23頁 遺跡潜行
次の日の朝。
既に起きていたウィルがあり合わせの材料で簡単な朝食を作り、エイクを含めた調査隊メンバーへと振る舞っていた。
野営用の調理器具であったが、モノさえあれば如何ようにも出来る、とウィルには珍しくテンション上げ気味で調理に取り掛かっていた。
限られた状況でどれだけのパフォーマンスを出せるか、ということに挑戦するのが楽しいらしい。
幸いなことに朝食は好評で、男の調査隊員などからはお嫁に欲しいとまで言われる始末。
タイタスまでが冗談めかして賛同していたが、その辺りはエイクが切って捨てていた。
「では、ブリーフィングを始めましょう」
エイクは朝食を食べ終え、ベースに集まった僕たち一行と栄光を掴むものの面々、調査隊員を見回しながら言った。
昨日の時点で、調査隊への自己紹介は済ませているし、栄光を掴むものにメンバーは、タイタスと喧嘩を売ってきたローランの他に二名、エティという少年にマリーニという女が参加していた。
こちらの二人はそれなりに友好的だったので、話はスムーズに進んだのは幸いか。
見た目のせいでエイク以外の調査隊員にはかなり侮られたが、管理局の徽章を見せたら全員が黙り込んだ。流石の効力である。
大まかな状況もお互いに知らされていたようで、昨日のうちに打ち合わせも完了している。これは出発前の再確認だった。
「では、まず第一斑として、おし――管理局局員であるクラフトさんたちに潜っていただきます。彼らには結界の解除をお願いしています」
エイクは僕の方をちらりと見やる。
それを受けて、軽く頷いた。これも昨夜の打ち合わせ通りだ。
未だに疑いの視線が――特にローランから――突き刺さるが、気にはしない。
「なお、この第一班には私も同行させていただきます。解除方法の確認のためです」
「僕たちはその護衛かな」
アミタを含め、他の調査員も無言で頷く。
最初は危険だと他の調査員に止められたエイクだったが、少なくとも問題の積層立体七重封印の張られているポイントまでは平坦な道のりということだ。
既に隊員による調査が完了しているため、安全性には問題ないということで押し切った。
管理局が出張った以上、この現場は管理局預かり――即ち、派遣された僕に指揮権が移っている。
その僕が許可を出しているため、多少の反対はあったものの、最終的には皆が首を縦に振った。
事実、一本道な上、マッピングや魔道灯の設置も終わっているらしいし、目的の場所までの危険要素は皆無と言える。魔物が存在していないのも大きい。
一応、保険を兼ねて、栄光を掴むものが護衛に付く事で最終的に皆首を縦に振っている。
「二班は、私たちが結界の解除を完了させ、安全が確保でき次第、機材を持って遺跡内部へ入っていただきます。三班はベースに残り、一班と二班との交信及びモニタリング、非常時の王都への連絡をお願いします。メンバーは昨日決めた通りです。……何か質問がある方は?」
一同、特に声を上げる者もいなかった。全員が納得済みということだ。
……いや、まぁ納得できていない者もいるようだが、反論したくても出来ないのだろう。苦々しい顔で口をつぐんでいた。
こちとら一応これでも公務だからな。異議申し立てを行うにはそれなりの材料が無いと難しい。
こういう時に公権力というものは役に立つ。
「では、三十分後に調査を開始します。各員準備に取り掛かってください。……では、解散!」
普段、僕たちに見せる態度と違い、魔法学院の主任らしく、テキパキと最低限の必要事項の確認と指示だけ行っている。
どちらがエイクの本当の姿、というわけでなく、どちらも本当の姿なのだろう。
締めなければならないところは締める、緩めるところは緩めると、しっかりメリハリを付けるのが彼女のやり方だった。
いつもの僕たちに相対するあっぱらぱーとは違う雰囲気を醸し出す彼女を見て、僕は素直に感心した。
