27頁 いざ最奥へ
大いに沸いた――主にマリーニとエティ少年の質問攻めとサイン会だが――アミタ談義という名の拷問から、おおよそ30分。
調査隊の第二班が、ホールの入り口から姿を現した。
その数は15人。コンテナやら荷物から出した調査機器を所狭しと並べていく。
二班のまとめ役と思われる男は、エイクとこれからについてすり合わせをしているようだ。
お昼も近くなっていたのか、二班の面々がわざわざ調理器具と材料を持って来たせいで、ウィルが復活した。
まぁ、復活したは言い過ぎかもしれない。単純にお昼の食事を嬉々として作っているだけで、魔力は何より、体力もかなり消耗しているはずだ。
だが彼女は、休んでいるよりも調理することの方が楽しいらしい。
「あやつも、よーやりおるの……」
「ウィルの生きがいみたいなもんだからな」
そんなウィルの負担を少しでも減らすためか、調理作業には悶絶していたアミタも参加している。
壊滅的な料理の腕を持つアミタだが、それは味付けに限ったことであり、切ったり盛り付けたりする分に関しては問題ない。
栄光を掴むものの面々は身体的にも精神的にも疲れたのか、その場に座り込み体力の回復に努めていた。
エティ少年の、アミタを見る目の色がヤバいものになっていたのには若干の不安を感じたが。
「クラフトさん」
栄光を掴むもののリーダー、タイタスが歩み寄ってきた。
相変わらずの爽やかイケメン面ではあるが、その表情は少々暗い。
「これからのことなんですけど」
「お前たちはここまでか?」
「やっぱりわかりますか」
タイタスと魔導銃による射撃での援護に徹していた二人はまだしも、マリーニとエティの魔法師コンビは、ドローンの一件で魔力をほぼ使い果たしている。完全に回復するには1日じゃあ済まないだろう。
そんな二人に無理について来いとも言えないし、何より不測の事態があった場合、足手まといになる可能性が高い。
「僕たちもそれなりの探索者ですから、未踏破遺跡に挑みたくはあるんですけどね」
「仕方ないだろ。まぁ、あの二人がいたおかげで何とか助かった面もあるしな。そこは感謝してる」
「何ですか、クラフトさんらしくないですね気持ち悪い」
人が素直に感謝の念を伝えているというのに、失礼な奴である。
「まぁ、普段の言動が祟っとるの」
「エイジングは黙れ」
「僕かローランのどちらかが同行できればそれも良かったんですけど、そうもいきませんからね。幸い、調査は国に移ってますし、僕らはこの辺りでリタイアです。これ以上の介入は管理局も良しとしないでしょう?」
肩をすくめながら残念そう――には見えないが、嘘偽らざる本音には違いない。何だかんだで彼も探索者なのだ。
未知の遺跡に対する興味は少なからずあるのだ。
タイタスが爽やかな笑みと共に差し出してきた右手を、渋々握り返す。
「こんな時ぐらい素直にならんか」
「うっさい」
茶化すエイジングに手刀を振り下ろす。
「ははは。これから奥に進むんですか?」
「一応そういう仕事だからな。……そうだよ僕は治安維持管理局の人間なんだよ」
「時々忘れそうになるがのう」
やめろ。それは僕もたまに思うところがあるからな。
「僕たちはこれで引き上げます。ちょうど学院へ向かう馬車があるらしいのでそれで」
「そうか。ああ、リチャードに宜しく言っといてくれ」
「ギルドマスターがどんな顔するか目に浮かぶようですね……」
まぁ、何があったか報告を求められるだろうし、それに対するアイツの反応も予想が出来る。
というか、帰ったら僕らの方が詰問という名の尋問をされそうで若干胃が痛い。
実際、史上初と言ってもいい積層立体七重封印の完全解除を成し遂げたわけではあるしな。
いざとなったら局長とエイクのコネを総動員して何とか誤魔化すか。
「クラフトさん何か悪いこと考えてません?」
「……いや? 気のせいだろ」
そうこうしているうちに、昼食の準備が出来たようだ。アミタの呼ぶ声が聞こえる。
「取り敢えずメシ食うか」
「そうですね。僕たちも頂きましょう」
▽▽▽
昼食を取り、栄光を掴むもののパーティメンバーは遺跡を後にした。
調査隊はこのホールを第二拠点として、更に遺跡の奥へと調査の手を伸ばすらしい。
「お師匠様。取り敢えず、設営に1日頂きます。奥への出発は明日になりますわね」
「ウィルも消耗してるしな。本来なら完全回復を待ちたいところなんだが……」
「我も流石に今日はもう動けんぞー……」
魔力を絞り切ったとも言えるウィルの消耗は、それこそ栄光を掴むものの魔法師二人の比ではない。
本来のウィルの魔力量を考えると、十全な状態まで戻るのには数日はかかる。
魔力というものは、細胞の魔素体によって生成されるが、その量は多少増減するとはいえ、1日に増える量は一定だ。
個人差はあるが、魔力容量が半端なく多いウィルは1、2日では完全に回復することはない。
「……明日なら、半分の半分ぐらいは回復する……かも?」
「そんなところじゃろうの。しかしそう悠長に待ってもいられぬか」
