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公務員生活も楽じゃない!? ~執筆の魔王は今日も色々振り回されてます~  作者: 宇佐美
一章 僕たち治安維持管理局特務課!
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 アミタを伴い、案内された部屋は何の変哲もない応接室のようだった。

 大体5メートル四方ぐらいの広さだろうか。

 だが、よくよく見ると、防音はもとより魔法式(コード)による抗魔法処理が部屋全体に巡らされており、この中では攻撃魔法はおろか、まともな生活魔法も使えなくなっているに違いなかった。

 暴力に訴えるような客に対するものなのだろう。ローテーブルを挟み、僕の対面に座る司会者──ナポリタノの後ろには屈強な黒服の男が二人、無表情で立っていた。用心棒だろうか。

 対してこちらは、同行者が可憐なメイドが一人である。


「では、お客様。改めまして……当オークション支配人(オーナー)のナポリタノと申します。此度は落札頂き誠に有り難う御座いました」


 相手が子供のような僕に対しても丁寧な態度を崩さないのは流石、と言うべきか。

 この界隈、見た目と年齢が合わないことも多々あるからかもしれない。


「ひとつ聞きたいんだが、コレは本物なんだな?」


 ローテーブルに置かれた、魔像。

 嫌になるぐらい、艶やかで怪しい光沢を放っている。


「ええ、もちろんですとも。当オークションは贋作など取り扱い致しません。入手経路は明かせませんが、正真正銘の神遺物(アーティファクト)と保証させて頂きます。契約魔法にて保証も可能です」


 扱うものに対して絶対の自負があるのか、胸を張って答えるナポリタノ。

 僕がアミタに視線を送ると、黙って頷いた。彼女も本物だと判断したらしい。


「出品者は?」

「……お客様。お分かりかと思いますが、品物の出処は一切お答えできません。もちろん落札された方の情報もお答えする事も御座いません。それが我がオークションの信念であり、今まで騎士団の目に触れずに存続出来ている理由で御座います」


 だろうとは思っていたので、僕はそれ以上追求しなかった。

 僕の心を読んだのか、ナポリタノが続けた。


「では、落札代金190万リルですが、どのようにお支払いされますか?」


 さて、モノが本物だと分かったところで、後は回収するだけである。

 どうにか揉めないようにスムーズにいきたいところだが。さて。


「金は払う気はない。そもそも、神遺物(アーティファクト)の個人所有は禁止されてるはずだ。 それともこれは理事会の承認を得ているとでも?」

「──は」


 ナポリタノは一瞬面食らったかのように目を見開くが、すぐさまその思考を切り替える。


「これはこれは、面白いことを仰る。ご冗談は程々に御願い致します、お客様。これは取引です。私どもは品を提供する、お客様はそれに対し対価を払う。子供でも知っていることです」

