22頁 栄光を掴むもの
日が傾き、夕食の時間が近づいてきた。
ウィルは飯の用意をすると言って、息巻いて調理場へ向かった。エイジングとエイクも一緒だ。
僕はエイクから一通り説明と引継ぎを受け、渡された資料を元に考察をしようと椅子に座って一服していた。もちろん給仕はアミタである。
不意に何処からともなく声を掛けられた。
いや、これはそんな優しいものじゃないな。
「おいおい、何でこんなとこにガキがいんだぁ?」
無作法に吐かれた言葉は十中八九僕に対してのものだろう。
確かに僕は見た目こんななので、時々こうやって絡まれることがある。と言っても、大抵着ている制服や徽章を見ると黙るのだが。
声のする方を振り返ると、くせ毛の男がこちらを睨んでいた。
背中に携えている大きな魔導銃に、額のゴーグル。鍛え上げられた筋肉と日焼けした肌。
歳のころは三十手前というところか。風貌から探索者だとアタリを付ける。
既にこの遺跡は国によって封鎖されていて、一般の探索者は出入りできない。
よって、ここにいる探索者は唯一滞在を許されているであろうクラン、『栄光を掴むもの』のメンバーに違いなかった。
相手するのもめんどくさいので、無視して資料に目を落とす。
それが癪に障ったのか、男は詰め寄り、更に言葉を浴びせてきた。
「ここは子供の遊び場じゃねーんだぞ……んん? そりゃ管理局の制服か? はんッ、役所は余程人手不足なんだな。ガキでも管理局に入れるなんてよォ」
アミタが反応しかけていたが、視線でそれを制する。
しかしまぁ、管理局と探索者組合は仲が良くないとはいえ、栄光を掴むものにもこんな面倒な奴がいるんだな。
王都の探索者組合のトップクランじゃなかったのか。
「そういやタイタスの奴が、追加の人員が来るとか言ってたな……まさかお前がそうだって言うのかよ! へっ、マジか! どんだけだよ管理局ってのはよ!」
にしてもこいつ一人でよく喋るな……おしゃべり好きか。
「けっ、何とか言ったらどうなんだ、ええ?」
無視し続けてられて業を煮やしたのか、僕の服を掴もうと手を伸ばす男。
その瞬間、僕の後ろに立っていたアミタの腕が伸び、男の手を掴んで外側に捻った。
「いっ、いででででででぇ!!」
アミタは大して力を入れていないかのように見えるが、男は大げさすぎるぐらいに声を上げて蹲る。
そんな声を聴きながらも、アミタは容赦なしに更に捻りを加えていく。
「いだっ! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! や゛め゛っ! や゛め゛でっ!」
大の男の情けない声が響き渡る。
そんな叫声が聞こえたのか、テントや馬車から何があったのかと、数人の調査隊の面々が顔を出す。
ちょっとした人だかりができるが、皆揃いも揃って、怪訝な顔をする。
まぁ、そりゃメイド服の女が大の男を文字通り捻じ伏せていればそうなるわな。
「はなっ! 離せっ!」
「簡単に手を取られるとは……トップクランが聞いて呆れますね」
飽きたのか白けてしまったのか、アミタは仕方なく手を放す。
放すやいなや、男は後ろに飛び退いて距離を取り、背中の魔導銃に手をかけた。
ウィルの背丈ぐらいある大きなものだ。十全に扱うには相当な技術がいるだろう。
「てめぇ! やりやがっ――」
それは男が銃口を向けたと同時だっただろう。
気が付くと、男は地面に抑え込まれ、アミタがその魔導銃を彼の後頭部へと押し付けていた。
銃を向けられた瞬間、アミタは銃身を掴んで自身に引き寄せ、叩き落し、そのまま腕を捻って男を引き倒したのだろう。
目にも止まらぬ早業。流石である。
「ぐがッ!」
「さて、このまま撃ち抜いても良いのですが」
「後処理が大変だぞ」
僕は男を見ながら笑って言う。
その言葉に、身動きできない男は顔を真っ青にしていた。
「や、やめっ……!」
「その辺で止めてあげてください」
人の輪をかき分け、出てきたのは二十半ばの青年だった。
似合いすぎているぐらい似合っている、軍服をモチーフにした服装。腰に携える直剣。
もう暗くなるというのに、肩を越えるぐらいに伸ばされたその長髪は、黄金色に煌めいていた。まるで御伽噺の王子様のようである。
まぁ、彼が出てきたならこの辺りで止めるべきか。
「アミタ」
「承知しました」
押さえつけていた男を放し、その眼前に魔導銃を放り投げる。
蹲る男を庇うように、金髪の青年が立ち塞がる。
「……お久しぶりです。アミタさん。クラフトさん」
「まぁ、栄光を掴むものが出てるって時点で、お前がいるとは思ってたけどな」
そういう僕の言に答えるかのように、爽やかな笑みを浮かべる青年。
街の婦女子であれば十中八九堕ちそうになるであろう、その魔性の笑みを浮かべるこいつこそ、探索者組合プロヴィデンス支部が要する国内トップクランのリーダーであった。
「お久しぶりです。タイタス様」
「本当に久しぶりですね。ああ、それとウチの者が失礼しました」
そう言って軽く頭を下げるタイタス。
ギャラリーが見てる中、リーダーが簡単に頭を下げるべきではないと思うが、謝罪は素直に受け取ろう。
「気にすんな」
「でも、クラフトさんも無視するのが悪いんですよ」
「第一声がアレだと、反応すれば喧嘩買うことになるだろうが。というかお前、最初から見てやがったな。止めろや」
「いやはや、何のことやら」
肩をすくめてとぼけ顔をするタイタスであるが、こんな姿も絵になるというのだから、真のイケメンはズルい。
「まぁ、クラフトさん――アミタさんがいる時点で、こうなるのはわかりきってましたからね。あ、彼はローランと言います。ちょっと前にウチに入ったんですよ」
タイタスが蹲っていた男を指さす。
ローランはバツが悪いのか、不貞腐れたように顔を逸らした。
「ローラン、だから言っただろ。僕でも敵わないのに、君が敵うわけないじゃないか」
「けっ、たまたまだろ。それにお前が敵わねぇってのもあり得ねぇ。序列一桁のお前が、この女に負けるってのか」
「うん」
ローランの言葉に即答するタイタス。
その反応が意外だったのか、ローランは目を丸くしながら口をぱくつかせ、アミタとタイタスを見比べていた。
「100回やったら1000回は負けるんじゃないかな」
「計算間違ってんぞ」
「簡単なことですよ。アミタさんなら僕が1回死ぬ間に10回は殺せるでしょ?」
「流石にそれは大げさ過ぎます、タイタス様。せめて5回にしていただけますでしょうか」
「「変わんねーよ」」
一同、心の中で同じことを思ったに違いない。
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