この調査は、この地の領主であるロードアイランド辺境伯由来のものだが、調査には期限が設定されている。
仕事の話を受けてから数日経っている今、残り1週間も残されてはいない。
「辺境伯のお考えはわかりませんが……。どうもここに人が入ることを忌避しているというか」
「それは探索者とか調査隊ですらも、ということか?」
「ええ。これはあまり大きな口では言えないのですが……。どうも、協会側と一悶着あったみたいですわ。最終的には辺境伯が折れたみたいですが、極力人を近づけたくないように見えると言いますか。そのように感じます」
なるほど。
一般的に自領にて未踏破遺跡が発見された場合、その規模にもよるがその領主に対して協会から少なくない補助金が出る。
これは発掘される神遺物の所有権が協会にあるのに対し、遺跡の所有権がその地の領主にあるからだ。
神遺物が発掘された場合は協会に接収されるとはいえ、基本協会主導による遺跡の調査や踏破を歓迎する領主は多い。
自分はリスクを殆ど負うことが無いからである。
もしそれを忌避するとすればそれは、何か特別な理由、後ろめたいことがあるかあるいは――
「ですが、今は考えても仕方ありませんわ。私たちは今できることを進めるのみです」
「それも、そうか」
これ以上深く考えていても仕方がない。
上から降りてきている仕事である以上、僕らはそれを完遂させねばならない。公務員ってつらい。
トラブルはあったものの、かねがね予定通りに事が進んでいる。あとは時間いっぱいまで調査するだけだ。
今はもう跡形も無くなっているが……。
吹き飛ばした扉に描かれていた歪な五芒星。それに対し一抹の不安を抱かずにはいられなかった。
「エイジング」
「うーむ……。クラフトよ、我はどーも嫌な予感がするのじゃがの」
「僕も同じ意見だ。ここまでくればもう皿まで食らう覚悟がいるな」
「うっ……痛たたたたたた……持病の癪が」
何で、それで頭押さえてんだよ。
「そもそもお前、今まで病気になんざ一切かかったことねーだろうが」
「健康優良児じゃからの」
逃げたいのはこっちも同じだって言うのに。
「お師匠様?」
「気にすんな。いつもの病気だ」
「病気なったことはないのでは……?」
「頭の方だ」
訝しむエイクをよそに、僕たちは休むために張られたテントへと足を向けるのだった。
▽▽▽
翌日。
十分に休息をとった僕たちは、遂に遺跡内へと足を踏み入れようとしていた。
第二のベースになっていたホールは厳密には遺跡の一部と言えるが、遺跡の中とは言い難い。
ウィルとエイジングの魔力も、完全に回復したわけではないが、今のところ活動するには問題はないレベルだ。
「では行きましょう」
エイクの声で、歩みを進める。
ホールへと降りてきた時と同じように、エイクを含めた僕たち一班が先行して遺跡内部へと潜る。
先頭に立つアミタと、僕の後ろのエイクが、魔道灯で前方を照らしながら、慎重に進んでいく。
吹き飛ばした扉から奥に続く通路は、一切の明かりが存在せず。魔道灯の光が届かない10メートル先は漆黒に包まれている。
通路の幅は3人が横並びになってもまだ少し余裕がある広さだ。3メートルぐらいだろうか。
天井の高さは2メートルほどと、通ってきた通路に比べて若干低い。
「図らずとも、これでは探索者と変わらんのう」
「ダレス連れてくりゃ良かったな」
「ふふっ……確かにこれでは私も探索者のようなものですわね」
暗い通路のじめじめした雰囲気を払しょくさせるかのように、明るい話題の雑談に花を咲かせつつ、通路を進んでいく。
先は暗く、先が見通せない。唯一の光源である――決して強いとは言えない――魔道灯の光を頼りにしていく。
「しかし……あれをどう辺境伯へと報告するかだな」
「素直に結界破壊の余波と言えばよいのではないか?」
「幸いなのは、この遺跡内部にまで被害が及んでないことですわね」
エイクが苦笑いしながら続ける。
まぁ、誤魔化しようはないこともないが……タイタスたちにも見られてるからな……。
「しかし、あの自動人形は一体何だったのでしょう?」
「ドローンだ」
「遺跡の防衛システム、と言ったところじゃの」
「確かに、重要な拠点と思われる遺跡にはそのようなものが置かれることもありますけれど……」
奥に続くと思われる通路は、ほぼ一本道だった。床は壁は、ホールと同じような石とも金属とも言えないような材質で出来ている。
途中、いくつか扉を発見することもあったが――
特に鍵もかかっておらず、用心深く中を覗くと、そこは何かの倉庫のような場所であったり、ベッドのような物が置かれている休憩室と見られる部屋だったりで、特に珍しいものは発見できていない。
何かの資料でも残されていれば、この遺跡が何なのかも判別できたのかもしれないが、それも叶わないか。
無機質かつ殺風景で代わり映えのしない通路は同じところをぐるぐると回っているような錯覚に陥らされる。
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