「残念ながら法を犯している奴にその理屈は通じないし、通さない」

「はっはっは! 法ですと! 我がオークションに参加された方で、そのような世迷い事を仰ったのは貴方が初めてですよ」

「そうか。じゃあこれが最初で最後だな」


 ナポリタノの後ろに控えていた黒服が、ソファーの横へと歩み出る。


「さて、どうされますか。落札品のキャンセルは、落札額の5割を頂戴する決まりとなっておりますが」

「だから払わんと言ってるだろ。大人しく物を渡して、騎士団に自首することをお勧めする」


 ナポリタノは放っていた空気が変わる。

 笑いを浮かべていた口元はその口角を下げ、瞳は今や、こちらを完全に敵とみなした色を放っていた。


「……お前、何者だ。協会の回し者かッ!?」

「治安維持管理局特務課──世界法第47条違反、神遺物(アーティファクト)の違法所持と違法取引における現行犯だ。令状はこれ」


 僕は懐から取り出した、逮捕令状をナポリタノへ突きつける。

 それを見たナポリタノは顔面を蒼白──にすることなく、不敵に笑った。


「くくくっ……管理局というのはこれほどまでに頭が悪いのか。お前のようなガキに何が出来る?」


 ナポリタノの態度が豹変する。

 まぁ、さっきまでのは接客用の仮面ということか。


「これまでも、何度か管理局や騎士団、探索者(シーカー)ですら俺を捕まえようと乗り込んできたことがあるが、俺がどうして無事なのか分かるか?」

「さぁな」

「その全てを処理してきたからだ。この部屋もそうだが、屋敷の中では俺に対する攻撃魔法はおろか、探知魔法も医療魔法も使えない。力尽くでどうこうしようものなら、彼らがいる」


 右に立っていたドレッドヘアーの黒服は、いつのまにか手に籠手のような物を着けていた。反対側の禿頭の黒服は静かにナイフを取り出す。


「彼らはこれでも探索者(シーカー)としては序列二桁の猛者でね。攻性魔法が使えなくとも闘うことの出来る優秀な者たちだ」


 ナポリタノが見せる絶対的な自信。

 それが本当であれば、彼らは世界でもほんの数パーセントに属するほどの腕前ということになる。


「アミタ、見たことあるか?」

「……いえ。名前が分かれば思い出すかもしれませんが」

神遺物(アーティファクト)の違法取引は現行犯でしか捕まえられない。そのもの自体が見つからなければ、違法所持にすらならない。見つからなければ犯罪じゃあないのさ。この俺がそれすら知らないとでも?」

「随分詳しいな」

()()()()()()というやつだ。さて、ここで単純に暴力に訴えることも可能だが……」


 ナポリタノは懐から葉巻を取り出し、火をつける。

 一吸いし、紫煙を燻らせる。


「大人しくしていれば、そこのメイド共々痛い思いはすることはない。ちょうど若い奴隷を欲しがっている奇特な客がいてね。抵抗するならそれなりに痛めつけなければならんが……」