特務課のメンツと対する時には絶対見せないような、デキる女の姿だ。
「まともに仕事しとるのう……」
「いつもああならな……」
一通り、指示を出し終えたのか、エイクがこちらへと向かってくる。
今日の彼女は、遺跡に潜るということもあってかいつもの白衣とは違い、白のシャツにパンツルック、調査隊のローブを羽織っている。
「お師匠様、ご準備はよろしいんですの?」
「昨日の内に終わらせてるからな、後は向かうだけだ」
流石ですわね、と言いつつ指差す。その先にはぽっかりと口を開けた遺跡への入口が見て取れる。
昨日と同じく、警備が二人立っていた。
「あと、もう少しで出発です。それまで入口前で待機していただけますか?」
「うむ、問題なかろ」
「……おっけー」
僕たちは頷いて、入口前まで移動する。
調査に必要な機材や荷物は、隊のメンバーが持ち込む手筈だ。それ故に僕たちが手にしているものと言えば、携行食と携帯式の魔道灯ぐらいである。
エイクは少し準備が残ってると言って、テントへと戻っていった。
入れ替わるようにして、栄光を掴むもののメンバーが姿を現す。
「クラフトさんたちも待機ですか?」
「まーな」
にこやかな顔で声を掛けられる。
こんな状況でも、爽やかさを一切損なうことないのはもうこれ、才能とかいう次元を超えているのではなかろうか。
「けっ、こんなガキどもに本当に解除できんのか? マリーニとエティですら歯が立たねぇってのによ」
「ちょっとローラン! いい加減にしなよ?」
「へいへい。元宮廷魔法師様には逆らいませんよ」
「アンッ……タねぇ!」
マリーニと呼ばれた女がローランと口論を始める。
それを笑いながら見ているタイタスと、不安げな顔でタイタスとローランたちを見比べているエティという名の少年。
話を聞くところによると、マリーニとエティは魔法師らしい。しかもマリーニは元宮廷魔法師という経歴を持つという。
エティはアンと同じぐらいの年齢のようだ。
やや子供っぽさが抜けていないが、栄光を掴むもののメンバーということは、この若さで探索者の序列は相当上ということになる。
見た目に反して相当な実力者ということだ。
「大丈夫かおい」
「はっはっは。大丈夫ですよ。二人はいつもこんななので」
「いや、そこは止めるなり諫めるなりしとけよリーダー」
「はっはっは」
「止めろや」
爽やかに笑うだけのタイタスに僕はこれ以上何も言わなかった。
遺跡に潜る時にはせめて仲良くしていてくれ。
「お師匠様方お待たせしました……どうされましたの?」
用意が出来たのか、エイクがバッグを抱えて近寄ってきたが、ローランとマリーニの言い争いを見て首を傾げている。
「ウォーミングアップのようなものです。では行きましょうかクラフトさん、エイクリー主任」
▽▽▽
エイクと合流し、遺跡内部へと足を踏み入れる。
先頭は幾度か潜っているタイタスと、アミタ。ローランが最後尾で警戒をし、真ん中に僕らが並んでいる形だ。
フェデラル丘陵の斜面に開いた入口からはなだらかな下り坂になっていた。横幅は1メートルもないが、天井までの高さは4メートルほどもある。
岩をくり抜いて作られているのか、壁には繋ぎ目や隙間はなく、先行した調査隊が備え付けた魔道灯が均等に配置され、内部を照らしていた。
こういった未知の遺跡は、魔物や危険なギミックに対応するために、遺跡に慣れている探索者が注意深く先行するものだが、既に調査隊が内部の探索を終えているので、その辺りを気にせず進めたのは僥倖と言えた。それでもタイタスを先行させているのは、万が一ということもあるからである。
未踏破の遺跡には絶対というものは存在しない。いくら調査が進んでいるからと言っても、何が起こるかは分からない。
用心しすぎて無駄ということはないのだ。
「特に変わった点はないな……あえて言うなら、劣化が殆ど見られないぐらいか」
