26頁 アミタちょっと本気出す
「……ハッ!? 私、一体何を……?」
アミタの一撃で失神していたエイクが目を覚ます。
僕たち一行はエイクが意識を取り戻すまで、一休みしようとも思っていた。
が、やはり待つのも時間が勿体なかったので、無理やり叩き起こしたのだった。
「いつもの暴走だよコノヤロウ」
「エイクリー主任。通信魔道具が鳴ってましたよ」
エイクが失神している間、彼女のバッグの中からくぐもった声のような音がひっきりなしに聞こえていた。
地上の調査隊と連絡を取るための通信魔道具だ。
エイクは慌てて、バッグを漁り、その魔道具を取り出して起動する。
「――あ、あー。聞こえますか? こちら一班のエイクリーです。聞こえますか?」
手のひらサイズのそれは、薄い金属板に淡い青色の結晶板が取り付けられた、魔道具だ。
通信魔道具自体は、管理局でも使われているが、これは携帯できる端末である。
この発明のおかげで、戦争や流通経済に大きな変革がもたらされた。
だが、このサイズのものだと精々一、二区画ぐらいの距離しかやり取りできないらしく、都市間や国家間ともなればもっと大掛かりな装置が必要となるらしい。
エイクの問いかけにしばらくして、ノイズ交じりの返答が聞こえてきた。
『――あ! 主任! ご無事ですか!? こちら三班です。何やら大きな音と地響きがしましたが、大丈夫ですか!?』
「ええ、無事ですわ。積層立体七重封印の解除と……扉の破か――開放も完了しました。ですので、二班は内部への搬入を開始して下さい」
『――わっかりました! 流石ですね主任! では、早急に二班を向かわせます』
「よろしくお願いします」
エイクは通信を切って、魔道具をバッグへと戻す。
そして一息をついて僕に向き直った。
「お師匠様、積層立体七重封印なのですが」
「参考に出来るならすればいいって言ったろ? まぁ、真似できるかと言われれば無理だろうけどな」
「むー……あぁ、この惨状をどう報告したものか、頭が痛いですわ……。遺跡が生きていたせいで、という理由で何とか誤魔化すことに致しましょうか。間違いではないですし……」
こめかみを押さえるエイク。
まぁ、頑張ってくれ。
▽▽▽
「だから、ここの魔法式にこの定義を挿入するとだな……」
「なるほど。魔力圧縮率が2パーセントほど上がるというわけですのね。これを何度か繰り返せば……」
「保護式も必要だけどな。あとここの式は変換率を逆数にしてから戻してやると、累乗される特性がある」
「あああ……! まさかこのような裏技が在るとは――!」
皆が休憩している中、エイクに積層立体七重封印を解除――という名の破壊――をするに必要だった魔力式をレクチャーしている最中、ローランがおもむろに口を開いた。
「で、クラフトさんよ。そこのねーちゃんは何者なんだ。ちっさいお嬢ちゃんはもう聖人クラスの何かだとしてよ。序列一桁のタイタスが勝てねぇような探索者なんざ聞いたことねーぞ」
「色々と雑ですね、ローランさん」
「うるせぇ」
そう言えば、後で言うって言った気もする。
「あ、それは私も気になったなー」
「ふむ。タイタスよ。言うておらんのか」
「いやー。一応本人の確認が必要と思いまして」
皆の視線がアミタに集まる。
居心地が悪かったのか、アミタは顔を逸らした。
「アミタ」
「ご主人様が宜しいのであれば、私は構いません」
アミタの返答に無言で頷く。
それを確認したタイタスが、口を開く。
「探索者序列、その一位が誰だか知っているかい?」
「あー……万編創造だろ? ブリストルのギルドでフリーしてるっていう……でもよ、確かアイツはもっとこう――」
「今の一位はね。じゃあ、その前の歴代最長記録を持っていた元一位は誰だかわかるかい」
エティ少年がおずおずと手を上げる。
「えーっと、銀閃ですよね。あまりにも貢献度合いが桁を外れてて、何十年も一位の座が空かなかったって言う……」
「ああ、あのトップ探索者よね。おばあちゃんになったからって、もう引退してるんじゃなかった? 確かちょっと前、万編創造がその記録を更新したんだっけ」
「おばあちゃんじゃと」
「…………」
「うん。そうだね。じゃあ、その銀閃が彼女だと言ったら?」