「自首する気は無いんだな? 大人しくしていれば、そこの黒服共々痛い思いをすることはないぞ?」

「……やれ」


 左右の黒服が動いた瞬間、何故か二人は同時に吹っ飛び、後ろの壁に叩きつけられた。

 意識はあるものの、打ちどころが悪かったのか、立てずに蹲っている。

 ドレッドの籠手と禿げのナイフは既に粉微塵に砕かれていて、使い物になりそうもない。


「……は?」


 ナポリタノの葉巻から、ポロリと灰が落ち、床を焦がす。何が起こったのか理解できなかったのだろう。

 単純な話である。アミタが余人には捉えられないほどのスピードで、黒服たちにカウンターを決めただけだ。

 僕とアミタは仮面を取り去り、言い放った。


「公務執行妨害の罪状も追加だな。アミタ」

「承知しました」


 壁に叩きつけられた黒服たちは、体勢を整えようと、立ち上がる。


「あ、あん――」


 ドレッドヘアーがアミタと目を合わせると、一瞬驚愕の表情を浮かべた。が、その隙を見逃すアミタではない。

 一呼吸にもならない刹那の瞬間、黒服たちの延髄に一撃を見舞い、昏倒させる。


「違法所持に、違法取引に加えて他にも埃が出てきそうだな。まぁその辺りは僕らの管轄外だが」

「なっ、何なんだお前たちは……ッ!?」

「治安維持管理局特務課だっつっただろうが」


 言いたいことはそういうことではないのだろうが。


「クソッ、クッソォォォォォォ!」

「トイレに行きたいなら今のうちに済ませとけよ」


 ナポリタノは何かを取り出そうとしたが、瞬く間にアミタに拘束され、床へと押さえつけられた。

 その手からは、小型の魔導銃がこぼれ落ちる。


「取り敢えずこれで逮捕完了だな」


 アミタはどこからともなく取り出した手錠で、ナポリタノと気絶している黒服二人を後ろ手に縛っていた。


「管理局の狗どもが……!」

「僕も好きでやってるわけじゃあないからな。大人しくしてろ」

「チッ……クソガキが」


 見た目年齢だけな。


「アミタ、何か噛ませとけ」


 無言で頷いた従順なメイドは、ナポリタノに猿轡を噛ませる。

 さて、これで仕事の半分は完了だ。

 元々、神遺物(アーティファクト)の回収がメイン業務だったが、この出処も調べる必要がある。ナポリタノを捕縛できたのは大きい。


「あとはコイツ持って帰るだけか」

「……! ご主人様、何者かが近づいてきます」

「エイジングか? それにしては早い気がするけどな──」


 別動隊とはまだ連絡は取っていない。だとすれば別人か。

 応接室の扉が勢い良く開かれる。

 息を切らしながら入ってきたのは、オークション会場にて僕に競り負けた黒ローブの男。

 その目は血走っており、ローテーブル上の魔像に注がれていた。


「なっ──!?」

「それはァ! 私のものだァァァァァァッ!!」


 叫びながら、魔像へと手を伸ばす黒ローブ。

 アミタがすかさず手を抑え、その身を床へ押さえつける。


「ぐっ……!」

「すげー執念だな……」

「それは、私のものだッ! 我らが教団から失われた聖なる像! 我が父タサイドンを喚び降ろす神遺物(アーティファクト)!」


 あれで聖なる像とか言われたら、死刑囚ですら聖人扱いできるぞ。禍々しさしかない。

 しかし思わぬところで入手経路が判明したようだ。


「それを寄越せぇぇぇッ! それは本来、我らが手にあるべきものなのだッ!」

「タサイドンを祀る教団か……邪教じゃねーか」

「逮捕致しますか?」


 アミタは男を押さえつけながら、手錠を掲げる。何個持ってんの。


「邪教の話も聞く必要あるしな……公務執行妨害つーことで逮捕しとこう」

「畏まりました」


 公務執行妨害とは本当に便利な罪状である。

 ちなみに、僕たち特務課には逮捕権が付与されてたりする。もちろん、こういった特殊な任務の間だけであるが。


「ふっ……ふっふふふふふはははははは──!」

「どうしたおっさん。バグったか」

「誰も私を止められるものか……! ――終末よ(ソティーク)終末よ(ソティーク)終末よ(ソティーク)! 我ここに願う。我ここに誓う。ナミルハの名の下に現れ契約せよ! 降り立ちて退廃と堕落をこの手に……!」

「――アミタ!」


 アミタがおっさんの口へと猿轡を噛ませようとするが、間に合わず。

 呪文に呼応するかのように、魔像が細かく震え、暗い靄を纏いだす。


「おっさん、使()()()な!?」

「ふふふ、はははははは――ッ! そうとも! その像は我らが父、タサイドンを喚び降ろす神遺物(アーティファクト)ッ! 神を顕現させる化身(アバター)の役割を果たすものだ! これでお前たちは終わりだァ! はははははは!」

「阿呆! 知らないのか! 魔像(こいつ)はな! 使用者の命と魔力を媒介に、地獄(別次元)とのゲートを開く神遺物(アーティファクト)だ! タサイドンみたいな邪神を喚べるもんじゃない」

「はははははは――――はぇ?」


 狂ったように笑っていたおっさんが、引きつった顔でその笑いを止める。


「そ、そんな……! では我らは一体何のために……! ひっ、あがっ!」

「おっさん!?」


 アミタが押さえつけているその下で、おっさんが苦しみだす。

 異常な事態にアミタが飛び退くが、なおもおっさんは白目をむき、泡を吹いている。


「あぐっ! あぶぶうぶぶぶぶぶぶ……」

「――ッ!?」


 目の前の怪異に、拘束されているナポリタノも思わず後ずさる。

 おっさんは……だめか。


「ご主人様――」

「来るぞ……!」

お読みいただき有難う御座います!

宜しければ、ブックマーク、★★★★★評価お願いいたします。

また、ご感想もお待ちしておりますので、ご遠慮なくどうぞ。


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