今……途絶えましたわ……」


“虚しいな。だが、圧倒的な存在を前にして畏怖し、絶望に染まるその表情は実に良い。素晴らしい。まさに君たちのような、奉仕種族には相応しい”


 後ろに座り込むエイクの表情は、親に叱られてしまったかのような、決して逆らうことのできない存在を前に全てを諦め、受け入れているかのようだった。


 仕方ないことなのかもしれない。彼女は優秀とはいえ、ただの人間だ。神のような本来、対面することのない高次存在と向かい合い、正気を保っているだけでも大したものである。

 だが、それも危うくはありそうだが。


“本来、我々の存在を感じ対峙した者は、その全てが跪き、涙を流し、自らの罪を告白して悔い改め、そして身を委ねるものなのだがね。先の大戦以来だな。ここまで抗う者は”


「人間舐めんな」

「そうじゃそうじゃ!」


“ふむ人間、人間か。君たちがそれを名乗るとは……では、生みの親として躾をしなければならないな。聞き分けの悪い子にはお仕置きだ――【その魂よ安らかなれ(ディス・エンズ)】”


 再び迫る黒い衝撃波。

 ウィルの魔法ももう持たないだろう。


“ふるえて久遠の眠りにつくがいい――”


「させはせんぞッ! ――【新月丘の豊穣母(ムーン・レンズ)】!!」


 エイジングが生み出した半透明の大きな障壁(シールド)。淡い月の輝きをもつそれが、暗黒の衝撃波を防ぎ切る。


“……何だと!?”


「場の影響を受けておるのはおぬしやウィルだけではないぞ? 我の力も一時的に戻りかけとるようじゃ。ウィルに防げるものが我に防げんはずがないからのう」

「使えるならもっと早く使っとけよ……」

「うむ。力が馴染むのに少々時間がかかっての。馴染む! 実に馴染んでおるぞォォォ!」

「何で最高にハイテンションなんだお前は」


 まぁ、こいつは普段からこんな感じではあるので、別段おかしくは――いや可笑しいが、嬉しい誤算ではある。


「エイジングどれだけいける?」

「うーむ……ぶっちゃけそこまでじゃな。そもそもこの身では十全に行使が出来んし……それに我とあ奴は神格(ランク)としては同格じゃ。拮抗が出来ても決定打にはなり得ん」


“それもそうだろう。君のその矮小な体躯では、力を十全にこなすことは出来まい。体力も残存魔力もそこまで残っているようには見えないぞ。今でもギリギリなのだろう?”


 決定打、決定打か。


「ご主人様……?」

「いや……」


 一か八か、エイジングに賭けるか?

 アミタは確かに、超絶戦闘力を誇るが、面の攻撃への対応は苦手だ。あくまでも白兵戦において彼女はその真価を発揮する。


 古神魔導書(アルカイック)は通用しない。

 僕の能力(チカラ)をもってしても、古神魔導書(アルカイック)を超えることは出来ない。

 複製した黄衣の王(キングインイエロー)は既に塵となった。

 今、僕の手持ちでは魔導書の複製は不可能──


 おもむろに、懐へと手を伸ばす。すると何かが指先に触れた。

 取り出すと、それは二つに折り畳まれた紙片だった。


「む、それは……あの時のゴミじゃの」

「だから、ゴミじゃねーっつの。これは――」


 貴重な魔導書の断片をゴミ扱いするとは。

 エイジングに物申そうとしたその瞬間、後方から叫び声にも似た悲鳴が響いた。


「あ……! アァァァァァッッッ────!!」


 エイクが右目を押さえながら、苦悶に満ちた顔で苦しみ悶える。


「ど、どうしたんじゃエイク!?」

「め、目が……熱い……!」


()てられたようだな。仕方があるまい。わたしの姿に、脳の情報処理能力が追いつかなかったのだろう。じきに狂気に駆られ、死ぬ”


「エイク、気をしっかり持つんじゃ」

「あっぐ……はぁ、ハァアアアッ……! え、ええ…………だい、だいじょう……ぶ、ですわ……」

「無理はするな」

「っふふ……」


 顔を上げたエイクの右瞳が金色に光る。


「む、エイクどうしたんじゃその目は……」

「え……?」


 本人には自覚がないらしい。


()()したか。人とは窮地に陥れば思いがけない力を生み出すというが。だが、英雄譚のような逆転劇は許さん──【その魂よ安らかなれ(ディス・エンズ)】”


「【新月丘の豊穣母(ムーン・レンズ)】じゃおりゃァァァ!」


 二度、エイジングの障壁(シールド)が暗黒の衝撃波を受け止める。


「だっはー! あぁ、しんど……」

「お前、キャラがブレブレじゃねーか」


 大きく息を吐くエイジングを横目に後ろを振り向いた。

 立ちすくむエイク。

 その金色に変化した瞳は、都合の良い新世界デウス・エクス・マキナを凝視していた。


「エイク! それ以上見るな! 狂ってしまう──」

「な、ナイアル、ラトテップ……」

「は?」

「何じゃと!?」


 エイクが呟いた()()は紛れもなく。


“……どういうことだ? エイジング君、君が──”


「教えるわけがないじゃろう! お主の神名など!」

「ナイアルラトテップ……始まりの三柱、権限者(アドミニストレイター)企画進行(テラー)

「待てエイク。おぬし何を()()おるんじゃ」


 エイクの視線は都合の良い新世界デウス・エクス・マキナへと釘付けになっている。

 何の対策もなしに、神のような高次存在を凝視することは脳に多大な負荷が掛かる。

 ……はずなのだが、エイクはそのようなそぶりを見せていない。


(わたくし)にもわかりません! ですが……()()()のです! あの存在の情報が! ナイアルラトホテップ……! それが主神の――」


“それが君の目覚めた能力(チカラ)か。くっ、くくく……だが助かった!”


「しもうた……! 呼んでしもうたかッ!」


“これで……わたしの存在も確定した! ふふふっ、はははははは!!”



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