「ぶふぇっ!」
ローランが吹き出す。
再度、皆の視線がアミタに集まる。そうか、最近トップ交代してたんだっけか。
当の本人は、完全に背を向け、顔を逸らしていた。どうやら、そう呼ばれることにやたらと羞恥を覚えるらしい。
「おいおい、ちょっと待て。そんな話信じられるかよ?」
「アミタさん? その話本当ですの?」
エイクの問いかけに、静かに頷くアミタ。
その反応に一瞬、空気が固まった。
「ええええええっ!?」
「ほ、本当に……!?」
「す、少し待ってくださいな。アミタさんそんなことは今まで一度も……」
まぁ、そりゃあ吹聴したりするもんじゃないし、第一、当人は黒歴史と認識しているらしく、あまりその話をしたがらない。
「昔の話ですので……」
引退時に某ギルドマスターと一悶着あったのは記憶に新しい。
「マジかよ信じらんねぇ……」
「タイタスが認めてるってことはそういうことよね。認識証は……流石にないわよね」
「処分しましたので」
「銀閃の認識証とか博物館に飾られるレベルじゃねーか?」
「あれ……? 失礼ですが年齢が合わなくないですか? 確か銀閃が活躍してたのって何十年も前の話だと思うんですけど」
そこに気が付いたかエティ少年。
「まぁ、そこは神遺物の力みたいなもんだと思っておいてくれ」
「あまり大っぴらには出来んからのう」
嘘である。
「隔世者ではありませんのね?」
「ええっと、銀閃って確か、過去50年以上探索者の序列一位に君臨し続けていて、 『ミスカット旧地下帝国図書館遺跡』の踏破、『世界を七度滅ぼす炎剣』の完全破壊、『古き者ども』の討伐……他に挙げれば功績はキリがありませんが、その銀閃ですよねっ!?」
「エティお前……食いつくな」
「当り前じゃないですか! 伝説の探索者と言っても過言じゃない人なんですよ!?」
目を輝かせつつ信じられない、と言った顔でアミタを見つめるエティ少年。これはマニアか何かだなこいつ。
あと、何か僕の知らない事案がちらほら出てたんだが……そんなことまでしてたの。
「昔の話ですので……」
「もうっ! それならそうと言ってくだされば良いですのに! ヘンリーなんて、貴女の大ファンですのよ?」
「ええっと、後それから……『聖骸布の発掘と献上』、『一〇八大王との火の七日間』とかもありましたっけ! 協会に最も貢献した探索者ということで殿堂入りしているとか! あ、後でサインください!」
「おい、誰かこのオタクを止めろ」
大人しそうな少年だと思ったが、まさかのアミタオタクだとは思わなかった。
人は見た目によらないものである
「まぁ、エティはアミタさんに憧れて探索者になったようなものですからね」
マジかよ。
とは言うものの、意外とそういった探索者は多いらしい。
それもそのはずで、素性不明のトップ探索者として銀閃の名は世界中に知れ渡っている。
功績を元にした物語や、伝記にすらなっているが、実はそれらはアミタの許可を得ずに出されたものだ。
噂とデマが独り歩きした結果、半ば伝説の人みたいな扱いをされている。
それについて抗議した時のリチャードの反応は今でも忘れられない。
「それでもまだ信じられないわ……銀閃って言えば、私たちにとっても雲の上どころか御伽噺みたいな存在なのに」
「いや、別に信じなくてもいいぞ」
「あ、そうだ。アミタさんアレやって下さいよ。アレ」
タイタスが指を立て一つの提案を口にする。
「アレって何だよタイタス」
「銀閃って探索者は腕一本で成り上がって、序列一位の座を獲得したって話は知ってるかい?」
「包丁一本。魔法も魔道具も使わず、その身一つで全てを成し遂げた……ってやつですよね! 知ってます!」
ローランの代わりに、エティが目を輝かせながら答える。
「瞬きの合間に千刃を振るうとか。要は凄い使い手ってことなんでしょうけど!」
すげぇこと言われてんぞ。
案の定アミタは背を向けて悶絶していた。羞恥プレイもいいところだな。エーリカとやり合ってる時よりも効いてるんじゃなかろうか。
普段余程のことでないと動じないアミタのこんな反応は新鮮で、何とも微笑ましいというか。
「その話は聞いたことがあるけどよ。与太話もいい所じゃねぇか」