「ええ、そうですの。遺跡にしては新しいと言うか、風化痕や目立った劣化がありません。周囲の地質調査では5000年以上は経っているはずなのですが」
途中、何度か床や壁を確認するために立ち止まった以外、特に何事もなく足を進めることが出来た。
「地図ではそろそろ……」
「ホールに着く頃ですね」
先の調査隊がマッピング――と言っても一本道なのだが――した地図を見ながら、エイクが進む先を指差す。
通路を抜けたその先は、だだっ広い空洞――人工的なホールのようだった。
天井は先程の通路よりも更に高く、ドーム状になっている。部屋も綺麗な円形になっていた。
正直、丘陵の地下にこれだけの建造物があるだけでも驚きだ。だがこれはまだ遺跡の内部ですらないらしい。エントランスと言ったところか。
入ってきた部屋の入口と逆側の壁には、中心に燃える目のようなものが描かれた不格好に歪んだ五芒星のレリーフが刻まれる扉が鎮座していた。
その手前に、円柱を途中で斜めに切り飛ばしたかのような形のオブジェが床から伸びていた。1メートルぐらいの高さだろうか。
「お二人ともどうかされました?」
ずいぶん難しい顔をしていたのかもしれない。
エイクが心配そうに僕の顔を覗く。
「いや、何でもない」
エイジングは頭を振るが、その視線は、妙なレリーフの扉を凝視していた。
エイクの話だと、その扉が積層立体七重封印の最外層にあたるのだという。
「あれは恐らく、奥に続くであろう扉なのですが、積層立体七重封印が邪魔しておりまして――」
「うーん……?」
「どうされましたの?」
しゃがみ込み、床の手触りを確かめる。
通ってきた通路とは違い、この部屋は床、壁、天井に至るまで、石材ではなく見たこともない材質で構成されていた。
表面はつるつるとした光沢があり、淡い魔道灯の光を反射している。
指で叩くと、コツコツとした乾いた音が返ってきた。
多少のホコリは積もっているものの、発見されて間もない遺跡によくある、カビ臭さや泥臭さは一切ない。
「私もそれなりに遺跡は見てきたつもりですが、このような材質は初めて見ましたわ。もちろん、我々が初めて遺跡に侵入したはずですが、汚れや風化がほとんど見られません」
「解析の結果は?」
「はい。測定器では、結果は不明と出ています。調査隊のメンバーも見たことがないと。どうにかしてサンプルを持ち帰りたかったのですが……」
エイクは指で床を撫でる。
「用意した工具では傷一つ付きませんでした。破砕魔法など使えば恐らくは……というところでしょうが、私個人としては、あまり遺跡の内部を大規模的に傷付けたくはありません」
「なるほど。そうだな」
「まぁ……そうじゃのう」
エイクがこれまでの経緯を口にしている最中、ふと目線を逸らすとウィルが扉前のオブジェに近づいていた。
何の飾り気もないそれも部屋と同じ材質で出来ているようだ。
「ウィル、何があるかわからないから、気をつけろ」
「お師匠様、この部屋は既に調べて何もないことがわかっておりますので、特に危険は無いと思いますわよ?」
確かににそうかもしれないが、遺跡に絶対はない。
話を元に戻し、エイクとこの後のことについて再確認をしようとしたその時。
ウィルが不意に台に手を触れかけたその瞬間――緑色の閃光が走った。
金属を引っ掻いたかのようなけたたましい警報音と共に、作り物のような無機質な音声が辺りに響き渡った。
『――警告。警告。登録外アカウントノ接近ヲ確認。識別ブルー。アウターゴッドノ可能性65パーセント。迎撃プロトコル作動用意。プロトコルノキャンセルニハクラスベータ職員、モシクハアクセス権限シックス以上ノ管理者ニヨル再起動ガ必要トナリマス。再起動サレナイ場合、コレヨリ1分後迎撃プロトコルガ開始サレマス。施設外ニ残留シテイル職員ハ直チニ退避願イマス。繰リ返シマス――――』
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