「まぁ、その真偽は当人に証明してもらおう。良いですかクラフトさん?」
タイタスはにこやかな笑みを浮かべながら、アミタは縋るような表情でこちらに顔を向ける。
僕としては別に証明する必要もないのだが、漂う空気は既に断ることを許さない方向へと向かっていた。
「仕方ないな……アミタ、見せてやれ」
「ご主人様の命であれば……」
力なく返事したアミタは、何処からともなく銀色の光沢を放つバイザーを取り出す。
何の装飾もない、目の部分を覆うだけの簡素なものだ。
「何をするって――」
「そ、それってまさか、『その身は彼の為に』ですかっ!? 銀閃を象徴する神遺物だ!!」
エティ少年が鼻息荒く叫び出す。
その身は彼の為にはアミタが所持する神遺物の一つである。
その特性は、自身を認識していない者からの、向けられる意識の遮断。
つまり、アミタをアミタと知らない者からは認識されることが無くなる、隠密行動に特化したえげつない神遺物である。
アミタは、探索者として活動している時には大抵これを身に着けていた。
神遺物とはこのように、現在の魔導技術では再現することのできない力を持つものが多い。
「では、ローラン様。いつでも構いませんので私に向けて、魔導銃を撃っていただけますか」
その身は彼の為につけたアミタは、包丁を一振り構えローランへととんでもないことを言い放つ。
「は? おいおい、この距離でかわすつもりか? 無理だろ。5メートルも離れてねぇんだぞ」
「まぁまぁ、ローラン、いいからやってみて」
タイタスは事も無げに、ローランを促す。
それを受けたローランは、舌打ちしながらも魔導銃を構えた。
「どうなっても知らねぇぞ」
タイタスがアミタへ向けて狙いを定め、魔導銃の引き金を引く。
炸裂音がすると同時に、小さな金属音が耳に響く。
アミタは微動だにしていない。
「――?」
タイタスは続けて二度三度と引き金を引く。
その度に、炸裂音を伴って弾丸が発射されるが、アミタは微動だにしない。
よく見ると、アミタの足元には、小さな欠片が数個転がっていた。
「……どうなってやがる」
「ローラン、君には見えてないか。マリーニとエティはどうだい?」
タイタスが振りかぶるが、二人は黙って首を振る。
「何というか地味じゃのう」
「別に人を喜ばせるためのもんじゃないからな」
ローランはムキになって十数発の弾丸を放つが――そのどれ一つとしてアミタに届くことはなかった。
「……うっそ」
「凄い……」
根負けしたのか、タイタスは魔導銃を降ろした。
「障壁でも張ってんじゃねーのか」
「強化魔法や障壁の魔力発生は感知できたかい?」
タイタスが得意げにマリーニへと問いかける。
それに対し、彼女は無言で頭を振った。
「ローラン、ほらこれ」
「……マジかよ」
タイタスが、アミタの足元に転がっていた小片を摘み取り、ローランへと見せつける。
それは綺麗に真っ二つにされた、弾丸だったものだった。
アミタが見せたこの芸当。種を明かせば何ということはない。
ローランが放つ弾丸を、全て斬り落としただけの話だ。ただし、それは常人には到底認識できないスピードで、という枕詞が付くが。
「いや、でもよ! これぐらいお前でも出来んじゃないのか!?」
「見えてて距離があれば何とかね。アミタさん、それ借りてもいいですか?」
アミタはその身は彼の為にを外した。そしてそのままタイタスへと手渡す。
「これ、付けてみなよ」
「あぁん? …………おい、これ見えねえぞ」
その身は彼の為にという神遺物がその機能の割にマイナーなのは、身に着けた瞬間、一切の視覚と聴覚を遮断されるからである。
前どころか、一切が見えなくなるこの神遺物はそのデメリットが大きすぎるために、残念神遺物のカテゴリーに入れられている。
「うん。アミタさんは見えてない状態で、君の弾を全て防ぎぎったことになるね。生身でこれだけのことが出来るのは彼女しか知らないよ、僕は」
ローランが絶句していた。
どうでもいいが、何でタイタスが得意げなんだよ。
お読みいただき有難う御座います!
宜しければ、ブックマーク、★★★★★評価お願いいたします。
また、ご感想もお待ちしておりますので、ご遠慮なくどうぞ。




